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自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

ロウバイの花(後)

2015-02-20 | ロウバイ

2回目の今回は,花をさらにくわしく解剖してみようと思います。しかし,顕微鏡で覗くわけではないために,おのずと限界があります。

花が開きかけたときに,やや斜め上から写しました。オシベの葯から花粉がこぼれかけています。真ん中にあるのがメシベで,薄っすらとした複数の柱頭が見えます。オシベより短めなのですこしわかりづらいかと思います。すでに他の花から花粉が運ばれて来て受粉が完了していれば,タイミングはばっちりというところです。 

 

 
十分に成熟した花を覗いてみます。もう受粉が終わった段階です。オシベがメシベを取り囲んでいます。このときに,訪れた昆虫のからだに花粉が付き,他の花のメシベに届けられるのです。手前のオシベを取り除くと,メシベの形状がよくわかります。下は結構太り気味,先端の柱頭はぼやっとした感じです。

 
オシベをすべて取り去ると,メシベの先の様子がすこしわかってきます。なんだか広がっているようです。花粉を受け入れやすいようにできていると考えられます。

 

 
オシベの付いた状態で,メシベの中を見てみましょう。縦方向に切って,断面を観察します。すると,根元辺りの膨らんだ箇所(子房と呼ばれる赤ちゃん部屋)に胚珠(タネの赤ちゃん)が数個詰まっているのがわかります。それぞれの胚珠からは,棒状の組織“花柱”が柱頭に向かって伸び,束状になっています。複数の先端が寄り添ったこのかたちは,受粉時,花粉が付着しやすいのでしょう。 

 
花を解剖すると,昆虫と花との“切っても切れない関係”がより深く見えてきます。その目でロウバイを訪れる昆虫を観察すると,昆虫の生態がさらに興味深くなるように思います。 

 


ロウバイの花(前)

2015-02-19 | ロウバイ

わたしが観察しているロウバイはソシンロウバイと呼ばれている品種です。まだ,花の中身をきちんと確認できていないので,この際記録しておこうと思います。

褐色をして外側を取り巻くように位置するのが萼(がく)。その内側では,花弁(花被片)が蕊をしっかり守っています。花弁が開き始めています。同時に,中心部のメシベを取り囲んでオシベが開き始めました。しかし,葯にはまだ花粉は見えません。中心にあるメシベを見ると,先(柱頭)が複数に分かれています。この形状によって,受粉確率が高まります。

 
基本的には,どんな植物も一つの花の中で受粉が完了してしまう“自家受粉”を避けようとします。それは,近親結婚を避けるしくみ。種としての多様性を将来に向けて残すのに,とても不利なためです。結局,オシベが開いているときは,メシベだけが「お先に」という具合に熟しているのです。これを雌性先熟と呼んでいます。

したがって,上写真では,メシベは花粉の受け入れ可能な状態,オシベは送粉の準備がまだできてない状態です。このとき,昆虫がロウバイの他の花(理想的には“他の株”!)から花粉を運んできて,受粉が行われます。これが受粉の第一ステップ。

その後,オシベがメシベを包み込むようにして密着します。と同時に,オシベ先にある葯からが吹きこぼれます。


さらに近寄って撮影しました。 


もっと近寄って撮影。花粉が外側に向かって,出ています。ここに昆虫が訪れたら,花粉がからだに付着して,別の花のメシベに運ばれていきます。 


以上の様子を横から見てみます。オシベがメシベを包んで……。

 
やがて,花粉が出てきて……。


もちろん,同一の花の中でオシベの花粉がメシベに付くことは十分考えられます。先に近親結婚を避ける巧妙なしくみについて説明しましたが,じつは,自家受粉によっても種子ができるのです。理由は,昆虫が訪れなかった場合を想定すれば理解できます。最悪の場合でも,同じ花の中で受粉が完結して種子をつくるという保険が掛けられていることによります。子孫を残すための最低保障。これが受粉の第二ステップ。

以上をまとめると次のようになります。「まずは,近親結婚を避ける受粉で。それでもダメなら,近親結婚を受け入れる受粉で」。ほんとうに,ロウバイは巧みな作戦を身に付けています。びっくりです。 

 


今年のロウバイ(5)

2015-02-18 | ロウバイ

大きなキンバエのなかまが訪れました。花の中に入り切れない程の大きさです。


後脚が花弁の縁に付いているのがわかります。

ロウバイの花に来た,そうした昆虫を写真に撮るのは一苦労です。ほとんどの花が枝から垂れ下がるように,地面方向に開いています。木がまだ小さいので,しゃがみながら真上を見上げる姿勢を保たなくてはなりません。なんと窮屈なこと! 

 


それでも,からだに付いた花粉を見て,「ほほーっ! これは,これは。苦労して観察した甲斐があったな」と,思わず「ほっ!」。  

 


別の花に別のキンバエがいました。なにやら賑やかな風景です。 

 


花から出ると,次の花に移って行きました。そこでも一心に,そして時間をかけて食餌をしていました。 

 
別の花に目を移すと,そこにもキンバエが。からだの花粉は目立ちません。というか,ほとんど付いていないので,活動はこれからという感じ。


頭をすっぽり花弁の内に入れて,餌を貪り食べている様子。メタリック色のからだが,日を浴びて輝いています。 


開催中の写真展を鑑賞してくださった方がおっしゃっていました。「ハエがこんなに美しいなんて,思ったことがありませんでした」と。これは,宿ったいのちを感じて自然に出てきた感想です。

 


今年のロウバイ(4)

2015-02-17 | ロウバイ

快晴のこの日。ホソヒラタアブがロウバイにもやって来ました。 

見ると,口先をペタペタ付けて餌を口にしている様子。口吻が薄っすら見えます。一つの花に入ると,丹念に食餌をします。

 
しばらくすると,次の花に移動。それに伴なってわたしも移動。わたしの位置は太陽と反対側。つまり,逆光になったのです。これはまずいなと思いながら,とにかくシャッターを切りました。すると,意外なおもしろさが出てきました。ヒラタアブのからだは全体が黒っぽいのは止むを得ませんが,シルエット風に色彩が浮かび上がってきたのです。

しかも,口吻が伸びて餌にあり付いている様子が一目でわかります。


姿勢を変えながら食餌に勤しんでいました。 


ひととき餌を口にすると,また次の花へ。今度は光を全身に浴びてからだが輝いて見えました。写真を見ると,からだのあちこちに,花粉が付いているのがわかります。 


冬でも,比較的暖かくて穏やかな日は多くの昆虫には格好の活動日であることがわかります。“暖かさ”の基準は最高気温が10℃以上というところでしょうか。  

 


今年のロウバイ(3)

2015-02-07 | ロウバイ

ロウバイの蕾をいち早く訪れたのはツマグロキンバエでしたが,わたしが観察した限り,開花後いちばん早くやって来たのもツマグロキンバエでした。さすがに,キンバエならではの貪欲さが光ります。

ロウバイの花はほとんどが下向きに開きます。それで,訪花昆虫を確認しようと思うと,自ずと見上げる姿勢になってしまいます。低い枝だと,とても疲れます。「それでも,きっちり見届けておこう」,そんなふうに思いながら確かめます。

幸い,このときツマグロキンバエが目に入ったのです。からだには花粉がいっぱい! ロウバイにすれば,とてもありがたい訪問者です。 

 
個体は,花から出ると,枝に移っていきました。そこで,盛んに脚や口吻をきれいにする動きを見せました。


ひとしきりその作業をしたあと,再び同じ花に戻ってきました。もちろん,歩いて。 


ここ,花弁の外側で, また掃除を繰り返しました。


掃除が終わると,花の中に入っていきました。余程気にいった花のようです。 

 
そこで,しばらく花粉を舐めていました。それが終わると,ゆっくり花の外へ出てきました。びっくりしたことに,花粉がさらに増えてまるで花粉まみれといった感じに見えました。

 
一連の動きやからだの様子から,送受粉の大いなる貢献者であることが一目でわかります。ロウバイは頼もしい昆虫を友としたものです。

 


今年のロウバイ(2)

2015-01-25 | ロウバイ

ロウバイはマンサクと共に,例年どの花よりもいち早く春を察知して咲き始めます。昼の長さの変化を知るのか,温度の変化を感じるのか,それはわかりませんが,とにかくこの花が開き始めると,「春だなあ」とこころがポッと温かくなります。

このロウバイの蕾が,今日1月25日,ほころびかけました。鼻を近づけて匂うと,心地よい香りが嗅覚を刺激します。なんと一年ぶり! 春がそこに見えて,すっかりうれしくなりました。


当然,まだ昆虫が入れるわけではありませんが,ちゃっかりとそこに訪れた個体がいます。ツマグロキンバエです。 

 
匂いを感じたのか,色を識別したのか,不明です。それにしても,大した感覚です。蕾の表面を歩き回って,別の花に移っていきました。やはり蕾だとわかっているようです。

冬,活動する昆虫で意外と目立つのがツマグロキンバエ。解説書の中には「活動時期は6月~10月」というのがありますが,「ほんとうに?」と首をひねってしまいます。一年を通して,きっと,とてもたくましく生きているのでしょう。

ロウバイ,明日あたりは開花するでしょう。いよいよ目が離せなくなります。 

 


今年のロウバイ(1)

2015-01-12 | ロウバイ

1月12日(月)。時折雪がチラつき,冷たい風が吹く一日になりました。前栽のロウバイを見ると,蕾はまだ固しといったところ。

蕾を見ているうちに,付け根辺りにカのなかまが一匹いるのを発見しました。体長はおよそ5mm。昨年も見かけたものです。その場所は,花の中でした。カはゆっくり動いて,蕾に関心を抱いている素振り。


蕾から匂いがかすかにでも放たれているのかと思い,鼻を近づけてみました。しかし,わたしの嗅覚ではまったくわかりませんでした。匂いに惹かれたのか,蕾の色を感知したのか,それはわかりませんが,去ろうとする気配はありませんでした。もしかすると,開花が待ち切れずに訪れたのかもしれません。


やがて動いて,方向転換。


しばらくじっとしていました。寒いので,からだが動きにくい様子。そのうちにポッと飛び去っていきました。

花弁が開いたら,期待しているようにたくさんの昆虫と出合えそうな気持ちがしています。わくわくですね。それだけ自然の奥が見えかけるわけですから。というわけで,今日が『今年のロウバイ』シリーズの一回目です。

 


ロウバイの実生と種子

2014-10-14 | ロウバイ

前栽にロウバイを植えています。それが順調に育って,毎年結実します。今は,葉をもりもりと付け,秋の日を精一杯に受けて,最後の成長に精を出しています。

先日前栽の木を剪定しているとき,ロウバイの根元で見たことのない芽生えを発見。「もしかすると,ロウバイの芽生えかもしれない」。そう思い,調べてみました。まちがいなく,芽生えでした。子葉のかたちからは,ロウバイの姿を想像するのはちょっとむずかしい感じです。


木には,今実がたくさん付いています。一つの実に,いくつかの種子が詰まっています。試しに数えてみると,多いもので12個入っていました。一つひとつはとても硬い皮で覆われています。それを播種すると,芽生えるということがよくわかりました。


ところで,我が家のロウバイはわたしが挿し木で育てたものです。あるところでいただいて,それを挿していたら順調に育ったのです。ある園芸書を見ると,ロウバイは挿し木がむずかしい木だという記述がありました。ほんとうかどうか試したくなって,挿したのでした。数本挿して,そのうちの一本が育ってくれました。わたしの腕では挿し木はむずかしかったともいえますが,まるでできないというわけでもありません。そのことが確認できた記念木です。

早春,芳香を放つロウバイ。花が昆虫を招き寄せ,訪花した昆虫が花粉授受の仲介をして,種子づくりを手伝います。その種子が地面に落ち,こうして発芽します。発芽して分布域を広げる成り行きを,今庭で見ているわけです。 うれしい発見となりました。

 


ロウバイと虫(まだまだ)

2014-03-18 | ロウバイ

なんとも,うれしいの一言に尽きます。だって,『ロウバイと虫(まだ)』 でご紹介したのと同種の個体を,あれから一週間後に目撃できたのですから。しかも,とてもくわしく観察できたのです。

勤務を終えて帰宅したのが午後6時。いつものように,ロウバイとマンサクの花に昆虫が来ていないか,確認。すると,一つの花に黒っぽいものが! ようく,ようく見て,そうしてさらに家から持ち出したカメラを通して確認すると,まぎれもなくこの昆虫でした。

 
ひたすら花弁に向かって,口器を向けている模様です。夢中の様子で,ずいぶんお気に入りのようです。


メシベの周りをゆっくり回りながら,貪り食っていました。頭部は,この昆虫なりに巨大な複眼ドームで包まれています。前回は,ここまでシャープな画像を得ることができないままに終わっていたので,ほっとしました。


やや短めの,丈夫で太い触角が見事です。口器は独特のかたちをしています。餌を的確に見つけるのに,役立っているのでしょう。 

 
口器を見ると,花粉らしい粒が数個付いています。餌を口にしている瞬間なのではないでしょうか。複眼が上部・下部の二層になっているように見えます。下部は,餌を視野にとらえるのにより効果的な構造なのかもしれません。

 
この観察を通して得た知見は,この昆虫の新しいすがたをくっきりわたしの脳裏に焼き付けるものとなりました。ロウバイの季節はすでに過ぎていますが,気長に観察を続けてよかったなあと感じています。 

 


ロウバイと虫(まだ)

2014-03-12 | ロウバイ

これまで見たのとはまた違ったハエ(あるいはアブ)が一匹,花に入って蜜を吸っていました。口吻から見ると,舐めるというのでなく,やはり吸うという感じです。

からだの特徴は,太めの脚とその黒み,それに腹部にある青い節,です。 これから同定してみようと思います。


ほんとうに熱心に吸蜜行動を続けていました。30分程は,この花にいたのではないでしょうか。 からだのあちこちに花粉がしっかり付いています。この姿勢だと,メシベにしっかり触れるでしょう。

 
今冬は,ロウバイを訪れる昆虫をたっぷり観察できました。ハッピーな気持ちです。