事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「復讐するは我にあり」(1979 松竹)

2009-09-20 | 邦画

Vengeanceisminep原作:佐木隆三(直木賞受賞作)

監督:今村昌平

出演:緒形拳 三国連太郎 ミヤコ蝶々 倍賞美津子 小川真由美 清川虹子 北村和夫 

「この家には悪魔がいる」

「本当に殺したい人間を殺したのかね」

「殺すなよ、榎津」

30年ぶりに再見。緒形拳がおしゃれに(ほんとうに、おしゃれです)演じた連続殺人犯榎津(モデルは昭和38年から39年までの間に5人を殺した西口彰。死刑執行済み)が、結局のところ父親に反抗するだけの子どもであることを、ここまで強調していたのかとしみじみ。原作も凄かったが(映画化権争奪は熾烈だったと記憶する)、今村の視線は露骨なぐらい。

父である三国連太郎と、妻である倍賞美津子の関係を疑い、それでも心のどこかで父親に甘えている殺人鬼。母親(ミヤコ蝶々)に溺愛され、母にだけはいつもよい子でいる悪魔。際立たせるためか、娘二人と同じ画面には一度も榎津は描かれない。つまり、自らも父親である背景は完全に無視される。おまけに、最初の殺人に至る過程まですっぱり省いてあるのだからその徹底ぶりは確信犯。

そのかわりに、熟した女優たちとの大胆な濡れ場が連続する(榎津の性豪ぶりは、今村らしく何度もしつこいくらいに描写される)。小川真由美がここまでやってくれているとは忘れてたなあ。それはすべて、名高い倍賞美津子と三国連太郎の露天風呂のシーンが印象深かったからか。

絞殺したあとに、失禁した小川真由美の身体を丁寧にふき取る榎津の、それが小川への愛情なのか、それとも殺人の現場を少しでも整理したいという悪魔の所業なのか、おそらく榎津自身にもわからなかったのだろう。殺人を犯した母親を持つ売春宿の女将を、小川真由美は“無邪気そうに”演じていてむしろ殺人者よりも怖ろしい。

「お義父さんの、ずるかとこが好き」

学生のころには、倍賞美津子のこの言葉の凄みがわからなかった。少なくとも、それが理解できるくらいにはわたしもオトナになったわけだ。それだけかよ。

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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
実在した連続殺人犯を題材とした映画だと聞いてお... (台湾人)
2010-12-23 23:53:43
実在した連続殺人犯を題材とした映画だと聞いております。勿論過激で激しい性描写も物議を醸したそうですね。

日本はフランスと同じ性的描写に対する規制が寛大なので、すごいなといつも思います。
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これはむしろ逆でしょうね。性的描写についてきび... (hori109)
2010-12-24 00:01:33
これはむしろ逆でしょうね。性的描写についてきびしくて、暴力描写が野放し、と言った方が正解です。
この映画でも、三国連太郎と倍賞美津子の入浴シーンがよく話題になりますが、緒形拳がちゃちい凶器で淡々と人を殺す部分の方がかなり怖い。
もちろん、今村昌平のねらいもその“淡々と”の部分なのでしょうけれども。
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数年前にフランス映画の「王妃マルゴ」を見てその... (台湾人)
2010-12-25 10:32:59
数年前にフランス映画の「王妃マルゴ」を見てその大胆な濡れ場に少しびっくりしました。

ヴァンサン・ペレーズの真正面の全裸のシーンがあり、彼の性器も丸見えでした。イザベル・アジャーニとヴァンサン・ペレーズは町の隅っこですぐセックスをするので、アンリ4世の時代って意外と大胆なんだなと思いました。

アンリ4世とマルゴの政略結婚のお祝いで宮殿が酒池肉林になるシーンも印象的でした。宮殿の廊下でそのまま性行為に及ぶ者もいたので、せめて部屋でドアを閉めてやった方がいいのにと思いました。

銀幕の妖精と喩えられたイザベル・アジャーニの魅力を何となく理解できました。緒形拳が亡くなったのは本当に残念に思います。この前エリック・ロメール監督とクロード・シャブロル監督の訃報を知った時も大変残念に思えました。
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わたしの世代にとって、イザベル・アジャーニとい... (hori109)
2010-12-25 12:24:03
わたしの世代にとって、イザベル・アジャーニという単語は無視できません(笑)。特に濡れ場というフレーズといっしょだと。
西欧人の、というかフランス人の性描写に対する態度は、むしろオトナなんだな、と感心します。
小手先のぼかしなどのテクニックばかり洗練されてしまった国の人間として、ほんとにそう思います。
もっとも、だからこそこのサイトでも「ヘアーの不毛」なんて特集ができるわけなんでご覧になってください。
「王妃マルゴ」もいただきだっ。
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緒形拳も三国連太郎も日本ではフランスのジャン・... (台湾人)
2010-12-26 00:58:35
緒形拳も三国連太郎も日本ではフランスのジャン・ルイ・トランティニャンやジャン・ポール・ベルモンドのようなベテラン男優だと聞いています。

私は1983年生まれで、ファニー・アルダン、イザベル・ユペール、サンドリーヌ・ボネール、ジャン・ルイ・トランティニャンやランベール・ウィルソンなどの俳優が好きです。

特に1950、1960、1970、1980、1990年代の日本の政治や歴史そして大衆文化に興味津々な私なので、仮に奇天烈大百科やドラエモンみたいにタイムマシーンがあれば、昔の日本に戻って生活したいと思います。
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トランティニャンはいい例えかもしれません。 (hori109)
2010-12-26 09:07:48
トランティニャンはいい例えかもしれません。
彼のように、被害者のようにも加害者のようにも
見える俳優ですしね二人とも。

日本の近代史は面白いかなあ。
少なくともこれだけ長い間、民主主義国家のくせして
政権の交代がなかったという意味では
興味深いですね(T_T)
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実は私、緒形拳の訃報を聞いた時初めて彼のことを... (台湾人)
2011-01-15 23:23:57
実は私、緒形拳の訃報を聞いた時初めて彼のことを知りました。息子さんの緒形直人のことはずっと前から存じていましたが、こんなに有名な男優が彼の父親とは全く知りませんでした。

本当にハンサムでセクシーで渋い方だなと思います。「復讐するは我にあり」のポスターの怖い眼差しとは対照的に他の写真や画像では暖かくて優しい笑顔と眼差しが印象的でした。

日本もアニエス・ヴァルダ監督の「百一夜」のような映画を製作する時には絶対に緒形拳の映像は欠かせないと思います。
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アニエス・ヴァルダの作品を一本も見ていないので(... (hori109)
2011-01-16 22:11:37
アニエス・ヴァルダの作品を一本も見ていないので(T_T)
えらいことは言えませんが、少なくとも緒形直人のお父さんは
“どんな作品にも自然に入り込める”という意味で
“スター”ではなくてどこまでも“俳優”だったといえるでしょう。
彼が三島由紀夫を演じた「MISHIMA」は、機会があったら
ご覧になることをおすすめします。
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急に大変失礼ですが、本日の大地震で東北地方が大... (台湾人)
2011-03-11 23:54:59
急に大変失礼ですが、本日の大地震で東北地方が大きな被害を蒙ったそうですが、そちらの方は大丈夫でしょうか?

テレビで見ていると本当に心が痛み残念に思えます。
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お久しぶりです。兵役は先週の9月23日金曜日が最終... (台湾人)
2011-10-01 18:12:57
お久しぶりです。兵役は先週の9月23日金曜日が最終日で平穏無事に終了しました。

9月17日土曜日から連続三日間の外交官の国家試験を受けていました。国際法と国際経済の二科目は数文字しか書けず殆ど白紙状態に近かったので、その翌日月曜日の口答試験は受けても何の意味もないと思いつつ、有終の美を飾ろうという気持ちで最後まで受けました。

今は就職に備えて色々と準備中で正直言うと不安と緊張に見舞われております。

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