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流出雑記 

2015/3/15

2015年03月16日 | Weblog


きのう能『望月』を見た。花若の役は声変わりする前の少年。その声で読まれる台詞や、形との付き合いが周りの大人に比べればまだ浅い体の演じるようすには感動的なものがあった。

彼の体には圧倒的にシブい演奏と馴染まない形に追っかけられながら、それらの要素と観客の視線に晒されて、そういう負荷がかからないとやがて至ることのできない状態というのがあるのだと。彼の存在から年を重ねた能楽師の佇まいもこうして獲得されていったのだと形によってつくられた生きた姿を見ているという感覚が強くあった。

日常ではまったく別の言葉をしゃべり洋服を着て生活する体にインストールされる伝統は、現在時を生きる体において創造されるものであり、継承とはとてもクリエイティブなことなのかも知れない。

打って変わって今日はコンテンポラリーダンスを見に新長田。dbが主催している国内ダンス留学の成果上演。1月に20分のショーケースを4本上演して、その中から選ばれた2本が1時間の作品として上演される。
選ばれた2本は20分の段階でどちらも良いと思っていた。良さはそれぞれのこだわりを貫徹しているところにあったけれど、1時間に引き延ばすうえで時間の運び方に問題があったように思う。
見せたいものを見せるための適切な長さに観客への気遣いが含まれ、つまりこれでこの時間を持たせることができるか、飽きないだろうかという配慮によって挿入された新たなアイデアによって、作品のコアにあった良さが薄まった印象があり惜しく思った。

その帰り、行きたかったミャンマーカレー屋さんに行ったら臨時休業だった。去年から行くたびにずっと振られている。かわりに夫が知っていたベトナム料理屋へ。小雨が降るなか歩いていくと看板が光っているのが見えてきた。店内に入ると客は誰もいなくて、テーブルで奥さんと小さい子ふたりが何か食べていた。一瞬閉店してるのかと思ったけど、奥さんはテーブルを片付け、お茶を出してくれたのでメニューを開いて、ベトナムカレーとベトナム焼きそばと何か春雨の炒め物を注文した。
最初にカレーが出てきた。
赤っぽいからベトナムのカレーはトマトベースなのかと思った。しかしそれはどう見てもハヤシライスだった。食べてもいよいよハヤシライスで、明らかに完熟トマトのハヤシライスのレトルトだった。
何が起こっているのだろうと夫とふたりでとりあえずカレーと言って出されたハヤシを食べ終えてしばらくしてから焼きそばが運ばれてきた。
焼きそばソース味かもと冗談言ってたら、その通りソース味の普通の焼きそばが出てきて、麺はインスタントだった。野菜と肉はちゃんと入っている。土曜日のお昼に小学校から帰って家で食べたよく知っている味がする。
最後春雨はテーブルに置いてあったスイートチリソースかけたら辛うじてエスニックな雰囲気をまとった。

たぶん普段店で調理をしている人がいなかったのだと思う。にしてもこれはと思いつつ、幼子抱えて店を開けていなければならない事情など勝手に想像してしまうと何も言えない。そういうベトナム料理屋でベトナムの人が作った日本の超普通なごはんを食べて帰る稀な機会で微妙な感じに胃が満ちた。

けれど京都に戻って事態の特異さにマヒしていた胃の満たされなさが徐々に自覚されてきた。それで近くの居酒屋に行き、そのあともう一軒、深夜に帰宅。いつにない導線をたどった夜だった。