陰陽師的日常

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サキ「平和的なおもちゃ」前編

2008-05-28 22:35:48 | 翻訳
サキのつぎの短編は "The Toys of Peace" です。
原文はhttp://haytom.us/showarticle.php?id=85で読むことができます。



平和的なおもちゃ(前編)


「ハーヴェイ」エリナー・ボウプは弟にロンドンの三月十九日付の朝刊の切り抜きを渡した。「ねえ、ちょっとこれを読んでみて、子供のおもちゃについてのところ。これ、影響と教育についてのわたしたちの考えを、そのまま実践してるわよ」

「全国平和競技会の見解によれば」と切り抜きは言う。「我が国の少年層に兵士連隊や砲兵隊、『ドレッドノート型戦艦』の小艦隊のおもちゃを与えることには、極めて重大な難点がある。評議会としても、少年たちが本能的に闘いや武器を好むことは認める……だが、彼らの原始的な本能を涵養し、あまつさえそれを恒常的資質として植え付ける必要はない。児童福祉博覧会が三週間に渡りオリンピアで開催されるが、平和評議会は「平和的なおもちゃ」を展示することで、保護者に向けて、それに代わるものを提案したいと考えている。ハーグの平和宮の彩色像を取り囲むのは、ミニチュアの兵隊ではなく、ミニチュアの文官であり、銃の代わりに農具や工作機器である……。玩具生産者もこの展示から示唆を受けることを期待する。玩具店の店頭でもその成果が披露されんことを。」

「確かにこの考えは興味深いし、まちがいなく善意から来たものだろうね」ハーヴェイは言った。「でも、実効性があるかどうか……」

「やってみましょうよ」姉は最後まで言わせなかった。「あなた、イースターには家に来て、子供たちにおもちゃをプレゼントしてくれるでしょう? 新しい実験を始めるには願ってもないチャンスじゃない。おもちゃ屋に行っておもちゃでも模型でも、もっと平和的視点をもった、民間人の生活を体現するようなものを買ってきてよ。もちろん子供たちにはそのおもちゃのことを説明して、この新しい考え方に興味をちゃんと持つようにしてやってちょうだい。スーザン叔母さんがあの子たちに送ってくれた『アドリアノープルの闘い』の模型は、悲しいことに説明するまでもなかったのよ。軍服だろうが軍旗だろうが、敵味方の司令官の名前まで知ってるの。ある日なんか、きわめつけの悪い言葉を使ってるのが聞こえてきたのね、あの子たちったらそれをブルガリア語の命令だなんていうのよ。もちろん、そうかもしれないけどね、とにかくわたしはそのおもちゃを取り上げることにしたわ。だから、あなたがイースターに贈ってくれるプレゼントが、子供たちの心に新しい感情と方向付けを与えてくれるのを、すごく期待してるのよ。エリックはまだ十一歳にもならないし、バーティときたらたった九歳と半よ、あの子たち、ほんとに影響を受けやすい年代なの」

「原始的な本能は一応、考慮しておかなくちゃ」ハーヴェイは、どうかな、という顔で言った。「それに遺伝的な傾向もある。あの子たちの大伯父にあたるひとりは、インケルマンの戦いに参加して、それはそれは残虐な振る舞いをしたんだよ、確か。それにひいじいさんにあたる人は、1832年の選挙法改正条例が通貨したとき、近所のホイッグ党員の温室をぶちこわして歩いたんだ。まあ、姉さんの言うとおり、あの子たちが影響を受けやすい年頃であることにはまちがいない。とりあえずやってみるよ」


(平和的なおもちゃは功を奏するか。明日につづく)


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