『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  783

2016-05-18 05:09:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ヘルメス艇に施した横ブレ抑止桁の造作は、艇体の構造及び性能に影響し、効果を現出している。艇の走行安定性を向上させていた。
 艇を建造している彼らの発想が艇の性能向上に確実に寄与していた。発想が負の方向に働くことなく、正の方向に働き、艇の走行安定にいい傾向を生み出していた。
 オキテスの試乗感もそのあたりのことを感じ取っている、あとは帰路において、その確証を得ようと考えていた。
 『ところでだな、スダヌス浜頭、五日後のことになるが、進水の披露をやろうと考えている。いろいろ都合もあるだろうが何としても出席してほしい。進水の披露にご招待申し上げる。そういうことだ』
 『そうか、進水させるところまで新艇が仕あがったのか、オキテス、それは重畳というところだな、よかったな。招待客はどんなところだ?』
 『招待客か、スダヌス浜頭を筆頭に集散所の関係者、ガリダ頭とそのように考えている』
 『了解した!そうか、俺は何があろうとも必ず出席する』
 『ありがとう。これで俺も安心だ。そこで俺の方から頼みがあるのだが、聞いてくれるか?』
 『おう、言ってみろ!』
 『出席者の一行を浜頭の船に乗せてきてもらいたい。これが俺の頼みだ。一行の顔ぶれだが、明後日にはわかる。決まった顔ぶれをギアスに連絡させる。よろしく頼みたい』
 『いいだろう。そのことの一切を引き受けよう。お前のところに泊まれないことが残念だが』
 『そうか、そこまでは、俺の考えが及んでいなかった。申し訳ない、それについては考える、決まり次第、もう一度、相談する。それでいいか?』
 『おう、それでいい』
 二人は、話しながら、焼いた魚を胃に収めて、昼めしを終えた。
 『あ~あ、それから、スダヌス浜頭、今日の会議のことだが、昼めしを終えたら、早々に始めようかと、ハニタスが言っていた。どうする?』
 『そうか、俺は売り場の者たちと打ち合わせを終えて、会議の場に行く』
 『俺は、ここから、オロンテスを誘って行く』
 『おう!では、そういうことで、会議の場で会おう』
 二人は別れた。
 オキテスがパン売り場に帰ってくる、オロンテスと顔を合わせる。
 『おう、オロンテス、スダヌスとの話はうまくいった』
 『そうか、まだ少々早いかな』
 『そうでもなかろう。行くとするか』
 『おうっ!』
 オロンテスは、売り場のスタッフに声をかけて、二人は、歩き出した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  782

2016-05-17 05:50:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、スダヌス浜頭のところへと歩を運んでいく、彼の魚売り場は客でごったがえしていた。売り場のスタッフが目の色をかえて、客を応対している、オキテスは感心して見とれた。
 オキテスを見とめたスダヌスが声をかけてくる。
 『おう、オキテス、どうした?用件が終わったのか?』
 『おう、終った。久しぶりだ、昼めし一緒に食べないか、手弁当持参だ』
 『判った。少しの間だ、待っていてくれ』
 オキテスは売り場の状況を見つめながら、スダヌスの手すきを待った。
 客でにぎわった売り場が落ち着いてくる、売り場をはなれてオキテスのところに来るスダヌス。
 『おう、午前の用件、何事なく終えた。お前のところと俺らのところとの取引の大きさにハニタスが驚いていた。持ち込んだ木札のドラクマ銀貨との交換が終わった。一つの山を越えたといった感じだな。これでガリダのところの決済ができる』
 『そうか、その件については、俺もハニタスから耳にしている。お前のところとの取引、結構大きいからな。昼めしは、広場の方で食べよう。干し魚を焼かせている、ちょっと待て!おっ、来た来た』
 『親父、魚が焼けた』
 スダヌスの息子が焼けた魚を盆にのせて持ってくる。
 『おう、ありがとう』
 『ほいっ!これ!』と言ってオキテスは、持ってきていたパンの入った袋のひとつを息子に渡した。
 『馳走になります。ありがとうございます』
 声を背中で受けとめて、二人は広場の方へと歩んでいった。
 『おう、オキテス、今朝のことだが、ギアスが俺を呼びに来てだな、ちょいの間だがヘルメスに乗ってきた。ヘルメス、いい船になったな、驚いたぜ!あれだったら売れるぜ!俺の太鼓判だ。お前らには、全く持って驚ろかされる。今の俺らが使っている船、これまでの船の持っていない性能を持っている。走りの方向維持がいいこと、それとだな、乗って安心できる船になっている。乗ってみての俺の感想だ』
 『褒めてくれているのか』
 『おう、そうだ!』
 『ありがとう、あの造作をして、俺も今日、試し乗りしているところなのだ。浜頭の褒め言葉、うれしいうえにありがたい!素直に受け取っていいな。造作した横ブレ抑止の桁だが、少々太めだと思っているが、艇の安定した走りにも関係していると考えている』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  781

2016-05-16 04:26:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、ハニタスに話しかけるタイミングをはかっている、あにはからんや、オキテスに対してハニタスの方から話しかけてきた。
 『オキテス殿、新艇の仕あがりはいかがですかな?』
 集散所がたの新艇にかける意欲を感じさせる語気があった。
 『はい、順調に進んでいます』
 『それは、重畳といった次第ですね』
 『はい、ところでですが、五日後に進水をやろうと考えています』
 『ほう、進水ですか、いいですね!』
 『私どもとして、5艇全艇同時に進水しようと考えています。その進水の披露についてですが、集散所の皆さんの列席を希望しています。その件について、正式に申し上げようとこちらに来ています』
 『そうですか、承りましょう』
 オキテスは姿勢を改め、おもむろに口を開いた。
 『ハニタス殿、申し上げます。五日後、午前なかばより進水の披露を行います。集散所所長殿、ハニタス殿、並びに、トミタス殿、そして、希望される方に列席いただきたい。それが私どもの希望です』
 『わかりました。当方の都合もあります。出席については、明日、オロンテス殿の方に連絡いたします。ご意向を承りました』
 『よろしくお願いいたします。この件をスダヌス浜頭殿にも伝えます。私どもの浜への便もスダヌス浜頭に相談のうえ、こちらへ連絡いたします』
 『いいでしょう。待っております』
 『ありがとうございます。よろしく願います』
 『ご両人殿、今日の会議のことですが、昼を済まされたら、早々に始めようと考えていますが』
 『了解しました』
 『この部屋でやります』
 『判りました』
 オキテスら二人はうなずきあった。オロンテスが口を開く。
 『ハニタス殿、今日、ドラクマ銀貨交換の件、大変、お世話になりました。ありがとうございました。会議の件了解しました。では、のちほど』と言って二人は立ちあがった。ハニタスらも立ちあがる、交わす握手、午前の用件を終えた二人は、その場を辞した。
 『オロンテス、俺はこれからスダヌス浜頭のところへ行ってくる。お前どうする?』
 『俺か売り場の連中と昼を済ます』
 『判った、俺はスダヌスと昼を済ませて、お前のところに来る。俺にパンをくれ』
 『判った』
 二人の表情は、おだやかである、しかし、目は獲物を狙う狩人の鋭さをたたえていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  780

2016-05-14 04:45:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は、ギアスの問いかけに考えを巡らせた。そうこうしている間にヘルメスは船だまりに帰ってきた。
 『もう、帰ってきたか。ほんとにちょいの間の試し乗りであったな、ギアス。この走りなら、櫂舵の水切り、少々大きくした方が効果ありだな。俺はお前の考えに賛成だ』
 『浜頭ありがとうございます。今日帰ったら、パリヌルス隊長にこのことを話します』
 『おう、そうせい!そこで聞くが、ヘルメスが変わっている、どこをどのように変えた?』
 『はい、船底に横ブレを抑える角材を取り付けました』
 『そうか、船として進化している、走りが違ってきている。走りが安定している、見たところ航跡も変わっている。いい船になった。当然、新艇にもその造作をするのだな』
 『はい、そうです』
 『ギアス、ありがとう。俺を試し乗りに誘ってくれた、礼を言うぞ。櫂舵の水切り部分の改良をしろよ!お前の考えについての俺の太鼓判だ。おう、一同、ありがとう』
 『おうっ!』一同が答える。
 『スダヌス浜頭、ありがとうございました』
 ギアスは、去りゆくスダヌスの後ろ姿に礼を述べた。手を振りながら遠ざかっていった。

 オキテス、オロンテスの二人は、集散所の小部屋にいる、ハニタスらと話し合っていた。彼らの要件は、ドラクマ銀貨の受け取りと進水催行への出席依頼である。
 ハニタスが声をかけてきた。
 『あ~、オロンテス殿、先日はご苦労でしたな。私らの考え及ばない大量の木札を受け取りました。ドラクマ銀貨に交換する計算を済ませました。そして、ドラクマ銀貨を準備いたしました。今、お渡しいたします。どうぞ、お納めください』
 ハニタスがトミタスに指示する。彼らは、丁寧に応対してくれている。
 『トミタス、オロンテス殿に準備したドラクマ銀貨をお渡ししてくれ』
 『はい、判りました。オロンテス殿、ただいまお持ちいたします』
 トミタスは立ちあがり隣室へと向かう、ドラクマ銀貨をのせた盆をささげて姿を見せる、二人の前に銀貨をのせた盆を置く、丁重に言葉をかけた。
 『どうぞ、お受け取りください』
 『いただきます。たいへん、お世話をかけました』
 『いやいや、そのようなことはありません。それにしてもスダヌス方との取引も結構な額でしたな、このことについては、私どもも大変に喜んでいます。あなた方の仕事の成果が私どもの成果につながっています。うれしいことです』
 『そのように言われると私どもの励みになります。ありがとうございます』
 オロンテスは、携えてきた袋に銀貨を入れた。
 『オロンテス殿、こちらに受け取りのサインをいただければ』と言ってオロンテスの前に文言を書いた木板を置いた。
 文言に目を通すオロンテス、木炭を手にしてサインをする、木板をトミタスに渡した。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  779

2016-05-12 05:08:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 集散所へ向かう一行を送り出してギアスは、漕ぎかたの一同とヘルメスの走りについて語りあった。
 『おう、お前ら、今日のヘルメスの走り、どのように感じた?ちょっと話してみろ!』
 『そうですね。これまでのような横ブレがなくなっています』
 『前へと走り、ブレにくくなったような気がします』
 『艇の進行方向が安定してきているように思われます』
 『ほう、そうか。今、お前らが言ったことが今回の造作の目標であった。俺も舵をとっていて、そのように感じたな。昨日の造作の効果が出たということか』
 ギアスは彼らの言い分を聞きとめ相づちをうった。
 彼は空を仰いで頃合いを測った。
 『おう、俺は、ちょっと出かけてくる』と言いおいて、スダヌス浜頭のところへ出向いた。
 スダヌスは、売り場で大声をあげて指示を出している、間ができる、ギアスは声をかけた。
 『浜頭、おはようございます。今日は価格決め会議の最終回の日ですね。長い時間はとらせません。ちょっと、ヘルメスに乗ってみませんか?』
 『おう、ギアス、おはよう。どうした?』
 『はい、新艇について、よく知っておいてもらいたいと思いまして』
 『おう、そうか。ヘルメスにひさしく乗っていない。!いいだろう、ギアス、行こう』
 スダヌスは、快諾する、売り場の者たちに二言三言、言いおいてギアスと連れだって船だまりへと向かって歩を進めた。
 『おう、ギアス、今日は、いい航海日和だ。仕事がなければ、船遊びをやりたい、そんな気分の日だな』
 『そうですね。そのような気になる日和です』
 船だまりに着く、スダヌスを艇上にいざなう、ギアスが漕ぎかたらに声をかける。
 『ちょっぴり沖に出よう。漕ぎかた頼む』
 ギアスが舵座につく、櫂舵をとる、ヘルメスは西へと向かう、方向転換点に到る、方向を転じて帆張りをする、風をはらんで帆走にうつった。
 『浜頭、操舵を代わります』
 『おうっ!』
 スダヌスが櫂舵を握った。
 『浜頭、私の思いつきですが、櫂舵の水切り部分をほんの少し大きくしようと考えています。浜頭の考えを聞かせてください』
 『おう、解った』
 スダヌスが操舵をしながら首をかしげている、目は、ヘルメスの航跡を見つめている、ヘルメスが変わっている、その変化に気づいた。波を割って進むヘルメスの走りの進行方向の維持具合が変わっていることに気づいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  778

2016-05-11 05:04:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスとオロンテスも朝早く起きだしてきていた。浜はいつもより早いころ合いから活気づいている。
 オロンテスは荷積みに忙しい、オキテスはドックスと打ち合わせている。
 『おう、そうだな』とうなづいて、ドックスの差し出す木板を受けとる、木板には手配する角材の仕様が描かれていた。
 彼に同行するガリダ方の製材担当者が姿を見せる。
 『おう、ご苦労。ガリダ頭に伝える用件は2件だ。頼むぞ。ヘルメスの上で話す、行こう』
 『わかりました』
 荷積み作業が終わる、オロンテスがセレストスの肩をたたいて『頼むぞ!』と言い残して艇上の人となる、すかさず、ギアスに声をかける。
 『ギアス、少々早いが、出航だ』
 『了解!』
 ギアスが漕ぎかた一同に声をかける、櫂が一斉にしぶきをあげる、ヘルメスが航跡を引く、航跡は、見なれたいつもながらの航跡ではない、変化を感じとるギアス、艇の速さは平常速度である、しかし、であった。
 平底のヘルメスとは、うって変わった走りを感じた。
 ヘルメスが生まれ変わっている、走りが生き生きしている。何かが変わった?ギアスはヘルメスの中ほどに立って研ぎすました感覚で航走感をとらえようとしていた。
 彼は帆張りの指示を大声で出す、いい風が来ている、帆張り、風はらみを確認する。
 『漕ぎかたやめ!櫂をあげ!』
 ヘルメスは帆走に移る、彼は艇尾にうつり、操舵櫂を握る舵櫂から伝わる操舵感が新鮮であった。言ってみろと言われても言うことができない感触である、『これは、こうだ』と言えない微妙な感じであった。
 彼の考えが飛んだ、『試乗会の折には、試乗者に操舵をさせる』それがいい策であると考えた。
 『そこで今日は―ーー』スダヌスを乗せて、キドニアの海を走ってみようと心に決めた。
 彼は、オキテスの風情に目を移す、ヘルメスの走りに神経をとがらせている。
 風を満帆にはらんだヘルメスは、キドニアの船だまりに迫っていた。
 オロンテスの声が耳をうつ。
 『おう、ギアス、もう、船だまりだ。早かったな』
 ギアスは、要領よく着岸作業を終える、荷を下ろす、オキテスは、ガリダ方の製材担当者を送り出す、二人と今日の予定の打ち合わせをすませて一同を送り出した。
 彼らの今日が動き始めた。


『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  777

2016-05-10 09:25:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今を生きるといったイリオネスの考えも賢明なら、一族を率いているアヱネアスは、建国の使命思考について賢明にもがいている。思考の大海の深淵にもがき沈んでいく思いであった。
 思考と決断が、いま、クレタの地において、使命である建国が可であるや否やで決断思考がもがきのたうっている。一族が生きていくことと建国とでは質が異なる。
 父アンキセスの言い分を是とするか否や、彼はそのことについては考えているが、心を決めかねている。口にはしないが、思考の領域に入れていた。
 摂理の至妙な計画、見えない未来、クレタは、アヱネアスの意志を受け入れるところなのか、スタンス位置をかえて考える、あらゆる分野の使命実現の条件をプラオリテイを設定して細かくチエックしている、未だに答えが見えてきていない、脚下照顧するも確かな一歩を踏み出せずにいる、己を見つめる、冷静と自制を失う時もある、悶々と時を無駄に過ごす、しかし、不思議であった。あきらめを感ずることがなかった。『なぜ?』『どうする?』『可か、否や』がふつふつと想いの中に浮かんでは消えていく、意をひきつける、モチベートする得体のしれない希望ともとれるクラウドが目に見えない視野の中に存在していた。
 彼が決断する事態の訪れることをまだ察知はしていないが、手を伸ばせば届くところまでに迫っていたのである。
 
 オキテスとオロンテスは、明ける朝が待ち遠しいといった感じで朝を迎えた。ギアスも朝が待ち遠しかった。三人の同期的行動現象と言えた。また、漕ぎかたの一同も胸に期待のさわぎを感じて起きだし、ヘルメスの浜に立っていた。
 ギアスが姿を見せる、彼らに声をかけた。
 『おう、おはよう』
 『おはようございます』
 『おう、お前ら、やけに早いじゃないか』
 『胸がさわぐ!寝てられない!そのようなわけです』
 『ほう、何が、お前らを駆りたてているのだ?』
 『判りません、せずにおられない!』
 『ただただ、何かが、俺らをひっぱっているといった感じです』
 『ギアス艇長も早いじゃないですか』
 『言われてみればそうだな』
 ギアスはそのように答えて一同と明けやらぬ薄闇の中で一同と顔をあわせた。
 『おう、よく聞けよ!アサイチで風読みをした。今日は、いい航海日和になるぞ!帆張りにいい風が西からくる!ここ一番の晴れ晴れ天気だ。一同!今日も行こうぜ!』
 『おうっ!』と返す。
 『少し早いが、ヘルメスを海に出そう』
 総がかりでヘルメスを海に出した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  776

2016-05-09 04:31:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そりゃ、そうだ。そういうものだ』
 イリオネスが声をかける。
 『ほう、なんだ、新しい試みとは?』
 『はい、ヘルメスに新しい造作をしたのです。艇の横ブレを抑えたい、その造作です。明日私もキドニアへ行くことになっています。その効果のほどを確かめ、新艇にもその造作を取り付けようというものです』
 『ほう、そうか明日の結果待ちか』
 『そのことも用件の一つですが、明日のキドニアにおける用件で、軍団長と打ち合わせておきたいことが、二、三あります』
 『おう、言ってみてくれ。俺がこの場で思案しなければならない用件があるのか?』
 『はい、あるような、ないようなといったところです。オロンテスも時間が許すなら同席して聞いておいてくれ』
 『おう、いいだろう』
 オキテスが改まる。
 『まず、価格決め会議の件ですが、打ち合わせで決めたように当方の意志を通して決着させます。二番目は、進水の件ですが、行事として行うわけです。そのようなわけで、集散所の関係者、スダヌスらを招待しようと考えていますが、これについて、軍団長の意向を伺いたいと考えています。重要な要件は、この二件です。ほかに軍団長のこれはやって来いという用件があれば、聴いておきたいわけです』
 『オキテス、お前の意向は解った。進水の件に関しては、行事として行う、これは了解した。招待の件だが、OKだ、やろう。価格決め会議の件だが、オロンテスとも打ち合わせた、意志を通してくれ!これは統領の意向でもある。以上だ、ほかに用件はない』
 『了解しました』
 オキテス、オロンテスの二人は、イリオネスと二、三、言葉を交わして打ち合わせを終えた。
 二人は、それぞれの持ち場へと向かう、宵が集落を包み始めていた。
 二人を送り出したイリオネスは、これから、彼ら一族が生きていく未来のことに想いを馳せた。
 新艇の建造、造船による建国、それは為すことができることなのか、民族総動員で築きあげる事業国家、そのような夢を抱いていいのか否かについて身体全体で考えた。数か月後に訪れる大転換について、彼の五体は、このとき、まだ、察知してはいなかった。
 彼の思考、決断は『今』を如何に生きるかに集中してたのである。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  775

2016-05-06 05:53:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『なあ~、ギアス、俺の知っているヘルメスとなんとなく感じが違う。明日、キドニアから帰ったら、試乗感を聞かせてくれ』
 『はい、判りました』
 『これにて、ヘルメスの造作完了!』
 『おう、ドックス、世話をかけたな』とオキテスが声をかける。
 ドックスが周りの者たちに造作の完了を告げて、ヘルメスから離れた。
 ギアスは、ヘルメスの帆柱建て作業を終え、揚陸地点に移動する、揚陸する、施した造作の影響で艇の陸上での落ち着きが悪い、彼は思案した。
 彼は、ヘルメスを造作した浜に漕ぎかたの二人を連れて向かう、場の片づけが終わっている、ドックスはそこにはいない、ドックスを探しに建造の場へと向かう、彼の居場所を尋ねる、彼の常駐の場にたどり着いた。
 『ドックス棟梁、ヘルメスを揚陸しましたが、どうも、陸上では落ち着きがよくありません。造作の場で出た角材の切れ端を使って安定させようと考えています。角材の切れ端をいただけませんか』
 『おう、いいだろう。そこにある、持っていったらいい』
 『ありがとうございます。いただきます』
 漕ぎかたの二人に角材の切れ端を持たせてヘルメスの場所に戻ってきた。一同がヘルメスの安定作業に取り掛かる、艇は浜に安定して鎮座した。彼らは今日を終えた。
 『おう、一同、今日はご苦労であった。夕めしを食べて身体を休めてくれ』
 ギアスは空を見あげる。
 『明日も天気がいい!本日の業務、これにて終了!』
 『おうっ!』
 彼らは、ギアスを先頭に立てて夕めしの場へと歩を運んだ。彼らが立ち去った浜を宵の濃き藍色が包もうとしていた。
 ヘルメスの造作完了を確認したパリヌルスとオキテスは、場を離れようとしている。
 『おう、パリヌルス、ヘルメスの造作が終わった。明日のことだが、軍団長と簡単に打ち合わせておこうと考えている。お前も来るか?』
 『それは、お前に任せていることだ。俺は浜を見まわる』
 『そうか、あとのことはドックスに任せて、俺は軍団長との打ち合わせに行く』
 『おう、判った』
 パリヌルスは浜の巡回に向かう、オキテスは軍団長の宿舎へと向かった。
 軍団長の宿舎にはオロンテスがいる、彼は用件を終えたらしい。
 『おう、オキテス、ヘルメスの造作、終ったのか?』
 『おう、終った。明日が待ち遠しい!新しい試みというのは、なんとなく心が騒ぐ、わくわくするものだな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  774

2016-05-05 06:11:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、一同、いいな。作業に取り掛かる』
 『おうっ!』
 一同が答える、彼らは部署に就く、角材の連結部がつながり一本化している、ドックスの掛け声が飛んだ。
 『一同!いいな!ヘルメスをもちあげろっ!おう、いいぞ!静かに前へ進め!おうっ!舳先部、おろせ!下におろせ!』
 ドックスが舳先下部に手をかけて接点合致に誘導していく、接点が合致する、舳先下部の接点合致を終えた。
 『艇尾部どうだ?接点の合致うまくいったか?』
 『はいっ!うまくいきました』
 舳先部も艇尾部も定めた接点の合致を終えた。ヘルメスは角材の上にのってバランスが取れている。
 ドックスが点検に及ぶ。
 『おう、うまくいった!ヘルメスもバランスがとれて角材の上にのっている。重畳!』
 『おう、ギアス、バランスがとれてヘルメスが角材の上にのっている。一同にヘルメスを支えていてくれるように伝えてくれ。俺と三人の者がヘルメスにあがって角材の釘付け作業に取り掛かる。しっかり支えていてくれ。それが終わったら、海に浮かべて造作の完了とする。以上だ』
 ドックスが作業者三人を指示して角材を釘付ける、釘を打ち込む音が浜にこだまする、宵近くの浜の空気を震わせる、彼らは作業を要領よく進めていく、角材は数十本の大釘で取り付けられていく、ドックスが釘付け具合いを丹念に確認しながら作業を進めていく、角材は、ヘルメスの船底の中心軸線に正しく釘づけされていた。
 『おう、ギアス、もう、いいぞ!ヘルメスを海へ運んでいいぞ!』
 ドックスが声をかける。
 『はいっ!棟梁、行きます』
 『おうっ!』
 彼らは、ヘルメスを海へと運ぶ、海に浮かぶヘルメス、バランスはとれている、ドックスが海上のヘルメスをじい~と見つめる。
 『不具合はない。いいだろう』
 彼は角材の釘付けを行った三人に作業後の修復を指示した。
 『おう、ギアス、帆柱を建てていいぞ』
 この指示をしてドックスは、浮かぶヘルメスの海中の船底状態を見ようと海に潜る。彼は浮かぶヘルメスの船底状態を自分の目で確かめて作業者数人を呼び寄せる。
 『おう、舷に手をかけろ!ヘルメスを揺さぶるのだ、いいな』
 彼らは、ヘルメスを揺さぶる、ドックスが感触を確かめる、艇上のギアスを呼ぶ、そして、その感覚をつぶやいた。