曇り雨
朝から妹が車で迎えに来て祖母のところへ。祖母が母の住んでいるマンションの近く、介護が受けられる高齢者向け住宅に引っ越すことになった。徐々に痴呆が始まっていると以前から母は言っていたけれど、ここ最近症状が急に進んだらしく、まだ移住してからの生活に馴染めるうちに動く方がいいというケアマネージャーである母の判断だった。
小雨のなか祖母の暮らす府営住宅。きれい好きなので家はいつも片付いているけれど、30年住んだ家には物が蓄積している。抜け殻になった家の整理は秋になってからしようとしばらくは借りたままになる。祖母は娘や孫のことは認識できるし急に今までと変わったとも思えないので、そんなに移住を急ぐ必要があるだろうかと思った。けれどしばらく話していることを聞いていたら内容がちぐはぐなことに気付く。もともとよく喋り、言葉の荒いところがある口調で、とりあえず出られる準備をする母や妹と私に意見をなんやかんや言うのを聞きながら、ああそうかと思う。引っ越しのため最低限必要な衣類等の荷物を用意しておくように母は伝えたそうだけれど、衣装ケースには季節感問わず肌着もタオルも一緒くたになった衣類がすし詰め状態になっていた。家を出る直前になって牛乳屋さんに連絡してないわ、連絡先がわからない。妹が牛乳瓶受けから連絡先を見つけて電話する。祖母は箪笥をあけて胸がはだけるのも構わずにこれがええかな、でもなあと着たり脱いだりしている。そんな調子で祖母は30年暮らした家を取り立てて名残惜しさもない様子で後にした。
母の車で祖母と母は先に新居へ。私と妹と2歳のおいはどこかでお昼を食べてから来るようにとお札を握らされ、道中にあった星乃珈琲に入る。店内にはドアの付いた個室があって、最近はこういう子供がいても来やすいようになっているんやねと感心する。なんでもよく食べていたおいは最近いやを覚えて偏食をするようになり、頼んだパスタも麺しか食べないし、パンケーキも上に乗っていた生クリームだけをこそげとった。座っているのが退屈で外に出たいと言うので妹と交代で駐車場のあたりをうろうろする。
祖母がこれから暮らすマンションには既に祖父が暮らしている。ワンルームの部屋が並んでいる。祖父と祖母はこれから斜めお向かいさんになる。二人はそれほど仲がよろしくないのでそれくらいがちょうどいい。水回りも真新しく、壁紙も真っ白。全面カーペット敷きのバリアフリーの床、セパレートのトイレとお風呂。お茶を入れたりちょっとしたものなら作れる電気調理器の台所もあるけれど食事は一階の食堂でとる。その部屋は当然それまでの暮らしのなかで積み重なった生活の澱がなく、むしろ新しいものしかなく、清潔で管理された安心と安全に囲まれている。そこが祖父母の終の住処になる。