<ちょっと漆塗りをしますよ。資本主義が成立するためには労働力商品化が必要で、ひいては労働者の「二つの自由」が必要でしたね。一つは身分的に解放されているという意味での自由。土地に縛りつけられていないので、どんな職業を選んでもいいし、移動することもできる自由。それからもう一つは、生産手段からの自由。すなわち自分自身の土地や労働用具や原材料などを持っていないということ。この二重の自由があるから、自分の労働力を売ってメシを食べなければならなくなった。
これはイギリスという国で必然的・内在的に起きたことではありません。歴史的偶然によって生じたことなんです。グリーンランドの例を見るとよくわかります。外部に原因があったのです。
グリーンランドって、文字通りグリーンランド(緑の島)だったんですよ。15世紀くらいまでは、樹々も草花もたっぷりあった。小麦もできていた。ところが、地球が16~17世紀に急に寒くなったんです。グリーンランドは氷河で覆われてしまった。それによってヨーロッパ全域で毛織物が必要になり、大流行になった。羊毛でセンターを作る、コートを作るということがすごいビジネスになりました。そのためにイギリスでは農家を全部追い出して羊を飼い始めた。これが第一次エンクロージャー運動、囲い込み運動ですね。追い出された農民たちが都市へ流れ込んできて、二重の自由を持つ近代プロレタリアートが生まれたのです。
イギリスでは農村は分解されましたが、後発資本主義国においては、先進的な機械を輸入することができるから、農村の完全な分解をしなくても資本主義を成立させることができました。
ここは日本資本主義論争でも重要なポイントになったのですが、後進国日本ではたしかに農村は完全には解体されませんでした。逆に農村が解体されないことが、日本の資本主義にとってはたいへんプラスだった。どうしてか? 産業が発達すると、工場で農家の次男坊、三男坊がそこで働ける。景気循環の中で、不況になって工場が閉鎖される。恐慌が起きる。食っていけなくなった工場の労働者は農村に戻る。田舎に戻れば農業をして、食っていける。そんな調整弁になったわけです。>
□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「3 カネはいくらでも欲しい」の「革命の鐘なんか鳴らない」から一部引用
【参考】
「【佐藤優】柳田国男、『太平記』、物語る言語 ~いま生きる「資本論」(25)~」
「【佐藤優】客観的・実証的に証明していく言語vs.物語る言語 ~いま生きる「資本論」(24)~」
「【佐藤優】観念的な講座派『蟹工船』vs.リアリズムの労農派『海に生くる人々』 ~いま生きる「資本論」(23)~」
「【佐藤優】1930年代の論争が今も反復されている ~いま生きる「資本論」(22)~」
「【佐藤優】贈与と相互扶助と商品経済の三つが「人間の経済」 ~いま生きる「資本論」(21)~」
「【佐藤優】相互扶助という経済 ~いま生きる「資本論」(20)~」
「【佐藤優】贈与という経済 ~いま生きる「資本論」(19)~」
「【佐藤優】公務員は労働者階級でも資本家階級でも地主階級でもない ~いま生きる「資本論」(18)~」
「【佐藤優】資本主義を土地(環境)が制約する ~いま生きる「資本論」(17)~」
「【佐藤優】他人のための使用価値 ~いま生きる「資本論」(16)~」
「【佐藤優】〈裏のユダヤ教〉カバラ思想の下に埋もれている部分を説明したフロイト ~いま生きる「資本論」(15)~」
「【佐藤優】講座派の特徴、「日本の特殊な型」 ~いま生きる「資本論」(13)~」
「【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~」
「【佐藤優】宇野経済学は歴史学、資本主義社会の論理をつかむ ~いま生きる「資本論」(12)~」
「【佐藤優】『資本論』の二つの読み方 ~いま生きる「資本論」(11)~」
「【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~」
「【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~」
「【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~」
「【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~」
「【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~」
「【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~」
「【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~」
「【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~」
これはイギリスという国で必然的・内在的に起きたことではありません。歴史的偶然によって生じたことなんです。グリーンランドの例を見るとよくわかります。外部に原因があったのです。
グリーンランドって、文字通りグリーンランド(緑の島)だったんですよ。15世紀くらいまでは、樹々も草花もたっぷりあった。小麦もできていた。ところが、地球が16~17世紀に急に寒くなったんです。グリーンランドは氷河で覆われてしまった。それによってヨーロッパ全域で毛織物が必要になり、大流行になった。羊毛でセンターを作る、コートを作るということがすごいビジネスになりました。そのためにイギリスでは農家を全部追い出して羊を飼い始めた。これが第一次エンクロージャー運動、囲い込み運動ですね。追い出された農民たちが都市へ流れ込んできて、二重の自由を持つ近代プロレタリアートが生まれたのです。
イギリスでは農村は分解されましたが、後発資本主義国においては、先進的な機械を輸入することができるから、農村の完全な分解をしなくても資本主義を成立させることができました。
ここは日本資本主義論争でも重要なポイントになったのですが、後進国日本ではたしかに農村は完全には解体されませんでした。逆に農村が解体されないことが、日本の資本主義にとってはたいへんプラスだった。どうしてか? 産業が発達すると、工場で農家の次男坊、三男坊がそこで働ける。景気循環の中で、不況になって工場が閉鎖される。恐慌が起きる。食っていけなくなった工場の労働者は農村に戻る。田舎に戻れば農業をして、食っていける。そんな調整弁になったわけです。>
□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「3 カネはいくらでも欲しい」の「革命の鐘なんか鳴らない」から一部引用
【参考】
「【佐藤優】柳田国男、『太平記』、物語る言語 ~いま生きる「資本論」(25)~」
「【佐藤優】客観的・実証的に証明していく言語vs.物語る言語 ~いま生きる「資本論」(24)~」
「【佐藤優】観念的な講座派『蟹工船』vs.リアリズムの労農派『海に生くる人々』 ~いま生きる「資本論」(23)~」
「【佐藤優】1930年代の論争が今も反復されている ~いま生きる「資本論」(22)~」
「【佐藤優】贈与と相互扶助と商品経済の三つが「人間の経済」 ~いま生きる「資本論」(21)~」
「【佐藤優】相互扶助という経済 ~いま生きる「資本論」(20)~」
「【佐藤優】贈与という経済 ~いま生きる「資本論」(19)~」
「【佐藤優】公務員は労働者階級でも資本家階級でも地主階級でもない ~いま生きる「資本論」(18)~」
「【佐藤優】資本主義を土地(環境)が制約する ~いま生きる「資本論」(17)~」
「【佐藤優】他人のための使用価値 ~いま生きる「資本論」(16)~」
「【佐藤優】〈裏のユダヤ教〉カバラ思想の下に埋もれている部分を説明したフロイト ~いま生きる「資本論」(15)~」
「【佐藤優】講座派の特徴、「日本の特殊な型」 ~いま生きる「資本論」(13)~」
「【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~」
「【佐藤優】宇野経済学は歴史学、資本主義社会の論理をつかむ ~いま生きる「資本論」(12)~」
「【佐藤優】『資本論』の二つの読み方 ~いま生きる「資本論」(11)~」
「【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~」
「【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~」
「【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~」
「【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~」
「【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~」
「【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~」
「【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~」
「【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~」