福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

地蔵菩薩三国霊験記 2/14巻の9/16

2024-06-29 | 先祖供養

地蔵菩薩三国霊験記 2/14巻の9/16

九、盛高生活

散位賀茂の朝臣盛孝(ママ)は天性慈心にして殺生をせず。道心純一にして毎月廿四日に持斎精進して一心に地蔵菩薩を恭敬し奉ること止むことなし。年四十三の時、俄かに病を受けて死去しけるが即時に火坑に入り頭は地を頂き足は天を踏みて倒に墜る。其の速きこと矢の如し。忽ち猛火の勢眼に見えて叫喚するこえ耳に響き四方に震動して天地も一に崩れ大山もこれがために微塵になるべしとぞ覚へて心神惚乱せり。盛孝声を放って叫びけれども其の甲斐なく遂に琰王宮廷に跪く。數多の検非違使次第にの冥官東西に羅列して百千の鬼使ども猥騒して市を成す。盛孝単孤にして胸を抱きうつぶしてぞありし時に小僧一人来たり玉ひしが端正微妙にして徐歩として現じ玉ふありさま日の光の山の端より出る如し。冥官も鬼王も共に頭を地に伏せて敬礼して地蔵菩薩の来臨し玉ふとぞ白し合へり。盛孝泣く々御前に立ち寄り合掌して白く、願はくは大士大悲の誓を違ふことなく吾を助けさせ給へと言す。菩薩言はく、来り易く還り難きは是琰羅國なり。汝已に有罪によりて召されて此に来れり。吾が心に任すことにあらずと黙念として立給ふ。又捨つべからざることありとて盛孝を引きて琰王廳に向かひて曰く、此の男は是我に結縁深き年来の施主なり。今此に召されて来る、暫く壽算を延べて娑婆に皈し玉へと。時に冥官の曰く、衆生の命福は元来定まれり。今更轉ずべきにあらず。況や彼の男は決定應受の業なりと云々。地蔵菩薩悲泣して言く、業報不轉の法ならば吾れ彼に代わりて苦を受くべし。彼をば旧里に還し申されよとあれば、琰王冥衆大に驚きて速やかに許奉る由を言さる。菩薩喜び玉ひ盛孝が手を引て官門を出給ひ、汝古里に皈り僧を敬ひ佛を礼し法を信ぜよ。再び此の所に来あるべからずとの玉ひ御手を放ち玉ふと思ひて忽ち生活りける。人心になりて後、親族を集めて此のありさまを語り自ら発心して一心に地蔵尊をぞ念じける。然るに冥途にて地蔵菩薩の御手をば触させ玉ふが死に至るまで妙香ありて薫じけるとなん貴くぞありき。

 

 

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