事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「希望荘」 宮部みゆき著 小学館

2016-07-11 | ミステリ

誰か Somebody」「名もなき毒」」「ペテロの葬列」につづく、わたしが勝手に“お婿さんシリーズ”と呼んでいる杉村三郎を主人公とした宮部みゆきの最新作。もはや三郎は大コンツェルンの婿殿ではなく、私立探偵としての生活を本格的にスタートしているけれども。

前作のラストでそのことを予感させ、期待がふくらんだところで新作のタイトルが「希望荘」。宮部みゆきで、希望荘。期待するなという方が無理でさっそく購入。待っていた人がとても多かったようでベストセラー街道驀進中。そうなるよな。

読み終えて、とても満足。日本の私立探偵の地味な生活の描写に納得。登場するキャラも、宮部みゆきのことだからみんな壮絶に立っていて魅力的。

しかしこのシリーズは、ほんわかとしたほのぼのミステリというだけではない(ほのぼのミステリ、わたし大好きですけど)。もうひとつの特徴は、描かれる犯罪がとてつもなく邪悪だということなのだ。

わかりやすいのが「名もなき毒」だった。あの“犯人”の邪悪さは比類がない。三郎や家族はその邪悪さに少なからずダメージを受ける。読者のこちらも、毒にあてられて痛い思いをしたっけ。

この「希望荘」には4篇おさめられているが、それぞれに毒がしこんである。キャラの描き方がみごとなので、“人は見かけによらない”のもきちんと説明できているのだ。

これら悲しい犯罪に立ち向かうのが、徹底的に「いい人」である三郎。ハードボイルドな悪漢探偵や、強面の刑事が主人公なら、悪と悪の対決に手に汗をにぎり、気持ちよく読み終えることができるだろう。でも三郎は深い哀しみをおぼえ、そして読者もせつなく読み終えることになる。

加えて今回は東日本大震災が日本人をどう変えたかという影のテーマすら感じさせるのだ。希望荘というタイトルに作者がどんな思いをこめたか。絶望があり、希望がここにある。

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