芦原太一は、ボクシングに打ち込む21才。努力が報われようとしていたそのとき、オートバイ事故で下半身麻痺となり、つかみかけた夢を失う。一時は自殺まで考えた太一だったが、ギャンブラー兼巫女(&処女)という不思議な女性サマ子との出会いによって、次第に明るさを取り戻していく。そんなとき、彼にとって最大の転機となるAIKI=合気柔術との出会いが、太一の人生に、別の夢を与えることとなる……
この映画にのれるかのれないかの分岐点は、相手の力と存在を受け入れ、ほとんど相手にふれることなく跳ねとばす大東流柔術をどう捉えるかにあるだろう。オカルトではないかと思えるほどの技である。確か由美かおるなんかが在籍していた西野バレエ団の会長がこんな武術を会得していて、それこそアッという間に何人もの対戦相手をバッタバッタと投げるのを見て、あーこりゃイカサマだな、とわたしはすぐに結論づけたし、宗教もちょっと入ってるんじゃねーのー?とか思っていたのだった。
「AIKI」の場合、その胡散臭さはもちろんあるものの(少なくとも入門しようとは思わない)、車椅子の青年が極真系の空手家を投げ飛ばす爽快感がとにかくハンパではないので、ま、映画の中ならこういうのもアリってことでいいっしょ、ぐらいの気持ちにはなれた。展開は恐ろしく古臭いのだが、障害者を演ずる加藤晴彦が「障害者がいい人でいなけりゃならない理由は無い」って感じの“普通さ”を出していてすばらしい。脊髄損傷(「せきそん」と略称されているのがリアル)の人間の、排泄やセックスがどんなものなのか、加藤の軽さもあって、息苦しさや過度の同情なしに観ることができた。バラエティでは徹底的にお馬鹿な加藤だけれど、ひょっとしたら大化けするのかも。黒沢清の映画でもいい味出してたし。
そして、石橋凌演ずる合気柔術の師匠がサラリーマンという設定がなにより効いている。小市民的な武道家、とはいかにも現代だ。日本映画界の曲者俳優総出演だし、かなりの拾いモノ。井上雄彦の「リアル」とともに必見。こんないい映画を、95円レンタルで観ちゃダメだよなオレも。
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