自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

白菊の夜(前)

2013-12-04 | 昆虫と花

『アゲハの庭園』 では,今,白菊の花が咲き乱れています。風のない晴れた日,昼間は昆虫たちが群れをつくっています。

日が落ちて辺りが暗くなるとどうなるか,気にしています。そんなある夜,実際に調べてみると,ほほーっと思う事実が見えてきました。一言でいえば,それはガやらカメムシの類いが多いということです。昼間は他の昆虫の存在が災いして訪れにくいのでしょう。ガは夜行性が多いといいますから,そのとおりの展開だと思われます。

ふつう,人は夜の菊なんて気にしないはず。その光景はたいへん興味深いものと思われます。それで,前編としてまずガをご紹介しましょう。ガの同定はわたしにはできません。ほんとうにむずかしい! 図鑑では開張した姿が描かれていますが,翅を閉じて吸蜜していたら後翅の紋様など確認しようがありません。閉張した姿を撮った写真にしても,素人の同定に使えるほどに鮮明な画像は見当たらないのが実情です。

それで,括ったいい方で「夜に来たからヤガの仲間にしておこう」「シャクガの一種だな」程度で満足するほかないのです。「間違いがあっても,マアしかたないや。えいっ,やぁーっ!」という感じです。

シャクガでしょうか。口吻を伸ばして,蜜を集めていました。懐中電灯の光を当て,ピントを合わせました。頭部に占める眼の大きさと触覚の長さからは,それらが暗闇で環世界を感知する重要な役割を果たしていることが窺えます。

 

ごくごく小さなガが一匹いました。体長は1cmに届きません。それでも黄色い蕊のじゅうたんに,黒褐色のからだが乗っかっているいれば,その存在に気がつくでしょう。目を凝らせば,蜜源に伸びた口吻が確認できます。 

 

 

トリバガがいました。独特の翅模様,翅を開いて吸蜜する姿勢,これはトリバガの仲間だとはっきりいえます。弧を描いて伸びる口吻の,なんと優雅なこと! からだの大きさからすると,空腹をたっぷり満たすことができるでしょう。

 

大きなガが一匹いました。これこそヤガだと,括っていいたくなるガです。たまたま花弁にもあるらしい蜜を吸い上げているのでしょうか。 

 

 

でも,やっぱりたっぷり蜜を得ようと思ったら蜜源しかないようです。 

 

 

このように,夜のキクには訪花昆虫が複数見られます。昼間は競争相手や天敵を意識しなくてはなりません。ゆっくりゆっくりごちそうをいただくには,闇は格好の環境なのです。 

 


ジャガイモの真正種子と,その周辺の話(6)

2013-12-03 | 随想

ジャガイモの種子のことでは,ふしぎを感じる人がかなりいるようです。ネット検索で,「ジャガイモ」「種子」を入力すると,そのふしぎやら受けとめ方やらが見えてきます。

  • 「ジャガイモには実や種ができるのですか?」
  • 「ジャガイモはなぜ種子ではなく種イモを植え付けるのですか」
  • 「ジャガイモって実ですか? 種ですか?」
  • 「ジャガイモの花には,種はできないの」
  • 「ジャガイモの種芋ではなく,種子(海外産出来ればペルー等の原生種)から育ててみたいのですが,そういった種子の購入できるような業者さんて,ありますでしょうか」
  • 「ジャガイモって種出来ないの?」

 

考えてみれば,どのふしぎもたいへん本質的な問いだと思われます。我が国ではイモを植えるのが当たり前ですが,世界は広くって,真正種子から育てている地域もあるのです。中国,ペルー,ロシアなどです。意外に思われた方もあるはず。イモと種子とを比べたときのメリット・デメリットは当然あります。それぞれがメリットを持っているからこそ,播種(種子)栽培も行われているわけです。

手許に,ジャガイモの播種栽培について非常におもしろい,役立つ新聞記事があります。少々古い切り抜き記事で,新聞紙が黄ばんでいます。それは昭和59年11月27日付けの朝日新聞で,『新食糧革命』と題するシリーズの第8話。見出しは『種子イモ』『途上国に強い期待』『遺伝病なく費用も安価』とあります。その他,文章の要約として書かれた太字の表題に『高過ぎる種イモ代』『強い品へ野生利用』『改良種を現地実験』と記されています。

 

どの部分も驚くほどに新鮮な内容です。その一部を紹介しておきます(赤字)。なお,記事中の岩永さんはペルーにある国際ジャガイモセンターに勤務されている研究者で,先にご紹介した『野菜探検隊世界を歩く』にも登場されています。

 

岩永さんは続ける。「発展途上国の多くは,主としてヨーロッパから種イモを輸入しています。でも,生産費の5,6割を種イモが占め,とても高価。中米・ドミニカ共和国には『ジャガイモを食べられるよう努力しよう』という格言があるほどです」「運搬,貯蔵もたいへん。1㌶の畑にトラック一台分の種イモがいるんですから」

では,真正種子だとどのようにいいのだろうか。親の病気が伝わらない,のが第一。「理由はよくわかっていません。生物界の不思議としかいえません」と岩永さん。第二は種子の費用なら生産費の5%以内で済むし,両手に入る程度で1㌶をまかなえる。

 

このような記事に触れると,世界観が変わってきそうな感じがします。世界中の人が食糧を手にできるように,こんな研究が地道に行われているとは! そこで日本人も汗を流しているのです。

せっかくですから,『ジャガイモ博物館』に記載されている情報(利点・欠点)を少し手直ししてご紹介しましょう。

 利点は

  1. 種イモが節約できる(真正種子の形はトマトの種子に似ているが,重さは千粒でも1gに満たない)
  2. ウィルスにかかっていることが少ない
  3. 種子の運搬,貯蔵が容易
  4. 近年ミニポテトの需要が増えているので,それに応えられる

 欠点は

  1. 熟期,形,目の深さ,色などのバラツキが多く,市場性に劣る
  2. 通常のイモを植える場合に比べイモ数は多いが,小粒で,収量は4,5割程
  3. 細い茎が一本だけ弱々しく出てくる
  4. 収穫に月日がかかり,管理に手間

我が国のジャガイモセンターは,もちろん北海道にあります。正式には北海道立総合研究機構農業研究本部北見農業試験場という,なんともいかめしい名が付いた施設です。そこにジャガイモを研究する部署『作物育種グループ』があって,種子を蒔いて苗を育て,品種改良を試みる研究が進められています。そこでは,行政上,“馬鈴薯(ばれいしょ)”と呼ぶ慣わしとか。

ジャガイモってふしぎな生態を持っています。考えれば考えるほどおもしろいことがご理解いただけたでしょうか。ジャガイモを見る目がすこし変わってきたって? それはそれは,ありがとうございます。うれしい限りです。

 


狩りをするクロスズメバチ

2013-12-02 | 昆虫

穏やかな日差しがキクの花に降り注ぐ日中のこと。小さなハチが花のあちこちを盛んに飛び回っては,昆虫たちに襲いかかろうとしていました。昆虫たちは,ハチが近づくと危険を察知したかのように,一斉に飛び立ちました。

そのうち,このハチは表を飾る花に関心を示さず,奥の方に入って獲物を探し続けました。 

 

わたしは初めてこのハチを見ました。腹部の白い縞模様が特徴です。あとで調べると,クロスズメバチとわかりました。 自然が豊かな環境で,地中に巣を作って棲んでいるそうです。人への攻撃性は比較的少ないとか。

狩りはハチの生存にとって欠かせません。小回りが利くようで,動きは機敏でした。群落の奥をあちこち動き回りました。 

 

そのうち,小さな獲物を捕獲しました。花の奥にいたので,写真にはうまく撮れませんでした。惜しいことをしました。そのうちにわたしの動きが目に入ったようで,クロスズメバチはさっと飛んで行きました。獲物を抱えたままで。 

 


キゴシハナアブ,また

2013-12-02 | 昆虫

寒い朝のこと。白菊の花にキゴシハナアブのメスが一匹いました。どうしてそこにいるのか,朝早々飛んで来たのか,それとも夜そこを寝床にしたのか,それはわかりません。寒いので,動きがとても鈍いのです。

それで,じっくり写真に収めることにしました。

両眼がはっきり離れていて,頭上に単眼が見えます。 

 

からだをきれいにするしぐさをしました。前脚に付いた花粉がチラリ。 

 

掃除が終わると,ゆっくり花に向かって歩き始めました。蜜源に着くと,口吻を出して蜜を舐めました。それが終わると,歩きながらその行動を何度か繰り返しました。

 

どうやら場所を変えたくなったようです。花弁の端に移動して,ポッと飛び立ちました。

 

じっくり昆虫と向き合える,昆虫が静かにわたしと付き合ってくれる,そんなゆとりが腰を落ち着けた撮影には欠かせません。 

 


コガネオオハリバエのスゴイ姿

2013-12-01 | 昆虫と花

午前の早い時間帯,群生した白菊の花に,一際からだの大きなハエが訪れました。コガネオオハリバエです。体長は2cmもあります。大きな羽音をさせて,堂々と動き回りながら蜜を舐めていきます。その姿に,他の昆虫たちは圧倒されて,横に去りました。 

 

からだを覆う剛毛といい,脚から生える棘といい,まったくスゴイ鋭さです。これなら,「そこのけ,そこのけ」とばかりの振る舞いが可能でしょう。動物ならではの世界です。 

 

吸蜜に勤しむ間は,カメラを近づけても一向に気づいていません。 

 

このコガネオオハリバエは,寄生バエの一つとして知られているとか。相手はエビガラスズメの幼虫・蛹。幼虫に卵を産み付けて,エビガラスズメが蛹の時代に地中から飛び出してくるのでしょう。いろんな生きものの,いろんな棲み分けがあって,これら二つの昆虫に思わぬ関係があることを知りました。

このコガネオオハリバエ,もちろん越冬態は成虫と思われますが……。 

 


ジャガイモの真正種子と,その周辺の話(5)

2013-12-01 | 随想

「ジャガイモ種」「種ジャガイモ」と一般的に言い表すとき,それは芋を指しています。もちろん,あくまで芋ですから,「種芋」ともいいます。なぜ「種」ということばを付けるかといえば,それを植えて増やす,つまり栽培するときに種代わりに植えるからです。しかし,農家の人でさえ,大抵は「ジャガイモの種子」については思いが及ばないはずです。なぜなら,それはふつう店頭で買いたくても買えるものではないからです。店の人も,種子と言われたら戸惑うのではないでしょうか。

真の種は,まちがいなく花後にできる種子です。それで,種イモと厳密に区別する意味でわざわざ「真正」という文字を付けて真正種子と呼んでいます。あるいは,実生種子という場合もあります。

ジャガイモ畑では花は咲きますが,近頃のジャガイモの花は大多数が受粉せず,落下します。または,花を摘み取る人がいます。花に栄養分が回って,イモが太らないからといいます。昔は,ほとんどの農家でなされる作業でした。しかし,そんな心配は無用です。研究者の話では収穫量にはほとんど影響はないそうです。

そんなわけで,実が実ること自体が稀有な状態にあります。実ができてもごくまれに結実する程度であり,それを見ることはたいへんに珍しいのです。たまたまそれを見た人は「ジャガイモのミニトマトが生った」と驚きます。新聞記事のネタになることが結構あります。

 
『野菜探検隊世界を歩く』(池部誠著)のジャガイモの項に,これまた重要な情報があります。写真も記述もそうです。広げた両手に葉付きの小さなジャガイモが載せられていて,実と塊茎がともに付いています。塊茎の小さいこと! 荒地の片隅に生えるジャガイモは,小さいからだなのにちゃんと花と実を付けています。

文中でこころに残った一文を原文どおり列挙しておきます。

  • 市場にジャガイモを見に出かけることにした。道の両側を見ながら進むと,トウモロコシ,トウガラシなどのアンデス原産の作物と一緒にピンポン球より小さいジャガイモが並んでいた。
  • アンデス高地には何百品種ものジャガイモがある。
  • ジャガイモは,栽培ジャガイモが8種,野生ジャガイモが156種発見されている。
  • 日本ではジャガイモはめったに種子を付けないが,原産地のような標高の高い土地では種子を付けるのだ。
  • 品種改良のために,ジャガイモセンターはあらゆる野生種と栽培種を集めた。
  • 標高3千から4千メートルを越えるくらいまではジャガイモの天下なのだ。

これらの記述から,ジャガイモは本来冷涼な気候向きの野菜だとわかります。富士山頂を遥かに超す高地でも作付けがなされています。もちろん海岸地帯から4千m以上まで,です。広範な風土,気候に合う性質が生かされて,北海道を中心にして我が国の栽培条件にあうように改良されてきたわけです。

結果,食用栽培種では実がめったに実らないまでに作り変えられてきています。メークインとか男爵といった主要品種では,まず実ができないといわれています。そうかもしれません。しかし,まったくできないというわけでなく,ときにはできる場合があるということです。実際,これまでにわたしが実を見かけた品種はメークインも男爵もありました。わたしの畑でも生りました。ただ,実ができても発芽能力を失っているといわれています。発芽実験をしなかったので,ほんとうのところはわかりません。

今夏,知人宅で実をどっさり付けた品種は,『北海こがね』だということです。もしかすると,北海こがねは意外に実が付きやすい品種なのかもしれません。来春は是非植え付けたいと考えています。

おもしろい話があります。我が国における栽培の本場北海道では,デンプン専用品種になると,実が生らないのが逆にふしぎなほどに結実するといいます。道端にいくらでも転がっているとか。圃場一つの平均の広さが5ha。見渡すばかりに続くジャガイモ畑に,実が鈴生り状態だなんて!

話は飛びますが,成長時に旱魃が続くといった異常気象時には実ができる確率が高くなるという話があります。「イモができないような異常気象だから,早く花を咲かせて実を付けよう,真正(実生)種子を残さないことには子孫が絶える,たいへんだ!」とばかりに,ジャガイモ自身が判断するというのです。真偽の程はわかりません。話を聞けば,なるほどとわかりそうな気がします。

これとは正反対に,「天候のいい年に限ってジャガイモに実が付いたものです」という証言もあります。実際にどちらが正しいかは,ジャガイモに聞いてみなくてはわかりません。

その話はともかくとして,偶然にでもジャガイモの実を見たときには驚くだけでなく,実ができる前はそこに花が咲いていたのだなあと推測できたら,すてきです。しかし,繰り返しますが,大抵は花が咲いても実ができないように改良が重ねられているのです。花後の結実を待ち望んでも無理でしょう。そこに研究者の汗が流れていることを忘れたくないものです。

長々と話を続けてきました。結果,ジャガイモの話からまとめ上げられる自然界の大原則,それは「花は実(種子)をつくるために咲く」という点をご理解いただけたでしょうか。花はあくまで生殖器官の役目を果たしているという基本を踏まえながら自然の事象を観察することが肝心です。 

 


白菊の上の恋

2013-12-01 | 昆虫

白菊の花は盛りが過ぎていますが,昼間はまだまだ訪花昆虫がたくさん。一つの花に,ツツマグロキンバエなら多いときで三匹いるほどです。それらがみんな,わたしが近寄ると,ワァーッとばかりに飛び立ちます。

こんな調子ですから,花の上でのんびり恋をたのしんでいる暇はありません。小さな昆虫は,大きなのがやって来ると,そそくさと退散してしまいます。常に危険を避けながら,吸蜜に勤しんでいるというわけです。

それでも,暗くなると昆虫たちは消え失せ,一部の昆虫がのびのび動く空間になるのです。夕方見かけたのが,ガガンボの仲間です。ここで蜜を吸うのを見かけたことがありますが,交尾をしているのは初めてです。昼間だと,こんな細身のからだでは他の虫に弾き飛ばされるでしょう。脚は,ふしぎな程の長さです。併せて口吻も長いのは,一旦花に取り付けば,その姿勢のまま口吻を移動させるだけで吸蜜できるからでしょうか。

 

しばらく様子を観察していると,じっとしているわけではなく,適当にゆっくり動き回っていました。 一般法則に沿っていえば,右にいる方がからだが大きいのでメスということになりそうです。

 

白菊の花は,こんなふうに,いろんな昆虫たちの活動舞台になっています。昼と夜では訪れる数こそ違いますが,多様な姿が観察できます。