事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ある男」(2022 松竹)

2024-04-16 | 邦画

原作が「決壊」「ドーン」の平野啓一郎。監督は「愚行録」「蜜蜂と遠雷」の石川慶、脚本が山下敦弘とのコンビが多い向井康介。キャストは妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、柄本明……これだけの作品を、なぜ見逃していたのだろう。ちょっとびっくりするくらいすばらしい映画だった。

離婚して、故郷の宮崎にもどった里枝(安藤サクラ)は、文房具店を営みながらつらい日々をすごしていた。そこへ、画材を求めてある男が訪れ、大祐と名乗ったその青年(窪田正孝)と里枝の距離は次第に縮まり、先夫との子、二人の間の子の四人で穏やかな生活が始まる。

しかし、不幸な事故で大祐は亡くなってしまう。彼の兄(眞島秀和)が訪れ、遺影にお線香をあげるが、兄はいぶかしむ。

「これ、大祐じゃないですけど」

では、彼はいったい何者だったのか。理江は離婚したときに世話になった弁護士、城戸(妻夫木聡)に調査を依頼する。城戸はその調査にのめりこんでいく。彼が在日であることを柄本明に一瞬にして理解されるあたりの仕掛けがうまい。

この、名もなき男の人生こそこの映画の勘所。名を捨てるという選択肢については、そうだろうなとも思いつつ、そうなんだろうかとも。

石川慶は「愚行録」に顕著だったが、エキストラの一人ひとりにまで自然な演技をさせたていねいな監督だ。その特徴はこの作品でも充分に発揮されている。妻夫木、安藤、窪田以外のキャストも、ドラマと有機的にからんですばらしい。

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