陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

金魚的日常 その2.

2004-11-17 18:04:33 | weblog

2.0+2=2


キンギョがウチに来たのは、いまから三年前、2001年の秋にさかのぼる。
9月の連休を利用して、甥っ子1号&2号が遊びに来たのだ。
見知らぬ風景を喜んでみていたのもつかの間、すぐに退屈し始め、おもちゃがない~、ゲームがない~と言い出した。
仕方なく、近所のショッピングモールにでも行こうかと外に連れ出したところ、たまたま通りかかった神社で、お祭りをやっていたのだ。

「何か買いたい~」と目を輝かせるチビたち。
欲望する主体は家庭で形成されるのだなー、と改めて納得(ナンノコッチャ)。
「ひとり、1個だけよ」と釘をさす(叔母ちゃんは貧乏なのだ)。
よくしたもので、だいたどれも300円。
いったい何を買うんだろう、とあちこちのぞくチビたちを人混みのなかで見失わないように気をつけながら、あとをついていく。
3歳の甥っ子2号は何とかレンジャー(名前は忘れた)のお面。
5歳の甥っ子1号は、鈴カステラにしようか、当て物もやりたいな、と目移りしていたのだが、とある出店の前で動かなくなった。
それが金魚掬いだった。

「ダメだよー、捕まえられても、Uちゃんちに持って帰れないよ」
と言っても、その場から動かない。
魂を抜かれたように、口を半開きにしたまま、キンギョのプールを見つめるばかり。
「しょうがない、一回やってみようか」
300円払ってポイ(紙が張ってあるやつ)とアルミの容器をもらったけれど、姉に似て、俊敏そうな体つきのくせに鈍くさい1号は、あっという間に破ってしまった。
後ろに“掬えなくても2匹あげます”とあるのに、先ほどの会話を聞いていたおっちゃんは、容器を返しても、キンギョをくれようとしない。
「2匹、ください」と主張すると
「いるんでっか?」
それはないでしょう。
「ください」
かくしてめでたく1号は二匹のキンギョを手に入れた。

水の入ったビニール袋を、愛おしげに眺める1号。
うらやましそうな2号は
「どっちか、Kちゃんにもくれない? Uちゃんがいらない方でいいから」と言ったにもかかわらず、
「ダメ」とニベもない返事。

もちろん水槽なんてものはないので、帰ってきたらすぐ、洗面器に水道水を張って、その中にキンギョを入れた。
「キンギョさん、泳いでるねー」
「楽しそうだねー」
「こっちのキンギョさん、じっとしてるよ」
「こわがらなくていいよー、ここがおうちだよー」

へ? ここがおうち??

間もなくママが迎えに来た。
「キンギョ、何に入れていく?」
「やだ、あんた、世話してよ」

脳裏をこれまで姉と過ごした日々の断片が、走馬燈のように駆けめぐる。
確かに姉は世話好きとはほど遠かった。
メンドーなことは、全部、母か妹に押しつけてきたのではなかったか。
結婚する、子どもを産む、と話が出るたびに、私と弟は顔を見合わせたものだ。
大丈夫か?

ところが、なんだかんだ要領のいい姉のこと、端から見れば、実にそつなくこなしているように見えた。
アカンボの世話も、ふたりのちっちゃな男の子の世話も、離れて暮らして会うのは年に数度、ということもあるのだが、うまくやっているように見えたのだ。

「Uちゃんちに連れて帰る~」
「キンギョさんはねー、新幹線に乗れないでしょ、おねえちゃんが面倒見てくれるんだって。UちゃんもKちゃんも、おねえちゃんちに来れば、いつでも会えるよねー」

だれが面倒見てやると言ったよ……。

かくして私は、キンギョ二匹を買うことになってしまったのだ。
テキ屋のおっちゃんに「ください」なんて言ったばっかりに……。


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