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流出雑記 

2013/10/18

2013年10月21日 | Weblog
駅に向かうのに自転車で坂を下っている途中道の真ん中に 跳ねられた猫だった 車はよけて走っていくが 轢かれそうなのでとりあえず移動しなければと自転車を止めて猫に近づく アメリカンショートヘアのような柄の黒とグレーの雄 口から少し血が出ている以外に体は傷ついてなく まだ毛並みにも生きているツヤがある
かばんに入っている大判の紙は次の公演のチラシだった それを猫の体の下に滑り込ませて 道の端まで引っ張って移動させた 紙越しに触れた猫の体はまだ温かかった 前に同じようなことがあったとき 市の連絡先をアドレスに入れておいたのですぐに掛けた 電話をかけると音声案内の声が この電話は30秒ごとに20円かかりますと余計なアナウンスをし それから人に繋がった 道で跳ねられた猫を見つけたのですがと告げると 住所を聞かれた うちから離れていないがここが何町か知らないと思っていたら 通りがかりのおばさんが泉殿町、泉殿町と教えてくれ 離宮道の坂の途中ですと言うと 公園は近いですかと聞かれ ちょうど向かいが公園だった
家に戻り段ボールとガムテープと紙と新聞とタオルを持って猫のところに戻る 猫の横で段ボールを組み立てていると バイクで下っていくさっきとは違うおばさんがバイクを停め降りてきた お宅の猫ですかと聞かれ 違います この辺の子だと思いますと答える おばさんは近づいて猫を見 ああ と痛い表情をした この子はよくそこの犬のごはんをもらいにきてた子やと言った 私もこの子にごはんあげてたんやと鞄からビニール袋に小分けにしたキャットフードを取り出した じゃあそれも一緒に入れてあげましょうとふたりで新聞紙を広げ おばさんは片手で猫の首を支え片手で後ろ足をうさぎ捕まえたみたいに持ち上げて新聞紙の上に乗せ 包むようにして段ボールに納めた 私が黄色い水玉のタオルを布団のように上からかけると おばさんはキャットフードを猫のそばに供えて もうお目々もとじ と少し開いていたまぶたを指で閉じてやった おばさんは猫の遺体に触るのに躊躇しなかった 私の躊躇は死んでいること自体への 血や体液への忌避だった 生き物の 死んでいることに 全然慣れていないなと こういうとき思う 遠ざけられているしそれに甘んじて遠ざけてもいることの後ろめたさ
あんたなんで轢かれてしもたんや これ今日も持ってたんやで あんたにあげよ思て 向こうでいっぱい食べや もうおなか空かへんからな もう痛いこともあらへんし 安心してお母さんお父さんのとこ行き あんた兄弟もいたんやろ 最後あんじょうしてもらえてよかったなぁ
おばさんは猫と私にそう唱えた ふたりで手を合わせてから段ボールを閉じ 美化センター連絡済 猫遺体 と書いた紙を貼り お互いにお礼を言って別れた 段ボールの向こうの稲刈りの済んだ田んぼにはスズメの群れが降りてきて もみ殻の上で弾んでいた




2013/10/7

2013年10月08日 | Weblog
栗を買ってきた 明後日福井の夫の実家に帰るときに手土産にする渋皮煮 渋皮煮がすごくおいしいことは知っているが 自分のために作るにはあんまりにも手間で 栗をもらって仕方のないときにするくらい
圧力鍋で少し茹で鬼皮をむく 重曹を入れた水で数回茹でこぼし渋を抜いていく 水は茶色と紫を混ぜた濃い色になる この汁で染物ができるらしい それに納得できるくらい水は濃い色に染まる それから栗の表面についた薄い皮や筋をとり水にさらす 耳のためにつけていたテレビでは90年代からの歴代ヒット曲を特集している 中高生時代の懐かしい歌に混ざって流れてきたAKBの新曲は昭和歌謡のようなメロディだった
圧力鍋に砂糖ときれいになった栗を入れ加圧して火を止めたらそのまま一晩 翌朝もう一度火を入れ 煮立ったら ラム酒 栗を瓶に詰めて 煮汁だけ少し煮詰めて瓶にあけ 冷ませば完成
これだけ手間をかけても見た目は何の変哲もない栗

台本が届いた 台詞のある舞台が久しぶり過ぎて とりあえずひとりで全部音読してみたが いまいち立体感に欠けるので 掛け合いがしたくなった
共演者のK氏に連絡して読む稽古をしないかとさそってみたらのってくれた
稽古場がとれなかったので K氏の友人の父親のものだったという印刷工場を借りた 工場と言っても敷地は一軒家くらい 今はここで仲間内で集まって飲んだりするのだという 住むには直さないと という古さ 土間のままの台所の流しはタイルで ガスコンロやコーヒーフィルターややかんはある コーヒーを入れて 台詞をふたりでひたすら読み続ける 言葉を当てる相手がいると声が動きだす 休憩を挟みながら2時間近くかかった 途中でここの持ち主のK氏の友人が来たらしく台所の方で洗い物の音がしていた そのうちに玉ねぎを炒めるにおいもしてきた 帰り際に台所を通るときには K氏の友人は片手鍋に湯を沸かし右手にパスタを持って茹でようとしていた ここでは3回に1回はイタチに会うと言いながら 左側の通路の端には恋人が腰掛けて パソコンで写真を見ながら缶チューハイをあけてパスタを待っていた


2013/10/6

2013年10月07日 | Weblog
前の晩 布団に入る前に体に冷えを感じて 焼酎に生姜とレモングラスとローズヒップを漬けた何時作ったのか思い出せない薬酒らしきもの の入った瓶を流しの下から取り出して お湯で割って飲み 夏物の敷き布団カバーを起毛の冬用に変え パジャマを重ね着して寝るほどだったのに 翌日の夜は湯船に浸かるのを省略してもいいやと思うほど温暖な夜だった

寝る前に見たナショナルジオグラフィックのドキュメンタリーは臓器売買の話 心臓や腎臓などの臓器だけでなく もっと細かな接続パーツが 人工的に形を変えて再利用されているという 牛乳パックがトイレットペーパーに変わるように 人の体のパーツは別のパーツに使えるように作り変えることができるらしい 取り出された心臓から出ている太い管を切り取る 説明がなければモツなんかの 精肉の様子に見える
腱にどれくらいの強度があるかを実験する様子が映った 10センチくらいの細長い牛スジみたいな腱の端と端を固定しぴんと張った状態からさらに上下に引っ張っていく ゴムのような弾力を想像したが 案外伸びず さけるチーズのように繊維がわらわらと切れていった
移植希望者に対してドナーの数が圧倒的に足りず 適合するかしないかの運もあり 何時とも知れない順番待ち
そんなふうに命に関わるものが欲しい人がいるところにお金が絡む お金の欲しい人は欲しがられているものを差し出す
インドのある貧民街の女性たちは ほとんどの人が左の脇腹に傷あとをもっていた ふたつある臓器のうちのひとつを売ったのだ それをあっせんする者がいて 手術するものがいて 裕福な病人にそれを勧める者がいる 多額の費用を支払い そのひとつを得る ひとつを失った人はお金を得るが 支払われる額は 支払われた額の半分以下になっている
中国では処刑された罪人の遺体からすぐに臓器を摘出するらしい そのことは罪人には知らされない
いずれは生体や死体から取り出したりしなくても すべての臓器が人工的に作れるようになるらしい

思い出せないけど夢をみて起きた

2013/10/5

2013年10月06日 | Weblog
心臓の動きが自分のものに思えない日 それは鳥のもののように感じる そのせいで 礼子ちゃんのうちにいた白い文鳥を思い出した 礼子ちゃんのうちはキリスト教で亡くなったおじいさんの写真の横には白い十字架が立っていた 文鳥は低くしか飛べず くちばしはプラスチックのようだった 家の垣根の木にてんとう虫くらいの白い蟹の甲みたいな虫がついていた それが木を枯らすと礼子ちゃんの母が割り箸で取っていた 一緒に虫を探して割り箸で取った

結美ちゃんのうちには天理教と太い筆で書いた木の大きな札がかかっていた 天理教ってなにと母に聞いたが そういう宗教としか教えてくれなかった 結美ちゃんはものすごくおとなしく 声も小さく 半分透明のような女の子だったが運動神経はよかった 夏休みに神屋川公園に行き飲んだレモン味のアクエリアスがおいしかった あるときに結美ちゃんは静岡に転校した一度手紙のやり取りをした

加代ちゃんは同じ町内でなんでもよくできる活発な女の子だった 転校してきた私の面倒を見てくれた 加代ちゃんの両親は教師だった 加代ちゃんはいつも色や形がひと昔前の じゃりんこチエみたいな雰囲気のある服を着ていた てんとう虫を筆箱の中で飼うのが流行ったとき こうすれば逃げないと加代ちゃんは笑顔でてんとう虫の羽を抜いた 加代ちゃんも転校していった