京都から新幹線、新横浜で降りる。そこから横浜へ、さらに京急に乗り換えて、日ノ出町という駅で降りる。夕暮れ。
この横浜市中区日ノ出町、ここに「赤い靴クロニクル」という演劇を見にきた。
演劇と言ってもこの作品は劇場内ではなく街中で、観客自身が街を巡って体験するツアー・パフォーマンスと呼ばれる形で上演される。
設定された時刻に地図にある受付場所に向かい、目印の鳥保という看板を探して歩く。鳥保の交差点の角を左、そこから通りがなんとなく薄暗くなる。高架鉄道が走っているためだった。高架沿いの道端、不法投棄のゴミが散乱しているのを横目で見ながら通り抜けると川があり、橋の向こうにコンビニの黄色い明かりが見えた。
まだ少し時間があり、お腹がすいたので、橋を渡ってコンビニで100円のバタークッキーを買う。
コンビニへ渡った橋は、こがねばしと書いてある。こがね、黄金とついているのがかえって印象に残ってしまう、すきま風の吹くような風景。
黄金橋の真ん中から川を見下ろすと、水面は遠く水音も聞こえない。水は流れているというより、巨大な溝によどんだ緑色のゼリーがたぷんと溜まっているようだった。
川沿いの道はきれいに舗装されていて、来月にはにぎやかになるであろう桜並木が続く。
この日、3月だというのに雪が降ってもおかしくないほど身の縮む冷たい風が吹いていて、冷えきった口のなかでクッキーのバター風味は広がらず、川のすぐ傍を平行して走る電車の音と、高架下の陰りを目の前に、見知らぬ土地の道端で、微妙な待ち時間を過ごす為だけにさくさく顎を動かしていた。
時刻になり、地図のとおり高架下の角にある、周囲の建物と比べると不自然に白い受付会場に入る。
受付の女性に名前を告げると、もうすぐ案内の者が参りますのでお待ちくださいと言われる。白くて狭い部屋に男性と女性がひとりずつ既に待っていた。並んで掛けて待っていると、外のドアが開いて、若い男性が3名様ご案内致しますと顔をのぞかせた。