語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】講座派の特徴、「日本の特殊な型」 ~いま生きる「資本論」(14)~

2018年06月12日 | ●佐藤優
 <そうして、佐野や鍋山は転向しました。「日本の特殊な型の中にいて、天皇のもとにおいて、その上で資本家の横暴を抑える革命はできるはずだ」と、一国社会主義運動を唱え始めるのです。彼らがそんな文章を書いたら、特高警察は獄中の共産党員に読ませるわけですよ。すると、大勢が「そのとおりだ」ところころっと転向していっちゃった。
 「日本の特殊な型の中」という、この「型」というのを重く見るのが、実は講座派の特徴なんです。戦後も、この講座派的な思考は続きました。丸山真男もそうですし、大塚久雄もそうです。あるいは、一見関係なさそうな〈日本型経営論〉とか、すぐ〈日本的な何々〉を持ち出すのも講座派の延長線上にあると考えていい。
 かたや労農派の方も変わらないというか、転ばなかった彼らは戦後においても転向しないのです。学者が多かったから、例えば映画評論を書いたりして、食べる手段があったということもあるんですけれどね。戦後の労農派は、一つは社会党に影響を与えました。もう一つ、新左翼の、いわゆる過激派も労農派マルクス主義の出なのです。その人たちの考え方は、基本的に「アメリカも帝国主義だけど、日本も十分に自立した帝国主義だ」というものです。1961年の日本共産党綱領は、戦後の日本について、アメリカ帝国主義によって半従属化にある、アメリカの巨大な影にあって、何も言えない状態だとしています。この共産党の考え方では、日本の資本主義や帝国主義の責任を免責することになってしまう。労農派の末裔たちは、そう批判しました。
 図式的に言えば、日本特殊論を唱えている人たちは、本人が自覚しているかどうかは別として、1930年代以来の講座派の枠内で考えているわけです。日本の知識人の中で講座派のフレームを使っているのは9割、もっと多いかもしれない。9割5分ぐらいを占めているかもしれません。日本人にとって、非常に居心地がいい思考のフレームになっているんですね。
 それに対して、グローバリゼーションの理論を唱えているような人たち、新自由主義的なことを主張して実践しているひとたち、TPP加盟に賛成している人たちのフレームは労農派的です。あるいは、一筋縄ではいかない形を取っていますが、柄谷行人さんの『世界共和国へ』なんて本も労農派の流れだというのが、私の見立てであります。>

□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「1 恋とフェスティズム」の「転向者たちと日本特殊論」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~
【佐藤優】宇野経済学は歴史学、資本主義社会の論理をつかむ ~いま生きる「資本論」(12)~
【佐藤優】『資本論』の二つの読み方 ~いま生きる「資本論」(11)~
【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~
【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~
【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~
【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~
【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~
【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~
【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~





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