事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ぼけますから、よろしくお願いします」(2018 ネツゲン)

2019-02-18 | 映画

鶴岡まちなかキネマで鑑賞。老人介護のお話。認知症がすすむ87歳の母を、95歳(大正生まれ!)の父親が見守る……金を積まれてもみたくないタイプのドキュメンタリー。いつか自分にもやってくる(もう来ている)“老い”という冷厳な事実を、だからこそなんとか先送りしてしまいたいと。でも見る。

監督、撮影、ナレーションはドキュメンタリー作家の信友直子。1961年生まれ、というからわたしとほぼ同世代だ。わたしは高齢の父親と同居しているが、信友は呉の実家から遠くはなれた東京にいて、

「ただいまあ」

と何度も実家に帰ってくる生活。はじめは気軽なプライベートビデオだったはずのものが、母の認知症とともに「作品」になっていく。撮ることそれ自体に意味が発生したからだ。結婚しろとも言わず、好きな映像の仕事をつづけさせてくれた両親への、記録することが義務と感謝だと。

わたしの妻も、すっかり身体の弱った母親のために、毎日実家に通っている。見始めて数分後、となりに座った彼女のマスクの奥から「ぐがぐぎごご」と不穏な音が。

号泣しているのでした。

わたしも、“抗がん剤のために脱けた娘の髪の毛を拾う母親”なんて場面にはやはり泣かされた。しかも、このお母さんはユーモアたっぷりなのであり、だから娘がストレッチャーで運ばれた途端に涙を流すシーンは強烈。

認知症は、わずらった本人は幸福でまわりが大変、という思いこみが大嘘だと気づかせてくれる作品でもある。自分が自分でなくなっていく恐怖

父親は慣れない家事を淡々とこなす。「あたし(実家に)帰ってこようか?」と娘が問うと、戦争のために文学を学びたかった夢を諦めざるをえなかった彼は「仕事をつづけろ」と言い放つ。東京大学文学部に入学した自慢の娘のことを、だいじに思っていることが伝わってくる。

広島県呉市が舞台。あの傑作「この世界の片隅に」のすずと同じ場所、同じ時間をこの夫婦は過ごしている。呉の方言がひたすら味わい深い。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« いだてん 第7回 おかしな二人 | トップ | 明細書を見ろ!2019年2月号 ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事