語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】個人の蔵書の社会的活用

2013年02月14日 | 社会
 (1)本好きにとって、本は生きものだ。ペットと同じように、あるいはそれ以上に大事にするという意味でそうだし、放っておけば勝手に増えてくる、という意味でもそうだ。
 問題は、どこにしまうか、だ。立花隆の猫ビルのように書斎を独立して建てる人もいるが、それはごく例外だ。
 せいぜい別荘に保管するくらいだ。

 (2)成毛眞(57歳)・投資コンサルティング会社「インスパイア」社長/早稲田大学客員教授/ノンフィクション専門書評家は、「集合本棚」を思いついた。作家、編集者、学者、ジャーナリストらが蔵書を持ち寄り、オフィスや店舗の空き空間を利用して共同で本を所蔵するのだ。持ち主はむろんのこと、利用を許可された人も、その場で自由にすべての本を読める・・・・という計画だ。
 第1弾の「集合本棚ライブラリー」を、東京は神保町の近くの再開発ビル(4月開業予定)に作れないか、検討中。
 本に親しんだ団塊の世代のリタイアが進む。蔵書は散逸してしまえばただの古本だが、意味を持ったまとまりで残せば知的財産になる。【柳瀬博一(48歳)・日経BP社編集者】
 各本棚に所有者の名札や略歴を記したプレートを貼る。その人の書斎や脳内をのぞき見る感じで、面白いのではないか。【成毛】
 2月6日の打ち合わせでは、盛んに意見が交わされた。
 ファッションや料理、歴史など、街の特色に合わせた集合本棚を各地に作れば、事業化も可能だ。会員制にして低料金で利用してもらえば、書店や図書館とは異なる本との出会いの場になるかもしれない。【成毛】

 (3)本を、より開かれた場へ持ち出す試みを続けている人もいる。
 幅允孝(36歳)は、国内唯一の「ブックディレクター」だ。依頼主の要望に応じて選書し、本棚を演出するのだ。
 幅が、東京の青山ブックセンターで働いていた2000年、米ネット書店「アマゾン」が日本進出した。客も売り上げも減り続けた。かくて、ただ書店で待ち続けてもダメなことを痛感。「本に公共性を持たせて、人がいる場所に本を持っていく仕事」に転じた。2005年、会社「バッハ」を設立。仲間3人と病院や企業、飲食店などの本棚作りや本を巡るイベントに取り組んできた。
 幅の手がけた本棚は、堅い本の隣にマンガやCDを並べたり、一見関係ない本同士を共通のテーマで並べたり、自由な雰囲気が漂う。
 「この本を読みなさい」と押しつけるより、自発的に手にとってもらえる環境をつくりたい。【幅】
 自宅マンションの玄関やトイレにも自作の棚をめぐらせ、本に囲まれて暮らす。
 紙の本には強い実存感がある。背表紙を眺めて存在を浴びるだけでも、新たな発想へのポジティブなつまずきを得られる。雑誌の電子データ化を始めたが、蔵書の処分は考えたことすらない。【幅】

 (4)以上、(2)は「集合本棚」の構想、(3)は「本棚の演出」事業で、朝日紙が伝えるところ事例だ。
 紙媒体の本を地域社会で活用する方法はほかにもあると思う。

□記事(藤谷浩二)「蔵書持ち寄り「集合本棚」 持ち切れぬ本、共有化を計画」(2013年2月11日付け朝日新聞)
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【社会】アルジェリア人質事件の補償金の格差 ~軽い「派遣の命」~

2013年02月13日 | 社会
 (1)「日揮」(従業員約2,200人)規模の企業は、社内規定によって補償金や弔慰金を遺族に払う場合が多い。
  (a)業務に絡んで死亡した社員の遺族に企業が支払う①補償金は平均3,100万円、②弔慰金は350万円(支給に供えた保険に加入している場合)だ。【労務行政研究所が上場企業を対象に行った調査、2011年】
  (b)加えて、大手社員であれば国から労災保険金が出る可能性が高い。労災保険は、企業が「海外派遣者特別加入制度(任意)」の手続きをし、保険料を納入していれば、海外における労災もカバーされる。海外赴任者を何人も抱えている大企業は「特別加入」しているところが多い。他方、中小零細企業は、制度を知らない等の理由から、未加入のところが多い。

 (2)「派遣」の仕事内容は、大手社員と、必ずしも大きな違いがあるわけではない。今回のような海外でのプラント建設の現場では、正社員を指導する立場の人もいる。
 技術者として派遣される人には、海外で大型工事をいくつも経験してきた人もいる。彼らは、外国人たちと一緒にプロジェクトをスムースに進めるマネージャーの力量があり、最近の工事では、正社員たちが彼らのようなプロフェッショナルから教わることが少なくない。例えば、犠牲者のひとり渕田六郎は、クウェート、サウジアラビアなど中近東でのプロジェクトに携わったベテラン技術者だった。【草柳俊二・高知工科大学教授】
 海外プロジェクトを受注した企業は、かつては自社社員で工事を進めることが多かった。しかし、1980年代のバブル期以降は、仕事量が増えたこともあって、外部の技術者・技能者をどんどん使うようになった。それがコスト削減と競争力強化にもなり、企業は外注の傾向を強めた。その結果、企業に海外でも能力を発揮できる基礎技術をもつ人材が減り、数百人規模で存在する独立系ベテランが重宝がられるようになった。ただ。高齢化が進み、今回犠牲になった派遣スタッフ5人も、3人が60歳前後(最高齢は72歳)だった。【草柳教授】

 (3)海外における大型工事を支えているのは、前記ベテラン技術者のほか、仕事に魅力ややりがいを感じている個人だ。派遣スタッフの犠牲者の中でもっとも若かった内藤文司郎(享年44)もそうだ。
 60~80万円の月収があったが、独身でミニカー以外に特段の趣味はなく、金が目的で海外に行ったわけではなかった。そして、現場の危険性について、あまり気にした様子はなかった。【弟・内藤二郎】
 アルジェリアは、過去に今回のような事件は起きていなかったので、特に危ないという認識はなかった。報酬も、他の国に比べ、特別高くはなかった。【稲塚博・「エーアイエル」社長】
 警備などの安全対策、宿舎や食事は、正社員も派遣も、原則として違いはない。【草柳教授、稲塚社長】
 ただし、勤務地の治安情報は、派遣先の企業から提供される。【関係者】
 派遣が得られる情報の中身や量は限られる場合があるかもしれない。

 (4)内藤文司郎の遺族に対する補償は、現時点でほぼ確実なのは、「エーアイエル」がかけていた海外旅行保険だけだ。

□田村栄治(編集部)「「派遣」の命は軽いのか」(「AERA」2013年2月18日号)

 【参考】
【原発】アルジェリア人質事件の背景 ~日本の原子力研究を支える「日揮」~
【社会】世界水準の危機管理でも防げない武装勢力の襲撃
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【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負

2013年02月12日 | 社会
 (1)派遣と請負の違いは何か。
  (a)労働者派遣・・・・自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること。【労働者派遣法第2条第1項】 よって、労働法上の労働者として法の保護を受けることができる。
  (b)請負・・・・労務提供者は雇用関係を結ぶことなく注文主と契約し、報酬と引き換えに一定の業務を遂行する。労務提供者は労働法によって守られる労働者ではないが、注文主からの指揮命令は受けない。仮に指揮命令が行われた場合、違法な偽装請負となる。労務提供者が刑事告発すれば、労務の受託者ともに1年以下の懲役、100万円以下の罰金が科せられる。

 (2)昨秋、偽装請負が教育現場でも起きていることが明らかになった。
  (a)Aさん(29歳、女性)は、2009年秋に派遣会社「イスト」(東京都渋谷区、「代々木進学会」の名で家庭教師派遣事業も行う)に登録し、「授業1コマにつき9,000円」の請負契約を結んだ。
  (b)私立X高校(埼玉県北部)は、「イスト」と請負契約を締結した。
  (c)Aさんは、X高校で2010年4月から2012年3月まで、2年間X高校に勤務。社会科担当。着任後、X高校から直接業務指示を受け、最低でも10時間はかかる試験問題の作成やその採点、赤点生徒のフォローも行った。さらに、校内研修への出席も事実上義務づけられていた。しかし、「イスト」との契約が「コマ契約」であるため、これらの業務はすべて無報酬でさせられていた。
  (d)Aさんの在職時、X高校には合計26人の非常勤講師が在籍していた。うち一昨年は10人、昨年は13人の講師がAさん同様の個人請負(いずれも「イスト」と契約)だった。部活動の指導や引率まで頼まれ、断りきれずに引き受けた請負の講師もいた。
  (e)X高校では、Aさんら非常勤講師は、正規の教員とは別の職員室で働かせた。これら非常勤講師は、有給休暇の取得や私学共済への加入ができなかった。私学の中には、集10コマ勤務の非常勤講師でも私学共済に加入できる学校もあるが、X高校ではそういう配慮は一切していなかった。
  (f)Aさんの年収はおよそ160万円。学校における授業とは別に、飲食店とコールセンターのアルバイトをかけもちした収入を含めた額だ。
  (g)Aさんは、昨年3月、学校から直接業務指示を受けて働いているにもかかわらず、身分は「請負」のままであったことを東京都労働局に告発した。
  (h)東京都労働局は、調査の結果、昨年9月14日、「イスト」とX高校に対してして是正指導を行った。

 (3)派遣労働者として教壇に立つ教員は、年々確実に増えている。ある調査によれば、全国の私立学校のうち、少なくとも35校に派遣・請負の間接雇用非常勤講師がいる。人数にして140人。うち請負は5校27人にのぼる。
 派遣講師の大部分が、3年を超えることなく契約が打ち切られる。当然、派遣講師は派遣3年目には次の職場を探す就職活動にエネルギーを奪われる。
 教員の雇用劣化は、私学の教育水準低下に直結する。

 (4)教員派遣事業を展開している会社は、「イスト」以外にもいくつか存在し、大手と呼ばれるところの多くが、有名進学熟の系列会社だ。
 教師たちは、企業の商品となり、差別待遇を受けている。その教師が、多感な時期にある生徒たちの授業を行う。
 生徒たちにとって、目の前に存在する「社会的不公正」が何よりの「教育」となるわけだ。

□古川琢也「アルバイトで生活費かせぐ派遣教員」(「週刊金曜日」2013年2月8日号)
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【社会】「かけこみ退職」に走る教育現場の実情 ~退職金減額に対する自衛策~

2013年02月11日 | 社会
 (1)3月を待たずに早期退職する教員について、マスコミでひとしきり話題になった。
 ネットでも話題になったが、もう下火になったらしい。

 (2)実にヘンな社会事象だった。
  (a)会計年度は3月までだし、教員の定年退職は通常は年度末なのに、全国で16都府県が退職金を引き下げる条例改正の施行をわざわざ2月(or1月)とした。1ヵ月(or2ヵ月)多く働いたら、3ヵ月分か、それ以上の年間収入が減るような制度改正は、尋常でない。
  (b)全国で172人も、「かけこみ退職」が起きた。
  (c)「かけこみ退職」に対して、保護者その他が「教員は最後まで子どもを見るべし」と好き勝手に主張した。
  (d)(c)の主張のように、それまで見ていた教員が子どもたちが巣立つまで見るのが妥当であるならば、都道府県は、(a)の制度改正のために早期退職した教員を非常勤職員として再雇用すればよい。適任だからだ。早期退職後、無給でもボランティアとして子どもたちと最後まで向き合う、という教員もいるのだから、そうした教員を充てれば世間の不満を解消できる。
  (e)しかし、例えば兵庫県は、2月末退職教員が再任用を申請し、無給でもよいから子どもたちと向き合わせてほしい、と再三兵庫県に申し入れても、「2月末退職者は再任用しない」「無給奉仕も認めない」「欠員は非常勤講師から募集するが、適任者が見つからない時は欠員とする」・・・・と回答した。兵庫県の措置は、子どもや保護者のニーズに応えるものではなく、2月末退職者に対する報復措置にすぎない【注1】。

 (3)ヘンな状況に対する正常な反応は、ヘンな行動をとることだ、とアウシュビッツ収容所を生きのびた精神科医、V・フランクルは言っている。
 理不尽な制度改正をされると、次のような自衛策をとりたくなる教員も出てくるらしい【注2】。いささか子どもじみている対策だが、そういう気持ちになるのも無理はない。
  (a)教員には、仕事に私費を投入している人たちが多い。クラスや部活に投入した私費が、最高グレードの軽自動車を買ってもお釣りがでるくらいになっている教員もいるし、もっと私費を投入している熱血漢は全国に数多くいる。だから、クラスや部活の業務には私費を一切使わないことで、在職中に退職金目減りに対して自衛しておく。
  (b)北海道では、「給与の独自削減を4年間行う」と、行政は白々しい嘘をついて、4年間経っても元に戻すことなく今日に至っている。この先、退職金を400万円削減するようだが、それで終わるまい。腐敗して闘わない組合(<例>北海道教組)から脱退する。生涯払う組合費は、少なく見積もっても400万円を超える。組合員も激減している今日、闘ったことのない教員の子どもや「公務員の給料・退職金を減らせ」と主張する連中の子どものために、私費を払って闘う必要はない。

 (4)教育現場は特有のストレスに満ちている。172人の「かけこみ退職」は、退職金減額だけが理由ではない。1ヵ月でも早く辞めたい、というのが本音だろう。教育現場の労働環境が、次のように、日増しに苛酷化しているからだ【注3】。
  (a)本音が言えぬほど息苦しい。日本の教育改革は、生徒のためと称して教員を締め付ける。
  (b)教育現場の問題は、教員の指導力不足による、とされる。
  (c)単位未修得は教員の指導不足にされる。だから、何が何でも合格点を取るまで補習や追試を続けなくてはならない。教員は手抜きできない。全体として試験問題は易しくなり、高校教育のレベルは低下する。
  (d)高校では、100点中30点とれば、単位がもらえて進級も卒業もできる。「100のうち30分かれば合格」という基準は、他の社会集団では通用しないだろう。
  (e)先進諸国の学級は、たいてい20人程度だ。学級の少人数化は、教育の基本だ。しかるに、文科省は、小中の全学級を35人にするのを断念した。
  (f)「心の病」などで長期療養する教員が増えている。その補充には、正教員ではなく非常勤を充てるか、それも行われていない場合が多い。

 【注1】酒折有美子(59歳、教員)「【投書】教員の「かけこみ退職」でマスコミが伝えないもの」(「週刊金曜日」2013年2月8日号)
 【注2】今井雅晴(47歳、教員)「【論争】個々人で補填するしかない」(「週刊金曜日」2013年2月8日号)
 【注3】佐々木健悦(65歳、高校非常勤講師)「【投書】「かけこみ退職」の本音」(「週刊金曜日」2013年2月8日号)
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【政治】何事も学ばず、何事も忘れない自民党 ~公共事業~

2013年02月10日 | ●片山善博
 (1)安部新政権は景気対策の名のもとに公共事業を大判振る舞いする方針だ、と報じられている。先の首相所信表明演説でも、「機動的な財政政策」の必要性を強調し、補正予算の速やかな成立を促している。
 かつて自民党政権は、公共事業に大金を投じ、さしたる成果をもたらすことなく借金の山だけを残した。従来型の公共事業が似たような結果しかもたらさないことは、容易に想像がつく。

 (2)経済の疲弊と雇用情勢の厳しさは、大都市圏より地方圏で顕著だ。
 公共事業は、地方経済を蘇生させる原動力になりうるか。残念ながら、従来型の公共事業が地方経済を停滞から救うことは、まず、ない。土木建設事業者が一息つけること、必ずしも魅力的でない雇用が多少増えること、くらいの効果でしかない。
 <例>道路事業
  (a)予算の何割かは土地代に回る。通常、土地を売った地主が起業したり、人を雇ったりすることはない。売却代金は金融機関に預けられ、その資金の多くは国債購入に充てられている現状では、土地代が地方経済に及ぼす影響はほとんどない。
  (b)鉄、セメント、アスファルトなどの資材の大量調達も、地方経済に効果をもたらさない。例えば取県の場合、製鉄工場はないし鉄の鉱山もない。経済効果のほとんどは国内他地域あるいは海外に流出し、域内に留まることはない。
  (c)建設作業員の給与費は、確実に増える。しかし、公共事業費に占める人件費の割合は、事業にもよるが、さほど大きくはない。しかも、トンネルや橋梁などの大規模工事のほとんどは大手ゼネコンが受注し、地元業者は下請けか孫請けに甘んじる。そこに雇われる従業員の待遇は、決して恵まれたものではない。その乏しい雇用すらも、いずれ公共事業が縮小すればそこで途絶えてしまう。

 (3)景気対策としての公共事業に求められるのは即効性だ。その結果、地方では何が起こるか。
 <例>道路事業
  (a)地域住民にとって優先度が高いのは生活道路であることが多い。2012年4月、京都府亀岡市で登校中の児童がはねられ、3人死亡した。無免許居眠り運転に原因があるのは明らかだが、あの道路に段差のある歩道とガードレールが設置されていたら、事故は未然に防げた可能性がある。その後の調査によれば、全国の通学路にある危険箇所は7万か所にのぼる。
  (b)生活道路に歩道をつけるには時間がかかり、即効性は期待できない。   
  (c)安部総理所信表明演説において、補正予算の重点分野として「暮らしの安心・地域活性化」を強調した。しかし、生活道路などを安全にするための工事は、即効性が求められる景気対策の中では取り上げられ難い。こうした実情を総理はどれほど認識しているか。
  (d)国の各省の縦割りの弊害もある。県内で急がれる高速道路の建設には①国交省の予算が不足し、他方、県内ではこれ以上必要のない農道に係る②農水省の補助金に余裕がある場合で、②から①へ回す措置をとることが国にはできない。

 (4)片山教授は、総務大臣時代、国庫補助金改革を担当した。(3)-(d)のような弊害を除去する改革を行った。補助金をまとめて都道府県に配分し、その使途を都道府県に委ねる仕組みを取り入れた(「一括交付金」)。ムダは、都道府県で自主的に解消できることになった。
 さらに、これまでにない新しいタイプの一括交付金を構想していた。原発のない沖縄県など、道路などの従来型の公共事業より自然エネルギー開発の優先度が高い。エネルギー自給率を高めることができれば、富の域外流出を減らすことができる。地域経済の将来にもたらす効果は、すこぶる大きいはずだ。
 
 (5)ところが、安部政権はせっかくの一括交付金制度をはなから廃止し、十全の縦割り・ひも付き方式に戻す方針のようだ。国会議員が官僚に口を利き、地元に補助金を持ち帰る。こうした政治家と官僚の古い「ビジネスモデル」をまたぞろ復活させたいわけだ。先祖がえりというほかはない。
 いま各都道府県に対して政府は、補正予算が国会に提出されてもいないのに、既に予算の配分予定額を示し、事業予定箇所をリストアップするよう言っている。自然エネルギー開発などの新型事業は想定していないし、即効性の観点から今年度内に着手し来年度中に完成する事業に絞れ、と指示している。
 仕組みもやり方も以前と何も変わっていない。これでは疲弊した地域経済を救わず、生活道路は手つかずのまま残される。それでいて、各省縦割りの弊害と政治家の口利き利権だけは元気に甦ろうとしている。

 (6)何事も学ばず、何事も忘れず。革命とナポレオン帝政が終わった後に戻ってきたフランス貴族たちと同様、王政復古ならぬ政権復帰した自民党も、こと公共事業に関しては何も学んでいないし、何も忘れていない。

□片山善博(慶應義塾大学教授)「何事も学ばず、何事も忘れず ~何も変わらない公共事業 ~日本を診る」第41回~」(「世界」2013年3月号)
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【佐藤優】青春の旅 ~プラハ・ワルシャワ~

2013年02月09日 | ●佐藤優
 (承前)

 エジプト航空機は年代物のボーイング707で、羽田空港を立ってから40時間、チューリッヒ空港に着いた。チューリッヒで一泊。ユースホステルでドイツ人のバックパッカーから勧められたシャフハウゼンの滝を見物し、この町(ドイツとの国境)に一泊。
 自分でも驚いたが、高校1年生1学期を終えただけの貧弱な英語の知識で、ドイツ人と政治情勢や日本文化に関する意思疎通ができた。これで東欧に入る不安が少し解消された。
 シャフハウゼンから2等列車でシュトゥットガルトまで行き、そこからプラハ行きに乗り換えた。乗り合わせたドイツ人女性(妹が同行)は、佐藤は後になって知るのだが、「プラハの春」に関与したチェコ人と結婚した人らしい。ワルシャワ5ヵ国軍の軍事侵攻によって潰された後、国際結婚をした知識人の出入国が難しくなり、外国人がチェコ人のパートナーを訪れることが多くなった。
 細部は省く。国境を越えてプラハに着いたのはよかったが、ホテルがとれない。ようやくその夜だけは泊まる場所を確保したが、その後の予約ができない。社会主義時代の東欧は慢性的なホテル不足で、特に観光シーズンの夏のプラハはホテルの予約をしないで訪れるのは無謀だった。
 翌日早朝、ワルシャワへ向うべく、国営旅行者「チェドック」で手続きした。カウンター前で半日待ち、21時発の2等寝台を買った。疲れ果ててベンチに座り込み、ひたすら列車がやってくるのを待った。

 プラハの印象は散々だったが、ワルシャワではプラハとまったく異なる愉快な生活が待ち受けていた。5日間滞在した。
 ワルシャワ市の中心にあるユースホステルは、ベッドはしっかりしているし、管理人は親切だった。管理人は、ハンガリーへ向けて出立するとき、有益なアドバイスをくれた。当初、列車で移動するつもりだったが、ハンガリーだけでなく途中経過するチェコスロバキアのオランジット・ビザを持っていなければならない。写真を4枚用意して、チェコスロバキア大使館に半日並んで書類を提出し、翌日、また半日並んでビザを受け取る。手数料を20米ドルくらい取られる。管理人は、東欧間は航空運賃が安いからブタペシュトには飛行機で行くように、と勧めた。手間と経費を考えれば、寝台列車で移動するのとほとんど変わらない。助言にしたがい、空港のポーランド国営航空に行くと、切符は簡単に買えた。代金は50米ドル足らずだった。
 さて、ワルシャワだが、物価がおそろしく安い。1日当たり10米ドルを強制両替させられるのだが、ユースホステル代が1泊3米ドル程度、食事もユースホステルに隣接する大衆食堂でとると1食1米ドル足らず。ワルシャワ唯一の中華料理店「上海飯店」で酢豚を食べても5米ドル程度。どうしても余る。出立の日に残った20米ドルは、親しくなった東ドイツの大学生にプレゼントした。
 ポーランド人は親日的で、とても親切だった。ユースホステルの隣の大衆食堂で食事をしていると、30歳代くらいの男4人から、たどたどしい英語で「日本人か」と話しかけられ、感じのよい連中なのでしばらく話を交わしていると、家に誘われた。少し不安だったが、思い切ってついていった。4人のうち一人に前日子どもが生まれ、奥さんは産院に残し、男たちでパーティをする、とか。新興団地の上階、80平米くらいの部屋で、日本の標準的な3LKDの団地よりずっとよかった。ショットグラスにウオトカをつがれ、飲み干した。外交官になってから浴びるほど飲むウオトカの初体験だった。男たちは、秘蔵のポルノ写真を見せてくれたり、ポーランドの古銭、バッジ、テーブルクロスを土産に持たせてくれ、20時過ぎにタクシーを拾ってユースホステルまで送り届けてくれた。
 この体験で、ポーランドに好感をもつとともに、東欧社会主義国は食料事情や住宅事情が日本よりもよい「豊かな国」だという印象を強くもった。
 外交官になってから実証的に調べたところ、ワルシャワ、プラハ、ブタペシュトなどの1970年代半ばの生活水準は、特に食に関しては西ヨーロッパより高かった。ソ連でも共通することだが、この頃、共産圏では一種の愚民政策がとられ、食品、酒などの供給を充実し、生活レベルで国民の不満が出ないようにしていた。ソ連・東欧でも共産党や公営企業の幹部は長時間拘束され、実によく働く。しかし、一般労働者は働かない。1日の実質労働時間は3~4時間で、土日には郊外の畑付き別荘で家族とゆっくり過ごす。夏の休暇は2ヵ月で、政府機関や国営企業の負担で、3食付きリゾートホテルのようなもの(「サナトリウム」)でゆっくり休養する。東欧では、共産圏内の海外旅行も当たり前になっていた。
 それは、イデオロギーに関心を持たず、日常生活の「小さな物語」を中心に生きていく安定した社会だった。東側が理想的な社会である、といった幻想を持っているわけではなかったが、西側のプロパガンダで言われているような、「圧政の下で呻吟する国民が自由を渇望している」わけではなかった。佐藤が今にして思えば、結局、人間は環境への順応能力が高い保守的動物なので、どのような体制にでも適応して、それなりに快適な環境を作っていく、ということなのだろう。そして、その環境から作られる文化に人々は愛着をもつ。東欧のマルクス・レーニン主義は、社会に根づく前にナショナリズムに飲み込まれてしまったのだ。
 佐藤は、チェコスロバキアでもポーランドでも、マルクスやレーニンの話は一度も聞かなかったし、肖像画も目にしなかった。彼らの肖像画を初めて目にしたのは、ハンガリーの、それも首都ではなくバラトン湖畔でのことだ。

 (続く)

□『私のマルクス』(文藝春秋社、2007。後に文春文庫、2010)
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【佐藤優】青春の旅 ~東欧への旅立ち~

2013年02月08日 | ●佐藤優
 佐藤優は、小学校6年生の夏休み、復帰前の沖縄で過ごした。沖縄本島の西、母方の祖父母が住まう久米島で。慣れない食生活のせいか、肝炎にかかって、3ヵ月間休学した。父親は、長期休学による学業遅延に結果する自信喪失に配慮し、アマチュア無線技師の免許をとらせた。
 母には14歳年上の兄がいて、尼崎市在住の社会党員だった。彼は市会議員、ついで県会議員を務めた。マルクス主義に強い関心を寄せながら、民青や共産党に引き寄せられなかったのは、そして講座はよりも労農派に惹きつけられたのは、母と伯父からの影響があった。、
 中学2年生のとき、ハンガリーのスジゲトバリ・フェレンス(4歳年上)と文通を開始した。
 短波無線で、ロシアや東欧のラジオ放送を聞いた。しかし、主たる関心はいつもハンガリーに向けられていた。

 中学生時代、学校秀才型と肌合いが合わず、「暴走族予備軍」と仲良くしていた。
 この元気のよい連中は、教師に告げ口せず、身内を守る。互いに助け合い、仲間内の掟に忠実で、この感覚が佐藤の性に合った。また、番長格の参謀役を務めていると、攻撃されなかった。元気のいい連中との付き合いを通じて、佐藤は安全保障とはどういうものかを体感した。こう経験は、外交官になってから役立った。ソ連崩壊後の混乱期に、ロシアの国会にはマフィア組織の幹部が進出してきた。こえらマフィア国会議員は機微にふれる情報をたくさん持っているので、大使館の上司たちが近づきになろうとするが、うまくいかないl。しかし、佐藤はたいした苦労もなく信任を勝ち得た。暴走族予備軍と付き合うときの要領でアプローチしたらうまくいったのだ。

 中学校では知的欲求を満たすことはできなかったが、学習塾の教師から多くを学んだ。早慶学院の英語教師は、徹底的な詰めこみ教育を行った。知識を徹底的に詰め込むと、ある段階から知識自体が動き出し、自分の頭で考え始めるようになることを、ここで体得した。
 この教師は、佐藤を可愛がり、家に訪ねてきて父親となんどか酒を酌み交わした。2人で信州の穂高まで一泊旅行したこともある。この教師の下宿で、ルカーチを知った。また、彼から、民青に対する批判を聞いた。

 佐藤は、私立高校への進学を希望していたが、夏休みの海外旅行と引き換えに、1975年、埼玉県立浦和高校を受験した。合格した。サークルは、生徒会本部、文芸部、応援団に入った。文芸部には2年先輩の初見基・新聞部長がよく顔を出し、福本イズム復権を熱っぽく語った。
 高校1年生の夏、スイス、西ドイツ、チェコスロバキア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ソ連を一人旅した。ソ連では、ロシアのモスクワのみならず、ウクライナ、ウズベキスタンのタシケント、ブハラまで足を伸ばした。
 ようやく安売り航空券が出回るようになったが、まだ外貨持ち出し制限があり、本格的な海外旅行ブームは到来していなかった。
 7月21日に羽田を出発し、エジプト航空の南回りで、香港、バンコク、ムンバイ経由でカイロで乗り換え、チューリッヒに出て、そこから陸路で東欧に入り、帰路はナホトカ発のバイカル号で、8月30日に横浜に戻った。旅費として、小遣いを含め、60万円近くかかった。1979年に佐藤が同志社大学神学部に入学したときの年間学費が29万円だったから、家計を相当やりくりして捻り出した旅費だったらしいが、両親は、共産圏という異世界を見せることで息子がどう変容するか、なんとも形容しがたい好奇心を持っていたようだ。
 事実、この旅行がなかったならば、マルクス主義に関心をもつこともなく、神学部に進んでプロテスタント神学を専攻し、さらに外交官になることも、そして外交官になってモスクワに赴任してからもロシア人に偏見をもたずに人脈を拡大することにもならなかった。この旅行が深いところで自分の世界観に影響を与えたことは間違いない。・・・・そのように、佐藤は述懐する。
 
 (続く)

□『私のマルクス』(文藝春秋社、2007。後に文春文庫、2010)
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【佐藤優】の仕事早わかり ~略歴と書誌~

2013年02月07日 | ●佐藤優
●佐藤優の略歴【注】
 (a)学生以前(~1975.3.31.)
   ・1960年1月18日生。
   ・1975年、埼玉県立浦和高校1年生の夏、スイス、西ドイツ、チェコスロバキア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ソ連(ロシア、ウクライナ、ウズベキスタン)を一人旅。

 (b)同志社大学生、同院生の時代(1975.4.1.~1985.3.30.)

 (c)外務事務官時代(1) ~入省、留学~(1985.4.1.~1987.8.末)
   ・1985年4月、専門職員として外務省に入省。同年5月、欧亜局に配備。英国陸軍語学学校に留学後、1987年8月末、モスクワ国立大学言語学部に留学。
   ・1988年から1995年まで在ソ連・在ロシア日本国大使館に勤務(政務班)。

 (d)外務事務官時代(2) ~ソ連大使館赴任、ソ連解体、ロシア大使館離任~(1987.8.末~1995.3.末)

 (e)外務事務官時代(3) ~本省勤務、外交史料館勤務、逮捕・収監、休職~(1995.4.1~2009.6.30.)
   ・1998年、国際情報局分析第一課主任分析官(課長補佐級)。
   ・2002年2月22日、外交史料館へ異動。
   ・2002年5月14日、背任容疑で逮捕。同年7月3日、偽計業務妨害容疑で再逮捕。2003年10月、保釈。
   ・2002年2月、東京地方裁判所(安井久治裁判長)で執行猶予付き有罪判決。控訴。2007年1月31日、東京高等裁判所(高橋省吾裁判長)で控訴を棄却。2009年6月30日、最高裁判所第3小法廷(那須弘平裁判長)で、上告棄却。期限の7月6日までに異議申立てをおこなわなかったため、判決が確定。国家公務員法76条に基づき失職。

 (f)民間人時代(2009.7.1.~)

 【注】「【読書余滴】佐藤優回想録 ~青春、留学、インテリジェンス、ソ連解体、国家の罠~

(1)著書
○『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社、2005。後に増補版、新潮文庫、2007)
○『自壊する帝国』(新潮社、2006。後に新潮文庫、2008)
○『日米開戦の真実 大川周明著「米英東亜侵略史」を読み解く』(小学館、2006。後に小学館文庫、2011)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、アメリカによる日本人洗脳工作
 ※「【読書余滴】佐藤優の、東京裁判批判 ~アメリカの謀略工作~

○『獄中記』(岩波書店、2006。後に改訂版、岩波現代文庫、2009)
○『国家と神とマルクス 「自由主義的保守主義者」かく語りき』(太陽企画出版、2007。後に角川文庫、2008)
○『地球を斬る』(角川学芸出版、2007。後に角川文庫、2009)
○『国家の謀略』(小学館、2007)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、外務官僚の精神構造

○『野蛮人のテーブルマナー ビジネスを勝ち抜く情報戦術』(講談社、2007。後に講談社+α文庫、2009)
○『野蛮人のテーブルマナー「諜報的生活」の技術』(講談社、2009)
 ※「【読書余滴】佐藤優の「反省」 ~モスクワ大使館の裏金作り~

○『私のマルクス』(文藝春秋社、2007。後に文春文庫、2010)
○『インテリジェンス人間論』(新潮社、2007。後に新潮文庫、2010)
○『国家論 日本社会をどう強化するか』(NHKブックス、2007)
 ※「【読書余滴】佐藤優の国家論、加藤周一の内村鑑三論

○『世界認識のための情報術』(金曜日、2008)
○『交渉術』(文藝春秋社、2009。後に文春文庫、2011)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、上司と部下の危険な関係
 ※「【読書余滴】佐藤優の、外務官僚の精神構造
 ※「【読書余滴】佐藤優の「反省」 ~モスクワ大使館の裏金作り~

○『テロリズムの罠 右巻 忍び寄るファシズムの魅力』(角川ワンテーマ21、2009)
○『テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方』(角川ワンテーマ21、2009)
○『外務省ハレンチ物語』(徳間書店、2009。後に徳間文庫、2011)
○『神学部とは何か 非キリスト教徒にとっての神学入門』(新教出版社、2009)
○『「諜報的(インテリジェンス)生活」の技術 野蛮人のテーブルマナー』(講談社、2009)
○『甦る怪物 私のマルクス ロシア篇』(文藝春秋社、2009)
 ※「【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(1) ~アゼルバイジャン~
 ※「【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(3) ~トルキスタン~
 ※「【読書余滴】佐藤優のモクスワ大学講義ノート(基本方針)

○『功利主義者の読書術』(新潮社、2009)/ 新潮文庫、2012)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、イエスの処世術 ~国家と信仰~
 ※「【読書余滴】佐藤優の、「世直しの罠」に嵌らないために
 ※「【読書余滴】佐藤優の、石原真理子と酒井順子にまなぶ論争術

○『沖縄・久米島から日本国家を読み解く』(小学館、2009)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、魂は一つではない
 ※「【読書余滴】佐藤優のソ連「帝国」観 ~民族問題~

○『はじめての宗教論 右巻 見えない世界の逆襲』(日本放送出版協会(生活人新書)、2009)
○『はじめての宗教論 左巻 ナショナリズムと神学』(NHK出版新書、2011)
○『日本国家の神髄 禁書「国体の本義」を読み解く』(扶桑社、2009)
○『この国を動かす者へ』(徳間書店、2010)
 ※「【読書余滴】佐藤優の暗黒社会論/悪の現象学 ~『この国を動かすものへ』~
 ※「【読書余滴】佐藤優『この国を動かす者へ』の序文と後書きの凄み

○『3.11クライシス!』(マガジンハウス、2011)
○『共産主義を読みとく いまこそ廣松渉を読み直す』(世界書院、2011)
○『予兆とインテリジェンス』(産経新聞出版、2011)
○『人たらしの流儀』(PHP研究所、2011)
○『佐藤優のウチナー評論』(琉球新報社、2011)
○『この国を壊す者へ』(徳間書店、2011)
○『世界インテリジェンス事件史 祖国日本よ、新・帝国主義時代を生き残れ!』(双葉社、2011)
○『インテリジェンス人生相談 復興編』(扶桑社、2011)
○『共産主義を読みとく いまこそ廣松渉を読み直す『エンゲルス論』(ノート 廣松渉エンゲルス論との対座』(世界書院、2011)
○『外務省に告ぐ』(新潮社、2011) 
○『野蛮人の図書室』(講談社、2011)
○『国家の「罪と罰」』(小学館、2012)
○『紳士協定 私のイギリス物語』(新潮社、2012)
○『帝国の時代をどう生きるか 知識を教養へ、教養を叡智へ』(角川oneテーマ21、2012)
○『読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門』(東洋経済新報社、2012)
○『人間の叡智』(文春新書、2012)
○『同志社大学神学部』(光文社、2012)

(2)共著・インタビュー・対談
○(聞き手:斎藤勉)『国家の自縛』(産経新聞出版、2005。後に扶桑社文庫、2010)
 ※「【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(3) ~トルキスタン~

○(聞き手:宮崎学)『国家の崩壊』(にんげん出版、2006)
○(鈴木宗男と共著)『北方領土「特命交渉」』、講談社、2006。後に講談社+α文庫、2007)
○(手嶋龍一と共著)『インテリジェンス―武器なき戦争』(幻冬舎新書、2006)
 ※「【読書余滴】佐藤優&手嶋龍一の、腰砕け対中外交のカンフル剤 ~交渉に必要な論理能力~
 ※「【読書余滴】佐藤優&手嶋龍一の、英国情報機関の本領発揮 ~カウンター・インテリジェンス~

○(魚住昭と対談)『ナショナリズムという迷宮-ラスプーチンかく語りき』(朝日新聞社、2006。後に朝日文庫、2010)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、厚生労働官僚の逆襲 ~村木統括官による国家賠償請求訴訟の背後にあるもの~
 ※「【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(3) ~トルキスタン~
 ※「【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(2) ~ソ連解体の始まり、ナゴルノ・カラバフ紛争~

○(関岡英之・小林よしのり・西部邁らと共著)『アメリカの日本改造計画』(イースト・プレス、2006)
○(鈴木宗男と共著)『反省 私たちはなぜ失敗したのか?』(アスコム、2007)
○(高永哲と共著)『国家情報戦略』(講談社、2007)
○(青木直人・西尾幹二と共著)『中国の黒いワナ』(宝島社、2007)
○(コーディネーター:宮崎学、連帯運動・編)『佐藤優国家を斬る』(同時代社、2007)
○(竹村健一と対談)『国家と人生 寛容と多元主義が世界を変える』(太陽企画出版、2007。後に角川文庫、2008)
○(田中森一と共著)『正義の正体』(集英社インターナショナル、2008)
○(村上正邦と共著)『大和ごころ入門』(扶桑社、2008)
○(亀山郁夫と対談)『ロシア闇と魂の国家』(文春新書、2008)
○(鈴木琢磨と共著)『情報力―情報戦を勝ち抜く“知の技法”』(イースト・プレス、2008)
 ※「【読書余滴】佐藤優&鈴木琢磨の、朝鮮人やイスラム教徒の時間軸と日本人の時間軸との違い
 ※「【読書余滴】佐藤優&鈴木琢磨の、情報分析、よいブログの見分け方、新聞の力
 ※「【読書余滴】佐藤優&鈴木琢磨の、情報力:メモとノートとスクラップ帳の効果的な使い分け方

○(山口二郎・編)『政治を語る言葉』(七つ森書館、2008)
○(副島隆彦共著)『暴走する国家 恐慌化する世界―迫り来る新統制経済体制(ネオ・コーポラティズム)の罠』(日本文芸社、2008)
○(田原総一朗と共著)『第三次世界大戦 左巻 新・帝国主義でこうなる!』(アスコム、2008)
○(田原総一朗と共著)『第三次世界大戦 右巻 新・世界恐慌でこうなる!』(アスコム、2008)
○(魚住昭と対談)『テロルとクーデターの予感-ラスプーチンかく語りき2』(朝日新聞出版、2009)
○『インテリジェンス人生相談 社会編』(扶桑社、2009)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、個人の相談に助言する技法&外務省を糺す技法
 ※「【読書余滴】佐藤優の、インテリジェンス人生相談 ~大資本の進出で疲弊している~

○『インテリジェンス人生相談 個人編』(扶桑社、2009)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、個人の相談に助言する技法&外務省を糺す技法
 ※「【読書余滴】佐藤優の、インテリジェンス人生相談 ~大資本の進出で疲弊している~

○(岡本行夫と共著)『知の超人対談 岡本行夫・佐藤優の「世界を斬る」』(産経新聞出版、2009)
○(立花隆と共著)『ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊』(文春新書、2009)
 ※「書評:『ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊』

○(大田昌秀と共著)『徹底討論沖縄の未来』(芙蓉書房出版、2010)
○(宮崎正弘と共著)『猛毒国家に囲まれた日本 ロシア・中国・北朝鮮』(海竜社、2010)
 ※「【読書余滴】佐藤優&宮崎正弘の、言語・民族・国家 ~グルジアと中国~
 ※「【読書余滴】佐藤優&宮崎正弘の、猛毒国家 北朝鮮
 ※「【読書余滴】佐藤優&宮崎正弘の、猛毒国家 中国 ~中国の権力闘争と将来像~

○(副島隆彦と共著)『小沢革命政権で日本を救え 国家の主人は官僚ではない』(日本文芸社、2010)
○(西原理恵子と共著)『週刊とりあたまニュース 最強コンビ結成!編』(新潮社、2011)
○(的場昭弘と共著)『国家の危機』(KKベストセラーズ、2011)
○(中村うさぎと共著)『聖書を語る 宗教は震災後の日本を救えるか』(文藝春秋社、2011)

(3)訳書
○ゲンナジー・ジュガーノフ(黒岩幸子と共訳)『ロシアと現代世界 汎ユーラシア主義の戦略』(自由国民社、1996)
○J・L・フロマートカ(ロマドカ)『なぜ私は生きているか J・L・フロマートカ自伝』(新教出版社、1997)
○アレクサンドル・レベジ(工藤精一郎・工藤正広・黒岩幸子と共訳)『憂国』(徳間書店、1997)

(4)解説
○(共同訳聖書実効委員会・訳(佐藤優・解説)『新約聖書Ⅰ』、文春新書、2010)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、菅直人首相の情勢論的思考法~

○(共同訳聖書実効委員会・訳(佐藤優・解説)『新約聖書Ⅱ』、文春新書、2010)
 ※「【読書余滴】佐藤優の、余は如何にして基督信徒となりし乎 ~宗教と外交との関係~

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【介護】介護士の不手際な対応、施設長の木を鼻でくくった説明 ~老人保健施設~

2013年02月07日 | 医療・保健・福祉・介護
 少し膝の悪い母を在宅で2年半介護してきた。
 しかし、仕事との両立に限界を感じ、昨年10月、介護老人保健施設に入所させた。

 最初は、リハビリテーションで歩きやすくなった。
 しかし、11月に転倒し、ほぼ寝たきりになった。
 始終見ていないのでリスクは免責、と契約にあったので、文句は言えなかった。

 年末の12月26日の朝、嘔吐した、という連絡が入って面会に行くと、母は点滴を受けていた。元気なく、「今までいろいろありがとう」と小さな声で話してくれた。
 心配になって、介護士に訊くと、「大丈夫」の一点張り。
 帰宅して、翌27日の朝の3時に、施設の介護士が焦った声で、「お母さん、意識なく近くの病院に搬送しました」と。
 母は、病院で一度蘇生したが、午前6時11分に87歳で他界した。

 母の荷物をとりに施設に行くと、部屋の名札はすでに別人になっていた。荷物は手早く段ボール詰めされ、物入れに。
 この素早い対応が母に対して行われていれば・・・・。

 病院の医師によれば、嘔吐による窒息、とのこと。
 白衣も着ない施設長(医師)は、「老衰でした」と、一言の謝罪もなく、木を鼻でくくった説明だけ。

 悲しい正月だった。
 施設の母に送った年賀状もシュレッダーにかけられていたか、と思っていたが、これは1月10日に、切手代節約のためか、最後の請求書に同封されて戻ってきた。

□池上博(公務員)「【投書】老健施設の実態」(「週刊金曜日」2013年2月1日号)
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【税】富裕層への増税を支持する富裕層

2013年02月06日 | 社会
 (1)与党が1月にまとめた税制改正大綱によると、2015年から所得税の最高税率が40%から45%に、相続税も現行から5%引き上げられる。理由の一つは「格差の是正といった中長期的課題にも応える」ことだ。
 お金持ちへの課税強化は、国の財源の確保につながるし、格差に対する不公平感も解消できる。

 (2)経済危機が広がる欧米でも、富裕層への増税の実施や検討が進む。

 (3)昨年、フランス政府は増税案を示した。案によれば、年収100万ユーロ(1億2千万円)超の富裕層の所得税率を75%に引き上げる。
 これに反発し、俳優ジェラール・ドパルデュー(仏、64歳)は、まず税率が低いベルギーに移住した。ついで今年1月、所得税が一律13%のロシアの国籍を取得した。
 国を出るのは成功や創造性、才能、違いを罰することを求める政府のせいだ。45年間、1億4,500万ユーロ(183億円)を支払ってきた。認めてくれとは言わないが、少なくとも尊重されてもいいのではないか。【 ドパルデュー】

 (4)増税に「理解」を示すお金持ちもいる。
 高所得者は政府の債務問題解決に一肌脱ぐべきだ。【ルカ・コルデーロ・ディ・モンテゼーモロ・「フェラーリ」会長】
 財政再建は貧しい人を直撃する歳出削減でなく、我々への課税で行うべきだ。【ライヒェン・レームクール・俳優/独富裕層グループ】
 先陣を切ったのは、ウォーレン・バフェット・投資家/篤志家だ。
 「私たち金持ちを甘やかすのはやめよ」と題するニューヨーク・タイムズ紙への寄稿(2011年夏)で、自身が支払う税率が約17%と、自分の従業員たちの平均税率よりはるかに低いことに言及。国民に痛みの共有を求めたはずの指導者たちが2000年代以降、「私のような大金持ちだけは除外してきた」と指摘。富裕層が税制上優遇された結果、大量の雇用が失われたとし、「政府は痛みの共有について真剣に考えるべきだ」と述べた。
 オバマ米大統領は、年収100万ドル以上を対象に課税を強化するバフェット・ルールの導入を提唱した。

 (5)富裕層がなぜ富裕税に賛成するのか。
 (4)の人々の考えの根底には、経済がグローバル化する中、自分が住む国に税を支払うことで「社会の一体性」を維持しようという思いがあるのではないか。【伊藤恭彦・名古屋市立大教授】
 伊藤教授は、彼らが使い道を自分で決められる寄付などの慈善ではなく、「民主的なプロセス」で決める税という方法を選んでいる点に注目する。
 税を巡っては、誰が負担するのが公平かという議論になるが、「どんな社会を目指したいかを決めないと何が公平かはわからないはずだ」。
  <例1>自由を重視するなら、競争で生じる格差は「公平」な差になる。
  <例2>平等を尊重するなら、格差自体を是正することが「公平さ」につながる。
  <伊藤教授案>「尊厳を失わないで生きていける社会」像を選ぶべきだ。競争は否定しないが、何らかの理由で貧困にあえぐ人がいれば優先的に税金を使う。誰もが残酷な生活を送らないですむことを、「公平」とする。
 「日本では、社会像の議論とセットで税の公平が議論されず、何のために増税するのかが置き去りにされている」

□記事(高久潤)「富裕層への増税 是か非か」(2013年2月5日付け朝日新聞)

 【参考】
【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~
【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~
【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~
【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~
【経済】税制が作った“富裕老人”400万人
【経済】消費税は失業者を増やす
【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
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【社会】体罰を容認する橋下市長発言

2013年02月05日 | 社会
 「週刊金曜日」今週号。
 アルジェリア人質事件の背景を明らかにする新藤健一(フォト・ジャーナリスト)「日本の原子力研究支える日揮」【注1】、
 日本の近未来をまのあたりにする貧富の格差拡大「イスラエル映画から見る 社会の混迷と変革の可能性」【注2】
・・・・のほか、次のような記事が掲載されている。

(1)体罰問題
●中島岳志「体罰問題は橋下市長にこそ責任がある ~風速計~」
 昨年10月2日、教育振興基本計画を議論する有識者会議で、先生に懲戒権を認めてやれないか、これぐらいはいいでしょう、というガイドラインを住めしてあげるとか・・・・といった発言をしている。
 「もみあげをつまんで引き上げるくらいまではいいと思う」
 「大阪市でそれを体罰とか何とか言われたら、政治で僕が引き受けますから」
 「腹をどつかれた時の痛さ、そういうものが分かれば、相手側の方に対しても歯止めになると思う」うんぬん。
 体罰がいじめ対策として有効だという認識を示した橋下市長、こうした市長のもとで起きたのが今回の体罰事件だ、と中島岳志は断罪している。

(2)日揮アルジェリア人質事件から出てきた自衛隊法改正案
●柳澤協二「政治家の無知ほど危険なものはない」
 これまで、自衛隊による在外邦人の「輸送(救出ではない」は、経路の安全が確保されている場合に限って行われることになっていた。これを、経路の安全にかかわらず実施できるようにする、というのが改正案だ。
 だが、「経路が安全でない」とは、現地政府や群が国内をコントロールできていない「戦場」であることを意味する。「戦場」に武装した自衛隊を派遣するには、現地政府の同意が必要だ。同意がないまま派遣すれば侵略になる。
 派遣する自衛隊の立場では、一人の邦人を救出するだけでも、数百人規模の部隊が必要になる。準備に数週間かかる。それだけ万全の準備をしても、地理を熟知した敵との遭遇は、自殺行為に等しい。
 要するに、自衛隊による「戦闘を前提とした内陸での法人輸送」は、多くの場合、間に合わないか、間に合っても犠牲を覚悟しなければならない。政治家は、その困難性をどこまで認識し、どこまでの犠牲をなら責任をもつのか。政治家の無知ほど危険なものはない。

(3)原発問題
●坂上武・原子力規制を監視する市民の会「問題だらけの「新安全基準」」
 原子力規制委員会の検討チームによる「新安全基準」策定作業にクレームをつけている。
●赤岩友香(編集部)「ジャンルを超えた連携を」
 「原発と人権」ネットワークが発足。参加団体は、脱原発弁護団全国連絡会、日本科学者会議、日本ジャーナリスト会議など11団体。
●通訳:レーナ・リンダル「持続可能なスウェーデン協会」日本代表、まとめ:片岡伸行(編集部)「日本政府と東芝に抗議の来日」
 ハンナ・ハルメンペー(36)・フィンランド共和国の住民団体「プロ・ハンヒキヴィ」副会長が、来日。「フィンランドに原発を売らないで!」と訴えるべく東芝に面会を求めたが、拒否された。1月25日、官邸前デモにも参加。1月中は滞在し、講演などを実施。
●三宅勝久(ジャーナリスト)「接待ゴルフ認める」
 白川司郎・原発フィクサーが、「週刊金曜日」2012年11月16日号に掲載の記事について、筆写の田中稔・ジャーナリストに対し、損害賠償を提訴。くだんの記事は、昨年9月2日、北軽井沢で開催されたゴルフ・コンペが高級官僚OBとパチンコ機器メーカーとの「交際手段」であることを白川司郎が認めた、というもの。
●本多勝一「事故時の被害試算を闇に葬った岸内閣 -脱原発 ドイツと日本(中)- ~貧困なる精神540~」
 1950年代、原発が東海村の実験炉1基しかなかった時代、この原子炉が事故を起こしたらどれほどの被害が怒るか、原産会議が試算した。報告書によれば、当時の国家予算の倍の被害額をはじき出した。驚いた岸内閣は、かかる事故は想定外、として、この報告書を闇に葬った。このたびの福島第一原発事故の遠因は、岸内閣にあった。

 【注1】
【原発】アルジェリア人質事件の背景 ~日本の原子力研究を支える「日揮」~

 【注2】
【社会】貧富の格差が拡大するイスラエル ~民営化と消費税~

□「週刊金曜日」2013年2月1日号
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【社会】貧富の格差が拡大するイスラエル ~民営化と消費税~

2013年02月04日 | 社会
 (1)昨年公開されたアミール・マノール監督『エピローグ』(2012、イスラエル)は、日本の近未来を先取りするイスラエル社会を剔抉する。

 (2)かつて社会主義を夢見た老夫妻。理想を葬ったイスラエルの現状に失望し、失意と貧困のなかで自殺を選ぶ。その最後の1日を『エピローグ』は描く。
 エピソード1。若き日に革命を夢想した夫は、最後に妻にドレスを贈るべく、愛読書を手放そうとする。しかし、古書店では相手にされない。そんな時代遅れの本を読む者は、もうイスラエル社会にはいないのだ。
 エピソード2.いつもの薬を買おうと薬局へ出かけた妻は、金が不足し、恥辱を味わう。だが、若い店員が自分の金をそっとレジに入れ、薬を彼女に渡した。

 (3)映画は、現実の事件を下敷きにしている。2008年の経済危機後、年金が大幅にカットされ、160人もの高齢者が自ら命を絶った。

 (4)イスラエルでは、貧富の格差が拡大している。
 ここ20年の民営化、米国流の自由主義が背景にある。死海の資源をタダ同然で手にしたショール・アイゼンバーグのように、民営化は一部に巨大な富をもたらした。軍需産業、医薬品、ハイテク分野も好況で、イスラエルの昨年の経済成長率は3.3%にものぼる。
 しかし、巨大な軍事費が財政を圧迫し、内実はギリシアの一歩手前だ。
 国は、そのツケを公共サービスの民営化、教育や福祉の削減で解消しようとしてきた。ネタニネフ首相は、財務相だった10年前から、「障がい者、子ども、高齢者の福祉をカットすればいい」と放言してはばからなかった。そして、富裕層や大企業には減税を続けた。増税した消費税などが中産階級や貧困層を直撃した。生活物資の高騰は野放しになった。

 (5)かくて、イスラエルの貧富の格差は米国を追い抜くまでに拡大した。国民の2割が貧困水準以下の生活を強いられ、しかも貧困層の6割はワーキング・プアだ。仕事が貧困からの脱出に繋がらず、社会保障も再配分の機能を失った。昨年も、福祉切り捨てに抗議する焼身自殺が相次いだ。
 ホロコーストを生きのびた高齢者が、自分たちが建設した国家で生きていけないのだ。
 昨年も、前年比2割増の150億ドルを軍事に費やし、より劇的な増税と福祉の削減を盛り込む予算案をネタニネフ首相は、もくろんでいる。

 (6)マノール監督は、若者たちの新しい運動に希望を託す。縦型組織を作らず、リーダーもいないデモ、2011年夏にテルアビブで起きた数十万人規模のデモだ。776万人の人口からすると、日本では1,000万人規模のデモとなる。
 マノール監督は、社会変革のため、社会を変える教育が必要だ、という。その教育の理想を、前世紀初頭の社会主義のコーポラティブ(協同組合)に見る。はたして建国の理想であるシオニズムは、内包する植民地主義を超え、その社会主義の夢を取り戻せるか。

 (7)中村富美子(ジャーナリスト)は、シャロン・バルズィノウ監督『514号室』(2012、イスラエル)も併せて紹介し、この映画にもイスラエル社会変革の可能性と、現に生じている小さな変化を見出している。

□中村富美子「イスラエル映画から見る 社会の混迷と変革の可能性」(「週刊金曜日」2013年2月1日号)
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【原発】アルジェリア人質事件の背景 ~日本の原子力研究を支える「日揮」~

2013年02月03日 | 震災・原発事故
 (1)アルジェリア人質事件について、報道が始まって以降、日本人の多くは遠い異国の同胞を思いやり、懸念し、挙げ句の結果を嗟嘆したはずだ。
 直後の雑誌には、異国で艱難辛苦のうえ、国際的に活躍する「日揮」に対してエールを送った記事も出た【注1】。
 しかし、「週刊金曜日」今週号は、事件の背景を明らかにし、死者を鞭打つ。

 (2)事件直前の1月14日、フランスがマリに軍事介入し、イスラム武装勢力が占拠していたディアバリを制圧した。その背後に、世界最大の原子力産業複合企業「アレバ」(仏)の存在があった。
 ウランを埋蔵するニジェールやマリの利権をフランスは手放したくない。そこで、ニジェールのウラン工場を守るため、特殊部隊が配備された。「アレバ」が所有するウラン鉱山付近では、2010年9月、アルカイダ系の「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」がフランス人5人を含む7人を人質にとり、フランス人4人は今も拘束されている(3人は釈放)。

 (3)「日揮」の事業は、エンジニアリングだけではない。軍事コンサルタント会社とも提携のだしている。紛争地や戦場では、民間の軍事請負会社【注2】が絡むのだ。
 旧「ブラウン&ルート・サービシズ(BRS)」(チェイニー・元副大統領が会長だった「ハリバートン」社の子会社)はその典型だ。「CACI」社と「タイタン」社が拷問に加わったとされるアブグレイブ刑務所の捕虜虐待事件も軍事請負企業の犯罪だ。
 2002年、「日揮」は、アルジェリアのエネルギー会社「ソナトラック」と英「BP」が開発した天然ガス田開発プロジェクトを、米「ケロッグ・ブラウン&ルート(KBR)」社とで受注した。「BRS」社は1998年、石油パイプ製造の「ケロッグ」を吸収し、「KBR」社になった。
 こうした民間軍事請負企業と取引する「日揮」だけに、今回の事件の闇は深い。そして、政府は人質事件の真相を明らかにしたがらない。

 (4)アルジェリア人質事件で犠牲になった日本人9人の遺体は、政府専用機で運ばれた(異例)。遺体が羽田に到着した1月25日、首相官邸など霞ヶ関には半旗が掲げられた。
 フランスの軍事介入がアルジェリア人質事件に発展したとき、「日揮」は被害者の氏名を公表しなかった。1月25日、菅義偉・官房長官は犠牲者の氏名を「政府の責任で」公表した(これも異例)。
 新谷正法・「日揮」最高顧問の死亡発表は最後になった(奇怪な話)。ちなみに、新谷最高顧問が会う予定だった英「BP」副社長も死亡した。

 (5)3・11では東海第二原発(茨城県東海村)も危機一髪だった【注3】。
 茨城県大洗町の海岸から南西へ車で15分の位置に「日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター」がある。同センターは、ここでMOX燃料を使用した高速増殖炉「常陽」などの試験を通じて高速増殖炉(FBR)サイクルの実用化をめざしてきた。
 一隅の4階建て作業ビルが、「日揮技術研究所」だ。脇に研究棟が南北に3つ並ぶ。フェンスには「周辺監視地域、みだりに立ち入ることを禁ず」のプレート。周囲に人家はなく、門前には畑があるのみ。南隣は、東芝と日立の共同出資する日本原燃の施設だ。これらの関連会社が日本の原子力研究を支えているのだ。
 実は、東海村にある日本初の再処理工場は、「日揮」が建設した。「日揮」は、これまでウラン精錬、核燃料サイクル技術と放射性廃棄物の処理などを研究してきた。
 東海村周辺には、三菱グループなど、核燃料関連会社が数多くある。前記「日揮技術研究所」もその一つだ。そのウランを日本はマリやニジェールから輸入している。また、「日揮」は、福島第一原発に事務所を構えていた。
 アルジェリア人質事件で政府が「日揮」を特別扱いする理由はここにある。 

 【注1】
【社会】世界水準の危機管理でも防げない武装勢力の襲撃

 【注2】
書評:『戦場の掟』 ~ビッグ・ボーイ・ルール、民間軍事会社のイラク~

 【注3】
【震災】原発>高レベル放射性廃液400立方メートル in 東海村
【震災】原発>廃炉を提案した東海村長 ~危なかった東海第二原発~

□新藤健一(フォト・ジャーナリスト)「日本の原子力研究支える日揮」(「週刊金曜日」2013年2月1日号)
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【本】「激安」のからくり~

2013年02月02日 | 社会


●パパママ・ストア
 A商店が乾物Xを50箱、入手しようとしている。A商店は最初から50箱買うと決めているので、競りには参加しない。直接、売り出し業者と価格交渉し、事前に入手してしまう(「相対取引」)。
 ところが、たまたま豊作で、交渉した売り出し業者から60ロット仕入れることになった。
 A商店が必要なのは50ロットなので、10ロット余る。
 20店舗をもつBチェーンに売り渡そうとしたが、Bチェーンにとっては10ロットだと不足だ。チェーンストアは、基本的に、すべての店舗に同じ商品を置かねばならない。この店舗にあって、あの店舗にない、となると、チラシも別々につくらねばならないから、効率が悪い。よって、Bチェーンは10ロットだけを買い取ることはしない。
 こうした場合、端数の、余った商品はどうなるか。
 1店舗だけやっている「パパママ・ストア」が超安い値段で引き取るのだ。
 「パパママ・ストア」は、町中でやっている単独激安ストア。その経営者は、個人的に商品を仕入れているから、自然と人間ネットワークが構築される。そのネットワークから、「ちょっと商品が余っちゃって困っている。引き取ってくれないか」と連絡が来て、「いくらになるの?」となるのだ。
 大手のチェーンストアは、安定した大量仕入れを行い、店舗を拡大して、絶えずシステム化を続ける。すると必ずこぼれてくる商品が出てくる。それを拾って「パパママ・ストア」が商売している。
 町中の商店街で、大手チェーンストアへ行く途中の数百メートル手前にある小さな青果店などが「パパママ・ストア」だ。
 「パパママ・ストア」は、家族経営だから、労働基準法は適用されない。大手チェーンストアが9時開業なら、8時半から開業することもできる。

●8対の法則
 売れている商品上位20%が利益の80%を稼ぐ。
 合理的に考えれば、売れている商品20%だけを並べればよさそうに思われる。
 しかし、売れない商品を排除し続けると、売れる商品も売れなくなってしまう。
 ファッション業界では、黒、紺、白の商品が売れ行きの80%を占めている。赤、黄色、緑、ピンクなどは「売れない商品」だ。これら「売れない商品」は、「差し色」と呼ばれ、黒、紺、白の商品を映えさせる色だ。これら「売れない商品」を置かないと、黒、紺、白も目立たなくなって、売れなくなってしまう。
 黒、紺、白だけを置いた売場を想像したまい。全体が暗い感じになる。すると、購買意欲が湧かなくなる。消費者が求める「選択の楽しみ」がなくなる。
 人についても、同じことがいえる。
 リストラをしすぎて、「黒、紺、白」だけの人間になってしまうと、組織が硬直化する。
 活性を失い、硬直した組織は、なにより変化に弱い。非合理の部分、ハンドルの遊びの部分がないと、かえって変革期に対応できなくなってしまう。

●よい安売り店と悪い安売り店の見分け方
 マーケッティングにおいて、店舗チェックする際、「壊れ窓」理論を応用する。
 なかでもチェックポイントは、「ゴミ箱」だ。ゴミ箱がちゃんと設置されていて、ゴミ箱からゴミが溢れていない(店舗がたえずゴミ処理している)店は、「よい店」だ。
 ゴミが溢れているのは、従業員の目が行き届いていない証だ。
 「入り口や売場がきれいにされている」のも、従業員の目が行き届いている証だ。店のチェック体制が整っているのだ。
 もう一つ。店内に入り、商品を見渡してみたとき、「欠品」が多い店は、発注精度が低い証拠となる。これはシステム的な安売りではない。
 最後に、「売場面積」に対して従業員数が少ない」こと。こうした店にも要注意だ。合理化ならばよいが、あまりにも極端に少ないのは、必要な経費までカットしている証拠で、気をつけたほうがよい。

□金子哲雄『「激安」のからくり』(中公新書ラクレ、2010.5)
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【食】世界の豚肉の半分を消費する中国

2013年02月01日 | 社会
 (1)いま、商社が相次いで投資熱を高めている分野が「食肉」。

 (2)昨年、三菱商事は中国の食料最大手「COFCO」と提携(伊藤ハムや米久と合弁)、2017年までに1,250億円を投じ、生産拠点を倍以上に増やす計画だ。
 今年1月、伊藤忠商事も、カナダ最大規模の養豚・豚肉生産会社「HyLife」の株式33.4%を50億円で取得。
 他商社の神戸委の養豚場への投資などが決まりそうだ。

 (3)(2)はいずれも巨大市場と化す中国がターゲットだ。豚肉は、世界の年間消費量が1億トンで、うち半分を中国が占めるのだ。
 豚肉は、いかに中国を中心としたアジアに売っていくかが勝負。【伊藤忠商事畜産部長】

 (4)商社自らが生産拠点を確保することで、自社でトレードしている飼料用穀物の安定的な納入先を同時に確保することもできる。これも食肉分野を強化するもう一つの狙いだ。
 ちなみに、豚肉1kgを生産するのに、7kgの飼料用穀物が必要だ。

□脇田まや(本誌)「北米の養豚場に熱い視線! 商社が“ブタ確保”に動く理由」(「週刊ダイヤモンド」2003年2月2日号)
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