陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

シャーリー・ジャクスン「ある晴れた日に、落花生を持って」その7.

2009-09-10 23:27:13 | 翻訳
その7.

 昼食をすませてミスター・ジョンスンは休息を取ることにした。そこから近い公園まで歩いていって、鳩に落花生を食べさせてやる。午後も遅くなって、彼は街の中心部まで戻ることにした。それまでチェッカーのレフェリーを二ゲーム務め、小さな男の子と女の子のお母さんが居眠りをしていたので、その子たちの面倒を見てやっていたからである。はっと目をさましてパニックになりかけていた母親だったが、ミスター・ジョンスンを目にすると、おかしそうな顔になった。

キャンディはほとんど人にやってしまったし、落花生の残りも鳩にやった。家に帰る時間だ。午後遅くの日差しもまた心地よく、靴もまだ快適だったが、彼はタクシーに乗って市街地に戻ることにした。

 タクシーを拾うのにひどく苦労してしまう。というのも三台か四台目までは、自分よりもタクシーが必要ならしい人に、空車がくるたびに譲っていたからである。どれでもひとりになって交差点で、ピクピクと跳ねる魚を網で押さえようとでもするかのように、必死で手を振り回していると、やっと一台、タクシーをつかまえることができた。そのタクシーは住宅街に向かって急いでいたのだが、その意志に反してミスター・ジョンスンの方に引き寄せられたらしい。

「お客さん」タクシーの運転手は、乗り込んできたミスター・ジョンスンに言った。「お客さんは前触れなんだって気がしたんですよ。最初はお乗せする予定じゃなかったんですけどね」

「それはご親切にありがとう」ミスター・ジョンスンはよくわからないままにそう答えた。

「もしお客さんの前を通り過ぎてたら、あたしは十ドルをすってたかもしれません」と運転手は言った。

「そうなのかい?」

「ええ。さっきお乗せしたお客さんがね、降りしなに十ドルくだすってね。それを急いでヴァルカンっていう名前の馬に賭けろ、っておっしゃったんです。いますぐに」

「ヴァルカンだって?」ミスター・ジョンスンは仰天して言った。「水曜日に火の象徴(※ヴァルカンは古代ローマの火と鍛冶の神)だって?」

「何ですって? ともかくあたしは自分で決めたんです。もしここから向こうのあいだでお客さんがひとりもいなかったら、その十ドルを賭けてみようって。だけど、もしタクシーを捜してる人に出くわしたなら、その前触れってことで、家に持って帰ってかみさんにやろうじゃないか、ってね」

「君はまったく正しかったよ」ミスター・ジョンスンは心からそう言った。「今日は水曜にだからね、君が賭けてたら、お金はもうなくなってしまっただろうね。月曜日ならかまわない。たぶん土曜日でも大丈夫だろう。だが、絶対に絶対にぜーったいに、水曜日に火の象徴はダメだ。日曜日なら良かったんだが、今日はダメだ」

「ヴァルカンは日曜には走らないんです」とタクシー運転手は言った。

「じゃあそのつぎの時まで待った方がいい。そうそう、この通りを入ってもらいたいんだよ。つぎの交差点のところで降りるから」

「でも、前のお客さんはヴァルカンっておっしゃったんですけどね」

「こうしよう」ミスター・ジョンスンはタクシーの半開きにしたドアに手をかけたまま、ためらいがちに言った。「十ドルはふところに入れとけばいいさ。それとは別に、ぼくからも十ドルあげよう。で、それを持って賭けに行けばいい。木曜日なら、そうだな……木曜日……そうだ、穀物に関連した名前を持っている馬だな。穀物ばかりじゃない、食べ物のうち、何であれ大きくなるものだ。」

「穀物ですって?」と運転手は聞いた。「馬の名前の話でしょ、たとえば、小麦とかなんとかだっていいんですかね?

「そりゃもちろん」とミスター・ジョンスンは請け合った。「ほら、これが君の取り分だ」

(すいません、今日最後までいかなかった。あとは明日)