語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~

2018年06月09日 | ●佐藤優
 <第一次世界大戦があったから、日本ではマルクス主義の影響が強いのです。どうしてか? 明治以降、国費留学でヨーロッパに出ていたのが、第一次世界大戦中は出られなくなった。欧州の戦争に巻き込まれるといけないというので、外交官はともかく一般の日本人は留学できなくなったんです。
 ようやく第一次世界大戦が終わった頃、近代化が進んだおかげで、日本の教育の層はグッと広がりました。そこで一高、二高などでは足りなくなって、浦和高校とか松本高校とかナンバースクール以外の学校ができたんです。当然、促成栽培でも教師を作らないといけない。その時ヨーロッパを見渡すと、第一次世界大戦でドイツが負けたためにマルクが暴落しているんですよ。ドイツに留学すると、使用人や調理人を雇えて、本もごっそり買うことができる。戦勝国のイギリスやフランスに留学すると、ポンドもフランも高いですから、住むのは屋根裏部屋でろくなものも食えない。「ドイツに行くと王侯貴族の生活ができるぜ」というので、日本の青年たちはドイツに留学したのです。
 実際に行ってみると、ドイツはどんなふうだったか。パン屋に行列していて、行列の前にいた人が買った時と後ろの人が買った時では値段が変わるぐらいの猛烈なインフレ下にありました。そんな状況の時は、みんな頭へ血が上ってカーッとしていますから、マルクス主義の影響がずいぶんと強かったのです。特に大学などでは社会主義の影響は大きく、日本からの優秀な留学生はみんな社会主義の勉強をすることになりましうた。それで帰国してきて、新しくできた九州帝国大学とか東北帝国大学とかに、新進助教授として就職していった。そんな成りゆきで、日本の大学の社会科学系は、ほとんどマルクス主義に席巻されたのです。優秀な青年たちが安逸な生活を望んでドイツに行った結果、マルクス主義にかぶれて帰ってきたわけです。この講義で、これから準主役のように出てくる宇野弘蔵なんて人も、そういう青年の一人だったのであります。宇野は1897年生まれ、1977年に没した経済学者です。>

□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「1 恋とフェスティズム」の「日本で『資本論』研究が盛んなわけ」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~
【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~
【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~
【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~
【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~
【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~



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