PART21「草燃える」はこちら。
80年は、あの山田太一の「獅子の時代」。これまでの大河とは多くの部分で違っている。
・完全オリジナルであること
・差し障りの多い明治のお話であること
・主演がテレビドラマ初である菅原文太だったこと
・音楽にクラシック系ではなく、宇崎竜童を起用し、テーマ曲にボーカルが入ったこと
・なにより、旧会津藩士が主人公という“敗者”の物語だったこと
またしてもNHKは大バクチを敢行。
プロデューサーの近藤晋さんは菅原文太の起用にこだわったが、当時の文太は「トラック野郎」シリーズで東映の稼ぎ頭(というかヒットするのはこのシリーズしか当時はありませんでした)だったので、東映は渋った。しかし文太自身がぜひやりたいと主張し、岡田茂社長が許可を出したのだという。不屈の反抗者、という設定に文太は惹かれたのだろうか。
もうひとりの主演が加藤剛。こちらは薩摩藩士という役どころ。つまり維新の勝者と敗者をめぐるお話だったのだ。
出演は他に大原麗子、大竹しのぶ、香野百合子(大好き)、千秋実、志村喬、沢村貞子。実在の人物として大久保利通が鶴田浩二、江藤新平が細川俊之(彼は印象深かった)、伊藤博文に根津甚八。役所広司の大河初出演作でもある。やはり、NHKっぽくないキャスティングという印象。
70年代末の山田太一は、「男たちの旅路」「高原へいらっしゃい」「岸辺のアルバム」「沿線地図」(岸惠子と真行寺君枝の美しさときたら!)と傑作を連発していて、その余勢をかっての大河登板。作品の評価は高かったけれども、山田は再び大河を書くことはなかった。
視聴率的には低迷。わたしも毎回見ていたわけじゃない。それはなぜかというと、この年、日曜8時は日テレが「西遊記Ⅱ」、TBSが「天皇の料理番」そしてテレビ朝日で「西部警察」がオンエアされていたのだった。歴史に残る大河なので残念。最終話で、不屈の姿勢を見せた文太はかっこよかったなあ。
……そして加藤剛の訃報が飛びこんできた。哀しい。端正な人物を演じさせたら日本一の人だったのに。だからこの大河では菅原文太との対比が効いたのだ。「風と雲と虹と」ではあの平将門役を自らの意思で選ぶ硬骨さも見せた。
映画ではもちろん「忍ぶ川」「砂の器」近年では「舟を編む」が代表作。わたしは彼の一生は幸せなものだったと思う。なんというか、やり残したことがないような気がするのだ。失礼な物言いになっているだろうけれども、これ以上の何を望むだろう。日本中が彼のことを信頼していたというのに。
もっと破綻を見せてほしかった?よく考えてくださいよ。彼の端正な演技がなければ、「砂の器」は単なるわがままな殺人者のお話に堕したかもしれないのだ。合掌。
PART23「おんな太閤記」につづく。
低音美声の極みで,誠実な役が似合う方でした.
その誠実さのイメージで加藤剛さんを連想して,
こちらにもコメントを.
加藤さん晩年(?)の「舟を編む」では,
役柄にこれ程ぴったりな方は他に考えられず,
キャスティンググッジョブでしたね.
「獅子の時代」は未見ですが,’端正’な演技
とても想像できます.
私は主演ドラマ「ちょっと神様」が印象的で,
今でもパッヘルベルのカノンを聴くと
このドラマの加藤さんを思い出します.