語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~

2018年06月11日 | ●佐藤優
 <整理しますと、共産党=講座派は、まず天皇を打倒して、いったん三井や三菱の天下を作るという考えです。まず資本家の世界を作って、その資本家の世界がある程度発展したら、やがて社会主義革命を起こすというわけです。労農派は、すでに三井、三菱など財閥に権力があるのだから、この財閥を打倒すればよいのだ、とした。
 こういう考え方の違いがあるところへ、1930年代になって、国家と資本の機能が変わってきたんです。国家と資本が一体化して、ある意味では資本にとっては損な部分が出てきた。例えば社会福祉にも目を向けないといけないとなってきた。ロシア革命のせいですね。放ったらかしにしておくと、社会主義革命が起きて、ソ連のような国になってしまう。そうなるよりはと、終身雇用を維持したり、会社の中の保険制度を充実させたり、会社の年金制度を作ったり、あるいは国家が各企業に拠出させて厚生年金みたいなものを作ったりする。同時に、労働組合の幹部を買収していく。そうやって、労働者のガス抜きをしながら、だんだん日本はファッショ化していったのです。
 だから今、つまり1930年代の今、何より重要なことはファシズムの到来を阻止するために、ありとあらゆる人と手を組んで、軍人や官僚や財閥と戦う反ファッショの共(協)同戦線を作らなくてはならない、そう考えたのが労農派でした。
 一方、講座派はこう考えます。「日本はまだ遅れた資本主義国だ。ファシズムというのは、帝国主義段階に資本主義が発達した国家が財閥と結びついて起きるものだ。資本主義のレベルが低い日本がファシズムになるはずはない。労農派は、存在しないファシズムの幽霊を使って、本当にやらないといけない天皇制打倒という課題から労働者を逸らす裏切り者だ」と。そして「労農派が労働者をだます社会ファシストである以上、まずやつら社会ファシストを打倒せよ」というスローガンを掲げた。これが内ゲバの論理のスタートですよ。
 ところがモスクワのコミンテルンが、ヨーロッパでスペイン内戦が起きたので、反ファッショ統一戦線を唱え出した。そこで共産党も「やっぱり日本はファシズムだ。反ファッショ統一戦線が必要だ」と言い始めることになります。しかし時すでに遅しで、治安維持法によって、まず1936年に共産党系の講座派がコム・アカデミー事件で捕まり、その翌年には労農派系の人たちが人民戦線事件で捕まります。この弾圧で日本のマルクス主義者たちは、論壇やアカデミズムにいなくなってしまいました。>

□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「1 恋とフェスティズム」の「講座派対労農派」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】宇野経済学は歴史学、資本主義社会の論理をつかむ ~いま生きる「資本論」(12)~
【佐藤優】『資本論』の二つの読み方 ~いま生きる「資本論」(11)~
【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~
【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~
【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~
【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~
【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~
【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~
【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~




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