タイ3日目。
この日は午前中にワット・プラケオという寺院に行き、その後国際交流基金を訪問する予定だった。7時過ぎに起きて8時にホテルを出る。ホテルからタクシーで約1時間、ワット・プラケオの入り口の前に着いた。入り口の前の交差点はすでに観光客でごったがえしており、欧米や中国、韓国からの団体客がどんどん中に入って行く。寺院の中では極端な露出やサンダル履きを禁止している。入り口の真横にはショートパンツで来がちな欧米の観光客を待ち構えて、エスニックな雰囲気の薄手のパンツを売っている人がいる。ぼったくり価格のトゥクトゥクも待ち構えている。ワット・プラケオの敷地はとても広いけれど、このザ観光地状態の中に500バーツ払って入るのかと思うと気が引けた。500バーツは日本円に換算すると約2000円になる。
それでしばらく悩み、その近くにあるワット・ポーに予定を変更しようと話しているところにケットちゃんが合流。ワット・ポーに行きたいと言うとトゥクトゥクの運転手と交渉して、おそらく常識的な値段で乗せてくれるようにしてくれた。ワット・プラケオからワット・ポーまでは歩いても15分くらいで乗車時間は数分だけど乗ってみたかったのでうれしい。屋根の内側はドラえもん柄だった。
ワット・ポーはバンコク最古の寺院であるらしい。敷地の中には大小さまざまな仏塔がいくつもそびえ立っていて、全面立体的な陶製の花の装飾で覆われている。鮮やかな色彩感覚だけれど色味は角がない。仏塔だからこれはつまりきっと偉い人のお墓なのだろうと思って見ていた。
本堂には金色のご本尊が何体もの仏像に囲まれて鎮座している。距離は遠く、かなり見上げる位置にある。日本であまり見たことがないと思ったのは、ご本尊に向かって手を合わせ座り、参拝客に背を向けた状態の仏像があること。それから有名な涅槃像。英語ではリクライニングブッダと表記されている。リクライニングという言葉が椅子以外に使われるのを初めて見た。お堂に入るとまず螺髪の突起、巨大な頭部が見える。ほんとうにお堂のぎりぎりに収まっている。これはお堂か涅槃かどちらを最初に作ったのだろうかと考えてしまった。奈良大仏建造の行程を歴史で習ったはずだけれど、どっちだったか思い出せない。やはり仏像が濡れるのはまずいからお堂が先だろうか。お堂の壁面も花模様や壁画でびっしり埋め尽くされている。宇宙の真理が描かれているという扁平足の足の裏の前は特に人が多いし、読み解く時間もないから宇宙の真理は謎のままだった。背中側にまわると、壁沿いに銅の鉢がたくさん並んでいて、小銭が入っているので賽銭箱のようだった。なぜあんなに並べているのか。後から調べて知ったことだけれど、あの鉢は108個、つまり煩悩の数だけあって、端から1個ずつ硬貨を入れて行き、硬貨が鉢にあたる音で煩悩がひとつずつ消えてゆくというものだったらしい。
移動時間が迫っていて寺院の中で受けられるタイ古式マッサージの時間は残念ながらなかった。ケットちゃんが国立博物館のチケットを買っておいてくれたけれど、それも見る時間がなく、ケットちゃんの運転で国際交流基金のオフィスに向かう。
車内でtryと言って見たことのない果物をくれた。見た目は赤いパプリカのヘタをとってひっくり返したような形状。味はセロリのようなさわやかな風味とりんごの雰囲気があり、甘みは強くない。チョムプーという名前。
タイの道は混むと聞いていた。オフィス街へ向かう道は渋滞していたけれどなんとか到着。昼時のオフィス街を歩く人たちはやはり都市生活者の面持ちで女性の顔色が特に違う。化粧気がある。このあたりの歩道に犬はいない。でも食べ物を売る露天は出ている。
オフィスでの所用が済み、結構お腹が空いていた。ケットちゃんがサツマイモのペーストにトウモロコシを混ぜて焼いたようなものを露天でぱっと買って皆にくれた。
お昼は昨日行きそびれたヌードルのお店に行こうとしたけれど、またしても休みで、近くの別の店に入る。グリーンカレーをまだ食べてなかった。メニューの写真にはグリーンカレーの横にそうめんのような麺が添えてある。でもグリーンカレーはぜひタイ米で食べたい。この麺をライスに変えられるかとケットちゃんに尋ねたら、そうしてもらえた。食事メニューの裏にはドリンクメニューがあり、タイ語表記のなんだかまったく見当がつかない飲み物の中から、ケットちゃんがどれでもいいからチョイス、という。3人それぞれ適当に指をさしたらしばらくして紫、ピンク、黄色、のカラフルなジュースが運ばれて来た。どうやらハーブティーだった。おいしい。カレーには別皿で野菜がついてくる。パクチーではないセリに味の似た野菜など。
稽古場に着くと2時過ぎていた。5時まで稽古。7時からカンパニーの通し稽古を見せてもらうことになっている。その前に市場に行って夕食を調達。厚めのビニール袋を膨らませた中におかずやスープ類を小分けして売っている。ごはんはラップに包まれている。ココナッツ系のスープを買う。ながらちゃんはケットちゃんのレコメンドで鶏の爪先部分、指がはっきりわかるかたちで揚げられた唐揚げにチャレンジしていた。それぞれ買って持ち帰り、スタジオのキッチンで皿に移して食べる。スープの具は鶏と冬瓜だった。
食後、野外のパフォーマンススペースで「BLACK&WHITE」というピチェカンパニーのマスターピースを見る。本来は凝った衣装があるけれど、今日は皆稽古着のままで照明もないし、音はピチェのiPadから流れている。それでも、というか装飾と空間演出がない上に本来作品には想定していない野外の音や鳥の鳴き声や風に晒されながらも尚、動きとその強度で踊りの時間が進行する作品の芯のに触れたようだった。透明な結晶体を思わせた。フォルムや作品の持つ時間には確固たるものがあり澄んでいて、硬質だから外的要素に侵されず、作品の外側にあるものさえ結晶体の表面に映すことが可能になっているほど研磨されたものと感じられた。
ただ、じっと見ていた方は蚊に噛まれ放題だった。でもなぜか痒くない。終わってからそれぞれに自己紹介し、今日でここに来るのは最後なのでピチェにお礼を言ってホテルまでケットちゃんに送ってもらった。
ホテルから少し歩いたところに大きなスーパーがあるのをながらちゃんが見つけて3人で行ってみた。BIG Cというスーパーで品揃えと売り方はウォールマートばりだった。ガパオやグリーンカレーのペーストは1袋40円くらいで売っている。日本だと150円くらい。
ヨーグルトを買ってホテルで食べた。タイ最後の夜。