第30回「つながる言の葉」はこちら。
万城目学の新刊「六月のぶりぶりぎっちょう」は楽しい本だった。直木賞をとった「九月の御所グラウンド」につづく、歴史上の有名人登場シリーズ(勝手に名付けました)なのだが、1作目よりも万城目らしいユーモアがぎょうさん仕込まれております。直木賞万年候補のころのような、息苦しい感じが消えている。だからもっとはやく直木賞をやればよかったのに(森見登美彦にもはやくあげてください)。
さて、そのぶりぶりぎっちょうには中篇が二作。表題作と、「三月の局騒ぎ」で、この三月が実にいい。女子寮に入寮した主人公は、偶然手にした夏目漱石の「坊っちゃん」に夢中になる。特に坊っちゃんと女中の清(きよ)の交流がすばらしいと。わかりますね。坊っちゃんのあのラスト、
「だから清の墓は小日向の養源寺にある。」
は日本文学史において燦然と輝いている。
で、その女子寮には「キヨ」と呼ばれる伝説の十二回生がいて、主人公と同室になる。そして、主人公がかつてネットにアップしたエッセイを評価し、もっと書けとはっぱをかける。主人公はキヨのブログを読み、その面白さに驚嘆する。
ある日、主人公はキヨが橋の上で
「春はあけぼの!」
と絶叫するのを見る。そして彼女は消えていく。
おわかりですね、キヨが誰をモデルにしているか。うまく夏目漱石とつなげたなあ。
清少納言が藤原定子を慰めるために枕草子をしたためたのと似た経緯で、まひろは物語を書けと藤原道長に迫られる。彼のリクエストは多分に政治的なものだが、帝という読者を提示されてまひろは書き始める。
「いづれの御時にか」
まさかあれほど長大なお話になるとは本人も思っていなかったでしょうが。
第32回「誰がために書く」につづく。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます