榎本武揚という人がどうにもわからなくて読む。幕臣で外国通、とくれば勝海舟を思い出すけれど、この書では徹底して彼は悪役あつかい。徳川の世から一足飛びに共和政へと考える榎本と、薩摩への肩入れを隠そうともしない勝。そうかこういう考え方もあるわけだ。
ふたりのよって立つところが(勝)安房守と(榎本)和泉守という、徳川からもらった名前であることも否定できない。
箱舘戦争についてもよく知らなくて、土方歳三が死んだんだよなあ程度の認識。ここから榎本がどう跳躍するのか……そこは苦いラストで象徴させていました。
兵器、兵員、兵站のいずれもに圧倒的な差があったとはいえ、榎本はほぼ連戦連敗。このあたりは史伝としてちょっとしんどいところではありました。船を出すたびに嵐が来るという運のなさはこの人に最後までついてまわったか。
法をもとに紛争を解決しようとするその近代的姿勢を、たとえば大久保利通あたりはどう評価していたのだろう。あるいは、情の人である(ように見える)西郷隆盛を榎本はどう考えていたのだろう。
にしてもさ、「八重の桜」で呆然とした徳川慶喜の大阪脱出作戦(榎本は乗っていた船を“略奪”されたようなものだ)はありえない。佐々木譲の筆も呆れかえっております。
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