『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   53

2019-06-27 08:23:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 残っていたイリオネスとテカリオンも場を去る、アエネアス一人がイリオネスの宿舎に残っている。
 アエネアスがテーブルを前にして想いに沈む、胸に去来する過ぎ去った日々のことがあれこれと思い出されて消えていく。
 トロイ城市に住み、生きていた者らが幾百年の長い時をかけて築いたあの城市がギリシア連合軍の策略の焼き討ちに遭い一夜にして灰燼に尽きる。
 アエネアスが統率する一族を引き連れて、後ろ髪ひかれる心、思いを断ち切って、城市の燃えあがる炎をあとにした、あの日、あの時が鮮明に思い浮かぶ。
 一瞬、後悔の念にさいなむ、一族の長たる者の想いが胸にこみあげる、一族の『生と死』、どちらが重い、その重さを心に問う、彼は一族の『生』を選んで行動した。
 このことを思い出すたびに、そのことの正否を己に問う、そのたびに己の想いが『正しかった』と思うようになったことが否めない。
 今は『正しかったと』信じている、そのような自分を信じた。
 アエネアスは、これにスタンスする、民族の行く末、未来を考える、そのような自分を自覚する。
 あの日以来、日々の経ちゆきは、飛矢のごとくに早く過ぎていく、あの日より二年が過ぎ三年に到っている。
 建国の想いを抱いて、三年目の新暦の頃となって建国の地の探索の途に就く決断を下し、実行の挙に就く時を一か月後としている自分を見つめる。
 今日は遠来の客、エーゲ海域の各地を巡る交易人のテカリオンを迎えて、話を聞く機会をもった。
 彼の話でもってトロイ戦役後のギリシア連合軍の主だった者らの顛末を聞き知る。
 続く話により、今の政治情勢、世情、そして、うねる世界の思潮、今後に予想される、変わりゆく変化、展開の姿を自分なりに推考する。
 このクレタの地を建国の地ではありえないと判断したことの正否を今一度確認する、そこにスタンスする、何を為すかを計画する、諸事を丹念に見直す。
 その実行に伴う、一族の『生と死』を念頭において諸施策の計画実行を念を入れて考えて結論していく。
 このたびの挙に就くことで生じる一族の生と死、生計を維持すること、明ける明日に不安を抱くことのないような生業のありかたと彼らの未来を考える。
 テカリオンと話し合って、世の中の流れをアエネアスなりに感じ取り諸施策の成否をとことん考えぬいて、あらゆる視点から見つめる、それが最良の策であると認める。
 決断は『まあ~、いいだろう』ではなく『よし!これでいい!』
 これ以外に最良の策は無いといえる次元までに施策と計画をまとめあげる。
 アエネアスは諸事を終えて立ちあがる。
 窓外の風景に目を移す、目にした景色は、茜色に染まっている。
 彼は急ぎ会所に向かった。


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