語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~

2018年06月06日 | ●佐藤優
 <あと、私が直接的人間関係を重視している分野は書籍の世界です。「この本はいいよ」と私から友人に勧めた時、その本を相手が読んでみたいと言ったら、対価を取らない。本を貸すのではなく、あげます。その代わり、人から本をもらう時は「お金を払います」とは言わない。割り勘と書籍のやり取り、この二つぐらいは励行しています。
 何を迂遠なやり方をしているんだと呆れられるかもしれませんが、しかし、そういうふうに直接的人間関係を育んでいるとちょっと違う景色が見えてくるのです。みなさんにも、今のこの資本主義社会における雁字搦めの中で、何か一つ二つ商品経済とは違う分野を作ってみることをぜひお勧めします。家庭菜園でできた野菜を只で友だちにあげる、とかでいい。そして家庭と--独りで暮らしていても、シジミを飼うことでホッとできる、と群ようこさんの小説にあるように、家庭は持ちえるのです--、相性の合う友だちが十人もいれば、人生って充分ではないでしょうか。そしてそこには商品経済を介在させないでおく。そんな小さなことが資本主義社会を内側から克服できるきっかけになるかもしれない。あの東北の大震災の後、被災者の人たちが身を寄せた体育館などの施設では、理想的な空間ができたと言います。食事も着るものも譲り合い、便所掃除その他もみんな不平を言わずに分担していた。力仕事ができる人が力仕事をした。そこにはむろん、おカネは介在しませんよね。直接的人間関係だけがあった。ただし、これは数週間しか持たなかった。長続きはしなかったけれど、そんな空間が現にありえたのです。これも何かのヒントになるかもしれません。
 あとは、外部と言ってもいいし、超越的なものと言ってもいいけれど、文学とか宗教といったものから資本主義社会を見るという姿勢もあっていいでしょう。柳田國男、あるいは柄谷行人さんのところで少し言いましたが、〈目には見えないが確実に存在する実体的なもの〉を考え、感じることは今後ますます重要になってくると思います。例えば、そこから改めて『資本論』に戻り、擬制資本がいかにフィクションかを考え直すこともできるはずです。>

□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「6 直接的人間関係」の「自分の周りでできること」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~
【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~
【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~
【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~
【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~




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