能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
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『融』の見どころ その4

2016-02-26 08:08:55 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介
『融』の後シテは、ありし日の融大臣として曲のテーマである「月」の下で昔を偲び舞います。舞は「早舞(はやまい)」と呼ばれる盤渉調(ばんしきちょう)の高音の音色で、やや早めのスピードある舞です。その舞をどのように優雅に舞うか、そして型の多いキリの仕舞所も見どころです。

今回の早舞(はやまい)は「クツロギ」の特別演出でいたします。
「クツロギ」とは文字通りお休みする、と言う意味です。舞の途中で橋がかりへ行き、三の松あたりにて、左廻りから右廻りと水の流れを想像させるように動き、最後は袖を返して止まりしばしの間、休止する演出です。

私は「クツロギ」迄の前半を楽しく明るく「陽」の気持で、「クツロギ」で月と池水に映る影を眺めてからは徐々に栄華時代を回想し、もう取り戻せない時の喪失、そんな「陰」な気持を意識して舞いたいと、思っています。

仕舞所のシテ謡に「例えば月の有る夜は、星の淡き(うすき)が如くなり」があります。「月が出ている夜は、星は見えづらい」なにかが出れば、なにかは引かなくてはいけない、人生でそのような時があったなあ、これからもあるだろう、と私に思わせる能『融』は、やはり相当な名曲!と稽古にも熱が入っています。

『融』の仕舞所の月についての詞章です。

人は三日月をに例え、
水中の魚は釣り針かと疑い、
雲の上を飛ぶ鳥は、弓の影かと思い驚く

月は月光を降らしても自身が降りなく
水も月を映すが、そのものは昇らない
そうであるから、
安心して鳥は、池の辺りの木を宿とし
魚は月下の波に眠るのだ。

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文責 粟谷明生
写真 
『融』後シテ 粟谷明生 撮影 三上文規
面 今若 粟谷家蔵 撮影 粟谷明生






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