天の巻だけで四巻まで出ています。なにより、グレイシー柔術を生んだ前田光世を描こうと思っていたら(だから最初に木村政彦が出てくる)、講道館と嘉納治五郎に夢中になってしまい、だから前田は最後の最後に子どもとして出てくるだけ(笑)。
いやしかしそれにしても面白い小説だ。餓狼伝を読んでいないので、夢枕獏の格闘小説に慣れていないことを差し引いても、その面白さにクラクラきます。
明治期の有名人が次から次へと登場。もちろん、それは夢枕が「こうであったかもしれないと夢想しただけ」であるにしても、「八重の桜」ではひたすら無能だった西郷頼母が、秘術を伝承するのが西郷四郎(あの姿三四郎のモデル)であるなど、わたしも明治がこんな時代であってくれたらと切望します。
柔道とは嘉納流柔術であるにすぎず、だから他の格闘技と交わることで変容するのはむしろ理の当然だという(おそらくは)陰のテーマは説得力がある。
嘉納治五郎の優れた点が、柔術に理論を持ち込んだことで、そのために旧式の教えから脱却できない他の柔術よりも上達が速いというのも納得。
そう考えれば、体罰や暴言がうずまき、コーチへは絶対服従、国際ルールへの対応も遅れ……な現在の柔道界に、嘉納は失望しているだろうと推測。
東天の獅子〈第1巻〉天の巻・嘉納流柔術 価格:¥ 1,944(税込) 発売日:2008-10 |