語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】他人のための使用価値 ~いま生きる「資本論」(16)~

2018年06月13日 | ●佐藤優
 <資本家にとって商品の何が重要かと言えば、売って幾らになるかという価値ですよ。使用価値というのは、使用価値がないと商品が売れないから、〈くっつけているだけ〉なんです。そこのことマルクスは「他者のための使用価値」と呼んでいます。商品を買わせるための使用価値ですね。【引用者注:〈 〉内は原文は傍点】
 常識的に考えてみましょう。例えばわれわれが餃子屋を始めて、一日に餃子を何百個と作る。これは自家消費するため、つまり自分たちの口に入れるために作っているのではない。その餃子はあくまで売るために作っているわけです。もし餃子よりもアイスクリームの方が儲かるのだったら、アイスクリームを売ってもいいのです。アイスクリームよりもウオトカが儲かるのだったら、ウオトカを売ってもいい。ウオトカよりはエロDVDが儲かるのだったら、エロDVDでもいい。売るものは何でもいいのです、ただカネにさえなれば。
 ですから、商品にとって使用価値というのは、あくまで消極的な制約要因に過ぎない。それがないと売れないから、くっつけているだけのものです。そうすると、何が起きてくるかと言えば、例えば食材偽装ですよ。資本主義では、他者というのは儲けの対象でしかなくなるのです。すると不可避的に、儲けるためにはバレなきゃ何をしてもいいんだ、となる。だから、どうせ食材に何を使っているかなんてわかるはずないよ、という考え方が出てきて偽装が生じてくる。商品が持つのは他人のための使用価値だからです。自分が使用するものでしたら、特に食の安全性で偽装なんかしないですよね。
 これが資本主義システムの特徴なのです。自分で必要なものを自分で作るのだったら、自分に毒になるもの、有害になるものは作らない。けれども、作っているのは他人にとって必要なものに過ぎず、自分の目的はカネを得ることなのだから、手抜きも生じるし、少しでも原価を抑えられるならば多少健康に有害なものでも平気で使ってしまう。どうせ他人が食べるものだから、偽装も平気でするわけです。

□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「2 どうせ他人が食べるもの」の「他人のための使用価値」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】〈裏のユダヤ教〉カバラ思想の下に埋もれている部分を説明したフロイト ~いま生きる「資本論」(15)~
【佐藤優】講座派の特徴、「日本の特殊な型」 ~いま生きる「資本論」(13)~
【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~
【佐藤優】宇野経済学は歴史学、資本主義社会の論理をつかむ ~いま生きる「資本論」(12)~
【佐藤優】『資本論』の二つの読み方 ~いま生きる「資本論」(11)~
【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~
【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~
【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~
【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~
【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~
【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~
【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~


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