事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「PLUTO」完結

2009-07-11 | アニメ・コミック・ゲーム

Pluto08  長期連載ついに完結。誰にとっても、この「PLUTO(プルートウ)」でもっとも印象的なのは第一巻のラスト、鉄腕アトムの登場シーンだろうと思う。日本を訪れた刑事ロボット、ゲジヒトは雨の中をやってくる“普通の少年”(髪の毛はフードで隠されている)に声をかける。

「君が……アトムくんだね?」

 手塚治虫の名作を浦沢直樹が戦略的にリメイクした「PLUTO」は、しかしこの場面にさまざまな仕掛けをほどこしている。サッカーボールを蹴りながら仲良く下校する人間の少年たちの後を、アトムは独りさびしく歩いている。道ばたのカタツムリに好奇心をむき出しにするアトムに、同じように高レベルなロボットであるゲジヒトは内心たじろぐ。これが、ロボットなのかと。

 つまりわずか数ページに、人間に疎外される存在としての少年ロボットと、生物を慈しむことすら会得し、人間との境界線すらあやうくなっている高機能ロボットのアトムという両面を描写しつくしているのだ。

 アトムは出生からして哀しい。天才科学者天馬博士の一人息子、トビオの代替物としてつくられ、あまりにも優等生だったために疎んじられる……。10万馬力相当の身体に100万馬力を注入し、人工頭脳に60億人分の人格を付与したために“目覚めなくなってしまう”あたり、うまい脚色だ。オリジナルの手塚バージョンは、ちょっと(でもないか)調子が狂うぐらいなのだが。

 浦沢直樹の語り口はますます絶好調。兵器としてつくられ、多くの同胞を破壊したトラウマをかかえながら、ピアノを習得しようとするノース2号の挿話など、彼がプルートウに破壊される場面が描かれないからこそ泣ける。

7体の高性能ロボットはなんのために破壊されなければならなかったか。アメリカのイラク攻撃とからめながら、最終的な“敵”に合衆国のアルティメットコンピュータ(テディベアの姿をしているのでDr.ルーズベルトと呼ばれている)を設定し、仮想敵だったプルートウとボラーの哀しみを増幅させてもいる。

もっとも不気味で、ロボット三原則がありつつ『殺人を行ったことがある唯一の(と思われていた)ロボット』ブラウ1589が、最後にアトムに……くーっ、うまい。柳生烈堂と大五郎の関係みたい(あ、ネタバレ)。もう一回最初っから読まなきゃあ。全8巻を豪華版で買っといてよかったよー。

コメント
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