陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

グレアム・グリーン 『破壊者』その1.

2004-10-25 18:59:07 | 翻訳
今日からしばらくグレアム・グリーンの短編『破壊者』の翻訳を掲載します。
数年前の映画『ドニー・ダーゴ』で重要な導入部分の役割を果たした短編でもあります。

いい加減に訳しているわけではないのですが、当方の能力の問題から誤訳は十分に予想されます。あまり精度は期待しないでください。オリジナルテキストはhttp://www.upol.cz/~prager/e_texts/destructors.htmで読めます。
誤訳にお気づきの方はぜひご一報ください。

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   『破壊者』
                    グレアム・グリーン

1.

新入りがウォームズリー・コモン団のリーダーになったのは、八月のバンク・ホリディの前日のことだった。マイク以外のだれも驚いたりはしなかったが、そのマイクときたらまだ9歳で、なんでもかんでも驚いてしまうのだ。「口を閉じてるんだな。さもなきゃカエルを突っ込んでやるぞ」前にそういわれたことがあり、以来、ひどく驚きでもしない限り、固く歯を食いしばっていたのだが。

 団に新入りがやってきたのは夏休みの初め、何か考えこみながら押し黙っているようすは、だれもがたいそうなことをやらかしそうな印象を持った。ひとことも口にしないでいる新入りに、規則通り名前を聞く。「トレイヴァー」と答えたときも、いかにも事実を述べただけ、恥じらいも、挑戦的な物腰もそこにはなかった。団員の側もマイクを除いては笑い声をあげる者もなかったが、マイクも、だれひとり自分に同調してくれず、新入りも自分の開いた口をにこりともせず見つめていることに気がつくと、すぐに静かになってしまった。T、のちに新入りはそう呼ばれるようになるのだが、Tには嘲りのまとになっても仕方がないような理由がたくさんあった。まず、その名前(みんなはイニシャルで代用した。そうでもしなければ笑わないではいられなかったからだ)、それから父親のこと、以前は建築家だったのだがいまや事務員で、「尾羽打ち枯らし」たありさま、しかも母親ときたら隣近所の連中より、はるかにお偉いつもりでいる。そのTが、屈辱を舐めさせられるような入団の儀式一切をしないまま一員になれたのは、危険そうな、予測もつかないような資質ゆえだったのではないだろうか。

 団は毎朝、臨時駐車場、最初の空襲の最後の爆弾が落ちた跡地に集まった。リーダー、通称ブラッキーは、その爆撃の音を聞いたと主張たが、だれもブラッキーの生年月日を正確には知らなかったから、おまえはそのときはまだ一歳で、ウォームズリー・コモン駅の地下プラットフォームですやすや寝入っていたんじゃないか、と指摘はしないでいた。駐車場の一方は人家が寄り添うように建っていて、空襲で破壊されたノースウッド住宅街は、この三番地から始まっているのだった。寄り添うように、というのは文字通り、寄りかかっているということで、爆風を受けて崩れかけた側の壁がつっかえ棒で支えてあるのだ。もう少し小さな爆弾が一発と焼夷弾が数発、その先に落ちたので、三番の家は一本だけ牙のようにそそり立ち、その向こうには、隣家の残骸の壁や羽目板、暖炉の一部が続いていた。Tがふだん口にするのは、ブラッキーが毎日提案する作戦を採決する際に、“賛成”、“反対”という言葉に限られていたから、あるとき「あの家はレンが建てたんだってさ。親爺が言ってた」と考え考え話し始めたときには、一同はひどく驚いたのだった。


(この項続く)