hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

「パンデミック 感染爆発から生き残るために」を読む

2009年05月22日 | 読書2
箱根旅行報告の途中だが、旅行から1週間以上過ぎてしまって、なかなか写真の整理も進まず、一回お休みして、読書記録を。

小林照幸著「パンデミック 感染爆発から生き残るために」新潮新書299、2009年2月発行を読んだ。



今年2月に発売された本だから、毒性の強い鳥インフルエンザH5N1を想定しているため、現在流行の弱毒性の新型インフルエンザH1N1に対する対策などと基本は同じでも、若干のずれがある。

新型インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)以外に、熱帯伝染病のアウトブレイク(限定された地域での感染症の流行)にも多くのページを割いている。熱帯伝染病とは、デング熱、チクングニア熱、マラリア、成人はしかなどだ。



以下、なるほどと思った点をいくつか上げる。

従来から、インフルエンザでの死者は若い人も多いという。若い人は免疫力が強く、防御反応からサイトカインという物質が大量に生産され、本来の免疫機能が逆に損なわれるためという。

今回の新型インフルエンザの発生源のメキシコや、SARS発生の中国の初期対応に対し、多くの日本人は舌打ちしたくなる気持ちがあるだろう。しかし、この本に書かれていて、思い出したが、2007年5月、カナダに修学旅行に行った学生がはしかを発病し、現地に留め置かれる事態が発生した。はしかは、欧米、南米、韓国など多くの国で根絶に成功しているのに、2回のワクチン接種を怠り、日本ははしかを輸出してしまったのだ。

スペイン風邪は、発生地は、実はアメリカだとみられていて、第一次世界大戦中のため、情報統制中のアメリカに変わり、中立国だったスペインの情報が世界に発信され、スペイン風邪と呼ばれるようになった。

1976年米国の陸軍訓練センターで新兵がH1N1型のスペイン風邪と同じウイルスにより死亡した。基地の兵士273人が既に感染しており、全米は恐怖に包まれた。そこで大統領選で苦戦が予想されるフォード大統領はアメリカ本土の全居住者への接種を可能にするため1億3500万ドルもかけるワクチン生産計画を発表した。既にインフルエンザが沈静化し始める中、ワクチン接種が始まり、副作用が問題となり、接種は中止に追い込まれた。そしてフォードはカーターに敗れた。



著者の小林照幸氏は、1968年長野県生まれ。信州大学卒。ノンフィクション作家。「毒蛇」で第1回開高健賞奨励賞、「朱鷺の遺言」で第30回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。明治薬科大学非常勤講師。著書に「野の鳥は野に」「検疫官」「熟年性革命報告」など多数。



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)



帯の宣伝文句は、
△体力がある若者ほど危ない!
△日本で約64万人が死ぬ!
△ワクチンはまだできていない!
「新型インフルエンザ」の恐怖

とあり、著者は医療関係者ではなく、ノンフィクション作家なので、乱暴な決めつけと、恐怖をあおる内容だと思っていた。しかし、意に反し、この本の内容は、センセーショナルではなく、しっかりした取材に基づいて冷静な記述になっている。

特定の人への取材結果に依存しているので、少々内容に偏りがあるかもしれないが、バランスよく全体像を捕らえ、わかりやすく説明している。対策についての記述は少ない。



目次
序章 音のしない街
第1章 パンデミックとは何か?―シーン1
第2章 危険な年齢 十五歳から三十五歳―シーン2
第3章 対策の限界 国、自治体、医療関係者―シーン3
第4章 インフルエンザの予防は有効なのか?―シーン4
第5章 怖いのはインフルエンザだけではない―シーン5
第6章 輸入される感染症、輸出される感染症―シーン6
第7章 プレパンデミックワクチンの希望―シーン7
終章 悲観論と楽観論のはざまで
付録 生き残るために…


コメント
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