語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】和田誠の俳句(1) ~『白い嘘』~

2013年02月23日 | 詩歌
 (1)イラスト、似顔絵、装丁、映画、作曲などに手を染める多芸多才な和田誠は、俳人でもある。
 その句集『白い嘘』(梧葉出版、2002)は、現在入手しがたい。本体2,000円(税別)の本が、アマゾンに8,799円もの高価格で出品されている。
 復刊ドッコムのリストに名を連ねているが、復刊されるのはまだ先だろう。
 したがって、当面は引用された句から句集『白い嘘』の雰囲気を察するしかない。

 (2)大岡信は、「折々のうた」2002年5月1日から2003年4月30日までの1年間に、和田を2回選んでいる。
 岩波新書の『折々のうた』『新折々のうた』は、四季別に編集されているから、朝日紙に掲載された時期はわからない。しかし、本文からすると、最初に採られた句は、次のものらしい。

   食欲を振り捨てて蛇穴に入る

 評語にいわく、「白い嘘」はホワイト・ライ(英語でいう「他愛もない嘘」)から借りたもの(和田自身の弁)。<「ことば」が好きなのである。さまざまなイメージを喚起させる言葉の力が。これは嘘ではありません。>と後記から引く。さらに数句を引いて、「真に迫る面白さ」と評している。

   ムー大陸行きの切符や四月馬鹿
   竹光を抜けば黴散る舞台かな
   佃煮の蝗食ふ人食はぬ人

 「折々のうた」が採るもう一句は、

   花の名でしりとりをせむ苗木市

 この句も、<いかにも白い嘘の感じ。が、少し大規模な苗木市だったら、まさに句のような楽しい情景が目の前に拡がりそうだ>。
 <軽やかさにおいて現代俳句界に異色の伸びやかさを持つ>というのが、句集『白い嘘』に対する大岡信の総評だ。

 (3)なお、「折々のうた」がとりあげていない『白い嘘』作品で、ネットで散見されるものに次のようなものがある。

   パレス座の跡の空地や母子草
   少女の日の君を立たせよ青芒
   冬の月天動説を疑はず 【注1】

   春光や家なき人も物を干す
   人形も腹話術師も春の風邪 【注2】

   風車草の匂ひの幼年期
   蛍籠覗けば近 し天の底
   ハンカチに海のかけらをくるみけり
   昭和色した卓袱台や菜飯食ふ
   秋茄子をデニムの膝で磨きけり 【注3】

   ひもとけば句集の余白に秋来る 【注4】

 【注1】以上、梧葉出版による広告「近刊 和田誠第一句集『白い嘘』」。
 【注2】以上、検索エンジン「増殖する俳句歳時記」。
 【注3】以上、「読前読後]句集ふたつ」。
 【注4】以上、「[読前読後]和田誠さんと俳句」。

□大岡信『新折々のうた7』(岩波新書、2003)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン