時間に隙を見付けては鉛筆でひたすら数字を書いていた。
鉛筆で数字を書くのが久しぶりで、書きはじめてすぐのきりっと尖っている気持ち良さと、先が丸くなって腕が怠くなり宿題が嫌になる小学校の頃の感じを思い出した。
ナンバーをふった用紙と青い封筒、それに説明書を添えて同じナンバーの茶封筒に間違いなく入れる、という作業をくり返す事140回。
それらを携え近隣住宅のチャイムを押しまくる。
国勢調査。
今年、町内の役がまわってきて、5年に1回の調査の年にあたってしまった。臨時の国家公務員となる。そんな機会が巡ってくるとは。
写真入りのカードを首からぶら下げ、地図を見ながら歩く。知らない家の玄関に立つ。表札を見る。インターホンを押す。鳴らない家はノックしたり呼んだりしてみる。うちのインターホンも壊れているのだが、宅急便などの人は鳴らない家ちょっとイヤだろうなと思う。ちゃんと、ピンポーンという音が家のなかに響くのを聞くと、そのなかに息づいている生活の反響音が返ってくるような気がしてなんだか安心する。
住んでいるのかいないのか定かでない家もある。物干しや庭の雑草の茂り具合を見たり、隣の人に聞いてみる。ポストにピザ屋のチラシがぎゅうぎゅうになってたりするのはわかりやすい。ガレージに車はあるが、ひと気のない家などは悩む。埃が積もった車のミラーにぶら下がっているマスコットは煤けながら笑っている。座席の傍の地図の表紙は日に焼けて色が抜けている。空家ではなく、長期入院中の場合などもある。
インターホン越しに声を聞き、玄関に出てくるまでの足音を聞き、ドアがあいて住んでいる人と対面する瞬間のちょっとした緊張感。そんな妙な緊張と緩和の波を家から家へと渡っている。
土日はやはり在宅率が高い。今日も朝のうちに数件まわり、昼から仕事。
2件ある彫刻の仕事のひとつ、今日が最終回。
自宅用に作られた新米をわけていただいた。それに白い茄子。このアトリエに通っている期間にいろんな野菜をもらった。なかでも栗かぼちゃは煮るとホクホクでとても美味しかった。農業に詳しい人が周りにいなかったので、休憩中に農作物についていろいろ質問するのが楽しかった。
白茄子は普通の、紫の茄子より身がやわらかい。火を通すとトロトロになる。クリーミーと言っても良いくらい。油で炒めて味噌を絡めたら、茄子のみとは思えない濃厚な料理になった。恐るべしアルビノ茄子。