その3.
アリスン夫人はガラス製耐熱皿の梱包をしっかりやってくれるよう頼んだ。家まで石ころだらけの山道をガタガタ上っても大丈夫なようにお願いね、と。そうしてチャーリー・ウォルポール氏(彼は弟のアルバートとふたりで金物屋兼洋品店兼雑貨屋を経営していた。店が「ジョンスンズ」という名前なのは、昔、ジョンスン家のロッジだった場所に店が建っていたからだ。ただしそのロッジはチャーリー・ウォルポール氏が生まれる五十年前に、すでに焼けてしまっていたのだが)が広げた新聞紙で皿を念入りにくるんでいるあいだ、アリスン夫人は気安げに話かけた。「もちろん、ニューヨークに戻ってからこんなお皿を買っても良かったの。だけど、今年はもうちょっとこっちにいるつもりだから」
「こっちへいなさるって話は聞いたよ」チャーリー老人はぶるぶるふるえる指で、薄い新聞紙をなんとか一度に一枚だけつまみあげようと苦労しながら、顔も上げず、アリスン夫人に目をやらずに言葉を続けた。「これまで湖にずっといた人の話は聞いたことがないな。レイバー・デイを過ぎたあとはな」
「あのね、それは」アリスン夫人はまるで老人に説明しなければならないかのように、言葉を続けた。「毎年わたしたち、急いでニューヨークに戻ってるでしょう、ほんとはそんなことする必要もないのに。街の秋がどんなだかわかるでしょう」
それからうちとけたようすでチャーリー・ウォルポール氏ににっこりと笑いかけた。
店主はリズミカルに紐を包みの回りに巻き付けていく。この人はひもをけちってるわね、とアリスン夫人は思い、苛立った表情を見せまいとすぐに目を反らせた。「わたしたち、もうここの人間になったぐらいの気持ちでいるのよ」と言った。「みんなが帰っても、ここに残ってる、っていうんじゃなくて」
それを実際に証明しようと、店の向こうの顔見知りの女に明るい笑顔を向けた。もうせん、この人からイチゴを買ったんだっけ。それとも、ときどき食料品店を手伝っている、バブコック氏の叔母さんだか誰だかかもしれない。
「さてね」チャーリー・ウォルポール氏はそう言って、包みをカウンター越しに少しばかり押し出した。売買契約もつつがなく成立し、きちんと包装もすませたところを見せて、あとは料金をいただくのにやぶさかではない、ということらしい。「さて」と彼は繰りかえした。「これまで夏に来た人は、レイバー・デイを過ぎて、湖に残るようなことはしなさらんかったがなあ」
アリスン夫人は五ドル札を渡すと、店主は1セント銅貨にいたるまできちんと釣りを返した。「レイバー・デイのあとは、誰もな」店主はそう言うと、アリスン夫人にうなずいてみせてから、落ち着いた足取りで店内を歩いていくと、木綿の普段着を見ていたふたりの女性の相手をした。
アリスン夫人が店を出ようとしたとき、女のひとりの尖った声が耳に入った。「なんであっちの服が1ドル39セントで、こっちのがたった98セントなの?」
「いい人たちなんだわ」金物屋のドアを出たところで夫と合流したアリスン夫人は、並んで歩道を歩きながら夫に言った。「まじめで分別のある、とっても正直な人たちなのよ」
「気分が良さそうだな。まだこんな田舎町が残っているとわかったからか」とアリスン氏は言った。
「そうね、ニューヨークだったら」とアリスン夫人は言った。「このお皿を数セントは安く買えたかもしれない。だけどただそれだけなのよ。人と人とのふれあいみたいなものはないの」
(この項つづく)
アリスン夫人はガラス製耐熱皿の梱包をしっかりやってくれるよう頼んだ。家まで石ころだらけの山道をガタガタ上っても大丈夫なようにお願いね、と。そうしてチャーリー・ウォルポール氏(彼は弟のアルバートとふたりで金物屋兼洋品店兼雑貨屋を経営していた。店が「ジョンスンズ」という名前なのは、昔、ジョンスン家のロッジだった場所に店が建っていたからだ。ただしそのロッジはチャーリー・ウォルポール氏が生まれる五十年前に、すでに焼けてしまっていたのだが)が広げた新聞紙で皿を念入りにくるんでいるあいだ、アリスン夫人は気安げに話かけた。「もちろん、ニューヨークに戻ってからこんなお皿を買っても良かったの。だけど、今年はもうちょっとこっちにいるつもりだから」
「こっちへいなさるって話は聞いたよ」チャーリー老人はぶるぶるふるえる指で、薄い新聞紙をなんとか一度に一枚だけつまみあげようと苦労しながら、顔も上げず、アリスン夫人に目をやらずに言葉を続けた。「これまで湖にずっといた人の話は聞いたことがないな。レイバー・デイを過ぎたあとはな」
「あのね、それは」アリスン夫人はまるで老人に説明しなければならないかのように、言葉を続けた。「毎年わたしたち、急いでニューヨークに戻ってるでしょう、ほんとはそんなことする必要もないのに。街の秋がどんなだかわかるでしょう」
それからうちとけたようすでチャーリー・ウォルポール氏ににっこりと笑いかけた。
店主はリズミカルに紐を包みの回りに巻き付けていく。この人はひもをけちってるわね、とアリスン夫人は思い、苛立った表情を見せまいとすぐに目を反らせた。「わたしたち、もうここの人間になったぐらいの気持ちでいるのよ」と言った。「みんなが帰っても、ここに残ってる、っていうんじゃなくて」
それを実際に証明しようと、店の向こうの顔見知りの女に明るい笑顔を向けた。もうせん、この人からイチゴを買ったんだっけ。それとも、ときどき食料品店を手伝っている、バブコック氏の叔母さんだか誰だかかもしれない。
「さてね」チャーリー・ウォルポール氏はそう言って、包みをカウンター越しに少しばかり押し出した。売買契約もつつがなく成立し、きちんと包装もすませたところを見せて、あとは料金をいただくのにやぶさかではない、ということらしい。「さて」と彼は繰りかえした。「これまで夏に来た人は、レイバー・デイを過ぎて、湖に残るようなことはしなさらんかったがなあ」
アリスン夫人は五ドル札を渡すと、店主は1セント銅貨にいたるまできちんと釣りを返した。「レイバー・デイのあとは、誰もな」店主はそう言うと、アリスン夫人にうなずいてみせてから、落ち着いた足取りで店内を歩いていくと、木綿の普段着を見ていたふたりの女性の相手をした。
アリスン夫人が店を出ようとしたとき、女のひとりの尖った声が耳に入った。「なんであっちの服が1ドル39セントで、こっちのがたった98セントなの?」
「いい人たちなんだわ」金物屋のドアを出たところで夫と合流したアリスン夫人は、並んで歩道を歩きながら夫に言った。「まじめで分別のある、とっても正直な人たちなのよ」
「気分が良さそうだな。まだこんな田舎町が残っているとわかったからか」とアリスン氏は言った。
「そうね、ニューヨークだったら」とアリスン夫人は言った。「このお皿を数セントは安く買えたかもしれない。だけどただそれだけなのよ。人と人とのふれあいみたいなものはないの」
(この項つづく)