能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
能の世界も個人の生活もご紹介しています!

背もたれ

2013-05-01 08:21:04 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介
車内や機内で座っていると、いきなり前の人の背もたれが倒れて来る時がある。それも一気に目一杯後ろまで倒してくる。あれは気分が悪い。

「すみません。倒させていただきます」「倒してもいいですか?」と一言挨拶があれば、まだ我慢出来るが、いきなりバターンは自分の空間を占領されたみたいで、損をした気になる。

「倒れるように作ってあるのだからいいじゃないか。どうしようと俺の自由勝手だろう」と言わんばかりに目一杯後ろに倒す人、老若男女関係ないようだ。

私は倒すな!と言いたいのではない。目一杯が気に入らないのだ。せいぜい八分目までぐらいにしておくのがマナーだろうと思う。体調が悪いなら仕方がないが、そうではないなら100%目一杯倒すものではないと思う。そう作られていてもだ。私はそうしている。

能の型でシカケ・ヒラキという抽象的な動きがある。少し前に出ながら両手を前に合わせる動きを「シカケ」と言い、合わせた両手を左右に横に広げる動きを「ヒラキ」と呼ぶ。


「シカケ」は物を集める、集中させるイメージで、「ヒラキ」は集めたものを分散するイメージだ。



その「ヒラキ」の両手を動かす度合いだが、両手を目一杯に真横に広げてはいけない。
真横まで動かすとやり過ぎになる。背もたれの100%と同じようによくない。
次の二枚の写真は悪いヒラキだ。

つまり型には余白部分が必要で、その余白が想像の手助けをしてくれる。余白はまだまだ広がるだろうな~と奥行きを感じさせる。両手を真横まで広げてしまうと、一見広がりをより多く感じると思うかもしれないが、それは間違い。目一杯はだめなのである。


能楽師の良し悪しの判断基準として、目一杯両手を広げていたら、イマイチ!と思っていただいて構わない。目一杯広げる、目一杯倒す、共に気分が悪くなる行為だ、私には。
これはマナーの問題というよりは美意識になるかもしれないが、共通な美意識を持つ人が増えればよいと思っている。

写真 モデル 粟谷明生
文責 粟谷明生



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2 コメント

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ひさしぶりに (どうきゅうせい)
2013-05-01 11:15:54
説得力100%のお話、ありがとうございました!もちろん、FB の share させていただきます。
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お返事 (粟谷明生)
2013-05-01 17:19:25
どうきゅうせい様
シエア有難うございます。
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