語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【INET】「善意」を装った情報収集・解析アプリの危険性

2014年04月08日 | 社会
 (1)知人から、「漢字変換がおかしい。単語登録してあったはずの言葉が出てこない」と相談があったので、見に行った。
 確かに変換効率が悪いし、登録してあった単語が変換されない。調べてみると、「バイドゥ(百度)」という中国製のかな漢字変換システムがいつのまにかインストールされていた。常識的なウィルス対策はしてあったが、「バイドゥ」はいわゆるコンピュータ・ウィルスではなく、アプリケーションだ。ウィルス対策をすり抜けていた。
 不都合なのは、変換した文字がいちいち中国の同社のサーバーに送られてしまう点だ。つまり、何を書いていたのか、丸わかりなのだ。
 一部の役所のPCにこの「バイドゥ」が入り込んで、機密漏洩が懸念されたニュースを目にした人も多かろう。

 (2)市井のユーザーに特段の機密があるわけではなかろう。が、削除しようとすると、萌えキャラが出てきて「お願いですから削除しないでください」と懇願してくる。
 かまわず削除すると、アンケートソフトが立ち上がって、ビジネスソフト然として「どのような点が不満でしたか」と訊いてくる。
 忍び込むだけなく、削除されない工夫もされているのだ。

 (3)すべて削除してリスタートしたところ、今度は「グーグルプラス」のインストールの勧めが出てきた。
 このソフトはパソコンのデータを無料でインターネット上にバックアップしてくれるものだ。パソコンが壊れた際にデータを復旧できるのだが、無償なのには裏がある。テキストはもちろん、画像データすら解析される。数百枚の写真を幾億人かのユーザーがバックアップとして登録すると、その写真の中から、同一人物を探し出して、誰がどこにいて、どういう交友関係であるかがわかる仕組みだ。

 (4)被害妄想でもSFでもない事実なのだが、(3)と同様のシステムがJR大阪駅の監視カメラに導入されようとした【注】。人物特定のためだ。
 反対の声があがって、頓挫したが。
 「バイドゥ」の思惑は不明だが、「グーグルプラス」は広告の精度を上げるために情報を収集し、解析している。商業ベースで稼働しているのだ。

 (5)「バイドゥ」や「グーグルプラス」のようなスパイウェアは、いわゆるコンピュータ・ウィルスではない。通常のセキュリティソフトでは新入を防ぐことはできない。
 むしろ“善意”を装ってインストールを勧めてくる。無償で、出来映えもいい。グーグルが提供するかな漢字変換システムは、インターネット上の膨大なテキストに基づいて稼働するので、とりわけ固有名詞の変換に強い。使いようによっては、市販のソフトよりも便利だ。
 ただし、プライバシーを代償としなければならない。

 (6)自衛するには、かなりの知識がいる。
 個人情報を収集してまわるソフトを、善意を装って、こっそり導入させるのは社会的公正に照らしてどうなのか。 
 「バイドゥ」は問題視された。無償ソフトと広告のあり方についても、社会的合意を形成すべきだ。

□谷村智康(マーケッティング・プランナー)「“善意”を装った情報収集・解析アプリの実態 広告はプライバシーにどこまで踏み込むのか ~谷村智康の経済私考え~」(「週刊金曜日」2014年4月4日号)
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