天使論福井公演、福井駅新幹線高架下。新幹線はまだ開通していないし高架の建設も途中で止まっている。なので真上を新幹線がゴーゴー走る訳ではないが、平行に並ぶJR福井駅とえちぜん鉄道の駅に挟まれているので、数十分おきの発着音と共に上演。駅のホームや通りすがりの人が時々足を止めて見ている視線。初演の神奈川芸術劇場大スタジオとは打って変わって野外での公演だったが、オープンなスペースで普段あまり劇場に来ることのないお客さんが多く足を運んでくださったことは何よりよかった。
本番までの数日を福井で過ごした。福井の夫の実家でお世話になる。いつも盆正月に帰ってくるときは自転車でスーパーに行ったりすることがなかったけれど、今回はそういう生活圏内を走って買い物をしたり、ザリガニのいそうな小川や公園や路地を通った。実家の向かいにある神社には淡い色の三毛がいて、仲良くなりカフェオレと呼ぶ事にした。
公演本番まではゆったりしていても、押し出されつつあるトコロテンのように圧が常にかかっていて、何もしてなくても無駄にエネルギーを使っている気がする。ちょっと用事をしたあとや、稽古したあとは特にすぐ眠たくなる。 そんな今いち役に立たない嫁を労わってくれる母、剣道場を稽古場に使うことを快く承諾してくれた父。孫も産まず変な動きをしている嫁。
母は趣味で朝日の観測をしている。普段夜遅く寝て日が昇る時間は深い眠りの中にいるが、滞在中一日だけ朝起こしてもらって朝日を見た。
フリースを羽織らないと明け方はもう寒い。山際を薄っすらオレンジがかった光の線が縁取る。街並みはまだ夜の霧が残ってそのなかに半分沈んでいる。家々は灰色の箱の陳列のようで、そのひとつひとつの中に生活が詰まっている感じがしない。単なるかたちに見える。と思っているうちに山際から空の色がどんどん変わっていく。オレンジは拡がって雲に反射し金色に光る。その周りは雲と濃い青のグラデーション。左の方に縦に伸びる短い虹色が見えた。光をみすぎて目が変だから錯覚かと思ったけれど、彩雲だと母が教えてくれた。
いつも寝ているあいだ、毎朝こんなダイナミックなショーが開催され、しかも入場無料、誰でもタダで見られる。 というかそういうところにいるなんてラッキーだと思いながら自分の体温で温めるには冷えすぎて二度寝できなくなった手足を湯船に浸かってふやかした。
公演終えた夜にみた夢。二階の仏間の横の部屋を寝室にしてもらっていたのだが、仏壇からくすくす笑う声が聞こえてきた。子供っぽいが大人の女性の声だっ た。部屋にいたのは私ひとり。怖いので走って一階に逃げて父と母に仏壇から笑い声聞こえますと報告すると、父と母は、ああ、…それは、時々聞こえるんや、 とやっぱりなという感じで答えた。