語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】資本主義を土地(環境)が制約する ~いま生きる「資本論」(17)~

2018年06月14日 | ●佐藤優
 <この剰余価値というのは、労働者の側から見れば、搾取されていることになります。ただ、搾取は収奪ではないと前に述べましたね。資本主義社会において、搾取しない資本家はたった一種類なんです。それは、倒産した企業と破産した資本家ですよ。倒産した企業は賃金を払うことができませんから、搾取をしている企業よりもタチが悪いんです。資本主義はそういうシステムなのです。
 資本家と労働者がいるのなら、その二者で利益を分けたらいいじゃん? そうはうまくいかないんですよね。土地を持っているやつらに地代を払わなければいけない。マルクスはそう論じていきます。実は、ここをどう解釈するかはけっこう大変なところなんですけれども。でも、まずは素直に解釈しておきましょう。要するに、資本によっても労働力によっても、土地は作れないのです。
 この「土地」というのは、広い意味での土地です。環境です。例えばマルクスは土地の豊饒力というものも考えています。『資本論』を書いた時代には、化学肥料がまだ発明されていませんから、土地の持つ豊饒力は重要な要素でした。このへんは、今では化学肥料を撒くと豊饒力がバーッと上がりますから、われわれの皮膚感覚ではわかりにくくなっている。あるいは水力。川の横にある土地は水車を回すことができるから非常に地代が高い。こういうところも今のわれわれには皮膚感覚的にはわかりにくくなっています。
 ただ、いずれにせよ重要なのは、この土地は環境を指しているということです。これが資本主義の「環境制約性」なのです。環境問題は、資本主義が暴走する際のストッパーになりうるのです。環境は、つまり土地も水も空気も、資本によっても労働によっても作り出せない。だから環境を持っている者は、環境を資本主義的に使われることの対価として、資本家の剰余価値の一部を分与される仕組みになっているのです。わかります? まあ、今すぐわからなくても、繰り返しこのことは説明することになるでしょう。
 となると、マルクスが『資本論』で言っているのは、労働者の賃金は資本家からの分配ではないということですよ。労働者の賃金は生産論で論じられるのです。生産の際に、労働力を再生産するためにはどれくらいの賃金ならいいかが決まってしまう。会社がいくら儲かっても、それが労働者へ流れて行くということは原理的にない、というのが『資本論』の考え方です。資本は生産過程において、商品化された労働力を得て、産業資本となっていく。そこのところですでに賃金は決まっている。
 利益の分配というのは、資本家同士(含、地主)でされるものなんです。新しい機械を作っている資本家への分配、あるいは金融資本の人と産業資本の人の間の分配、さらに土地所有者との間の分配。労働者は分配とは関係がない。これが『資本論』の基本的な枠組みです。>

□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「2 どうせ他人が食べるもの」の「労働者と資本家と地主」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】他人のための使用価値 ~いま生きる「資本論」(16)~
【佐藤優】〈裏のユダヤ教〉カバラ思想の下に埋もれている部分を説明したフロイト ~いま生きる「資本論」(15)~
【佐藤優】講座派の特徴、「日本の特殊な型」 ~いま生きる「資本論」(13)~
【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~
【佐藤優】宇野経済学は歴史学、資本主義社会の論理をつかむ ~いま生きる「資本論」(12)~
【佐藤優】『資本論』の二つの読み方 ~いま生きる「資本論」(11)~
【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~
【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~
【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~
【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~
【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~
【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~
【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~




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