ジャガイモの芋は,あくまで芋。植え付け用の芋は「種芋」と呼ばれていますが,けっしてジャガイモの種(種子)ではありません。ほんものの種は,花が咲いた後,花にあったメシベの根元“子房”が膨らんでできる果実(実)の中に詰まっています。
市販されている種芋を植えてできる芋は,種芋とまったく同じ性質(遺伝子)をもっています。つまり,クローンなのです。
植物は一般的には,受粉で殖える有性生殖のほかに,芋や挿し木,葉挿しのような,花に頼らない無性生殖(栄養生殖)によっても殖えます。それらはすべてクローンですから,自分自身の分身になります。さらに言い換えると,自分のコピー版というわけです。
したがって,芋を植えると親の形質をそっくり引き継いだ芋ができるのです。今回植えるホッカイコガネは実がたいへんできやすいという性質をもっているので,とにかくこの性質が発現しやすいわけです。
さて,植え付けに使う芋には出芽してしばらく育つだけの養分があれば十分です。それにはふつう,一片が30g~50gぐらいを目安に分割すればよいでしょう。小さい芋ならそのまま使います。下写真で切り口が見えない芋がそれです。大きいものだと,2分割か,3分割するようにします。分割する際気をつけることは,“目”と呼ばれている箇所を2つ以上残すように切ること。目は窪んでいるか,小さな芽が頭を覗かせているか,いずれかなのでよくわかります。
切り終わったら,切り口を上に向けてそのまま日陰で4,5日放置します。そうすることで,切り口が空気に触れて乾燥します。その様子は,ちょうどわたしたちが擦り傷を負ったときにきれいに洗ってそのまま放置していたら,カサカサ状態になるのと同じです。自然治癒力によって傷口をふさぐ現象だといえます。この状態になれば,傷口から雑菌が侵入する心配はありません。
指南書あるいは販売店が配布している栽培ポイントには,切ったときに草木灰を付けるように指示しているものがあります。それは切り口から病原菌が入って種芋が腐らないようにという趣旨です。切ってすぐに灰を付け,そのまま植え付けるということなのでしょうか。指南書によっては,そういうことをするとかえって腐りやすいのでやめておこうと書かれたものもあります。手元にある本の著者である研究者は,わざわざ付ける必要はなく,切り口を乾かしてから植え付けるとよいと書いています。なんだか,混乱してしまいそう。
草木灰を付ける方法は昔から行われていました。今でも頑なに迷信を信じているかのようにやり続けている人があります。切って灰を付けて乾かすという丁寧さです。そんな頓着などまったくせずに済ませている人もいます。わたしは後者の方で,これまで一度もそんなことをした試しがありません。人がやっているから鵜呑みにして同じようにする,それで済ませてしまうというのはいかがかものでしょうか。やはり自分なりに“理”を点検しつつ,理にかなった自然との付き合い方を鍛えるのがよいと思うのです。そう,わたしは経験から感じています。
切ってから5日が経ちました。ご覧のとおり,切り口はすっかり乾燥しています。もちろん植え付けても大丈夫。
灰を付けても付けなくても,自然のことですから時には腐ることもあって当たり前です。でも,ほとんど(めったに)腐らないという点こそが重要なのです。