林望著「かくもみごとな日本人」2009年2月、光文社発行を読んだ。
立派な人生でありながら、歴史に名を残すこともなかった人びと「かくもみごとな日本人」70人の各人生を800字にまとめたリンボウ流の人物伝集。
本書はリンボウ先生からの「元気出せ!日本人」とのエールなのだ。
日経新聞に2002年4月から2008年3月まで(株)スタッフサービスの広告コラム「リンボウ先生のオー人事録。」を加筆、再構成したものだ。
70人のうち、私が知っていたのは、小泉信三、吉田博、アーネスト・サトウ、上野彦馬、村田清風、大黒屋光太夫、伊藤仁斎、中江藤樹くらいだ。巻末に各人の伝記リストがあるので、無名人とは言いがたいが、少なくとも世間に良く知られた有名人ではない多くの人の生涯を紹介する本は珍しい。しかも、広告コラムの性質上、各人800字の小文だ。
驚くほど頭脳明晰な人、才能豊かな人、そして人柄が優れた人もいる。世間的には不遇だが、本人は気にすることもなく自分に忠実に努力を重ねた人が多い。そのような多くの人により歴史の土台はつくられているのだろう。そして、本人は自伝を書くこともなかったので、周囲が伝記を残したということらしい。
3人だけ挙げる。
吉田博:私は彼の木版画はとくに光の表現が大好きなのだが、彼が木版画に走る前には、黒田清輝と対抗する油彩、水彩画の大家であったことは知らなかった。
飯沼正明:1937年神風号が日本からロンドンへ94時間という世界記録で飛んで、当時の大ニュースだったことは知っていたが、なぜか、その飛行士については知らなかった。
小野友五郎:咸臨丸を航海長として操船し、純国産蒸気軍艦を基本設計し、江戸湾海図を作り、天文台を創設し、気象通報を実施し、洋式製塩の研究と有り余る能力を駆使して近代化に尽くした。しかし、顕官に上ることなく、テクノクラートに徹した。リンボウ先生は言う。「わが近代化は、実はこういう人たちがつくったのである」
装画、挿画は林望とあるから、紹介する各人のタイトルに下にある似顔絵や、表紙の絵はリンボウ先生の描いたものだろう。
林望は、1949年東京生まれ。都立戸山高校、慶應義塾大学文学部を経て、同大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授。東京芸術大学助教授を経て、作家活動に 専念。専門は日本書誌学、国文学。「イギリスはおいしい」で日本エッセイスト・クラブ賞、「林望のイギリス観察辞典」で講談社エッセイ賞、「ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録」で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)
各人800字なので、内容は軽い。さらさらと読み流せるが、それぞれの人の特長が異なり、バラエティに富んでいる。
自己の栄達を求めず、自分の道を貫き、成果を積み重ねた人びとのことを知るのも後世の人間の務めかもしれない。そして、改革できずにどんどんと落ちていく日本だが、きっと今現在も、人知れずシコシコと努力して歴史を積み重ねている人はいるのだろう。
ところどころ私には難しい言葉で出てくる。例えば、「まえがき」でなく「巻端に叙す」から、「誘掖」「鑽仰」「夥しく」「孜孜として」と出てくる。ふりがながふってあるので、なんとなく意味はわかるが、漢字検定に縁のない私には抵抗がある。
文章はともかく上手いので、容易に頭に入るのだが、知的虚栄心にあこがれるだけの私は、リンボウ先生の教養にはついていけない。