『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  49

2019-06-20 04:45:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 乾杯を終えてアエネアスが一同に話しかける。
 『このように言ってなんだが、俺らだが、このクレタの地に居て根をおろしている。テカリオン殿のように世界を広く渡り歩いてはいない。いうなれば世情にうといというのが現実である』
 一同を見廻す。
 『テカリオン殿を迎えて、今、世の中がどのように動いているかを聞き、見識を広めたい。我々が世の中にどのように接して、対処しなければならないか。世の中に誤った対応をしてだな、進むべき道を間違えて、滅びに向かってはいけない』
 一同と目を合わせる、姿勢を改める、テカリオンと目を合わせる。
 『テカリオン殿、世の中の事情、世情を話して聞かせていただければありがたい。一同!固くならずにテカリオン殿を囲んで団らん気分で、今の世界をテカリオン殿に話してもらおう。聞こうではないか』
 テカリオンがアエネアスの言葉を受けて、その言葉に応じる。
 『今、統領が言われた世の中の事、世情、世の動きについて話し語ります。私が交易の仕事で渡り歩いている世界といおうか、範囲は、皆さん方に比べて広いことは事実です。西はぺロポンネソス(現在のペロポネソス半島)の西海岸から、東はロドス島、北はトラキア、南はこのクレタ島の北海岸までの各島々、ギリシア本土、西アジアの西海岸に及んで交易の仕事をしています。これらのところを巡っての見聞したこと、耳にした風聞について話します。よろしく願います』
 イリオネスが口を開く。
 『テカリオン殿、渡り歩かれる島々、土地土地、その範囲が実に広いですな!我々の考えでは及びつかない広さですな。いろいろな事を見たり聞いたりされるでしょう』
 『いやね、あくまでも見分であって、深く内情を知るには至りませんが』
 『それで話を聞かせていただいて、我々には十分です。よろしく願います』
 テカリオンがぶどう酒で口を潤す、話し始める。
 『ギリシア本土の世情としては、アテネとその周辺はまさに都市国家として、南にピレウスの港を掌握して発展し続けているといったところです。ぺロポンネソス、メネラオスがいたスパルタが体制を立て直し、アテネに対抗して都市国家を目指して、その構築に取り組んでいるようです。なお、スパルタは若者らの軍事教練に力を注いでいます。ただ、その都市国家化の進展がアテネに比べると遅々としています。あそこも大変ですな、アガメムノンが帰ってきて殺害される。メネラオスもヘレネモまだ帰ってきていません。どこで何をしているものやらその消息が分からない、風のうわさでは、このクレタ島のはるか南のエジプトにいるのではないかとウワサされています。また、あの悪名高いオデッセウスは、皆さんにとって大変であったあの戦役後3年になろうというのに、自領のイタケ島に帰ってきてはいません。死んだというウワサはありません。どこの海域を、また、どこの世界をうろついているのか定かではないというのが実情です』
 ここまで話をして、テカリオンは和んだ目つきで一同と目を合わせた。