英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

米長邦雄永世棋聖、逝去

2012-12-20 16:37:08 | 将棋
「訃報です。日本将棋連盟の……」
お昼のニュースで淡々としたアナウンスに、
≪えっ、誰?≫
それが米長会長であると分かったが、
≪なんで???…≫
『米長会長』と『死去』という単語が結び付かなかった。

 棋士としての永世棋聖・米長邦雄。
 「相手にとって重要で、自分にとって無関係な一局こそ全力を尽くす」という米長哲学が浸透している将棋界は素晴らしいと思う。
 この哲学は、将棋・勝負に殉ずる棋士精神の礎となるもので、氏の残した功績の最大のものであろう。この哲学の素晴らしさは言うまでもないが、それに加えて、そういった場面に遭遇する際の棋士の迷いをなくしたという実戦的利点も大きい。
 窮地に陥っている棋士にもこの精神が承知されているから、勝ち負けの結果が関係のない棋士も迷わず全力を注ぐことができるのだ。米長哲学を信奉していても、棋界に浸透していなかったら、≪ここで勝てば、相手の棋士にとどめをさすことになる。根に持たれるかもしれない≫などと考えてしまい、指し手に曇りが生じたり、将棋に徹することができても心の葛藤が起こるかもしれない。

 米長永世棋聖の将棋と言えば、若い頃は『さわやか流』、熟練してからは『泥沼流』と呼ばれた(本人が自称した)。
 『将棋世界』誌の講座(確か、大山15世名人と米長永世棋聖の講座を並べ『黄金講座』と称していたと思う)で、逆転のテクニックを伝授していた。
 不利な時の勝負術、たとえば、「相手より自分が優位なポイントを主張する」とか、「一歩譲って、≪お好きなようにして≫と開き直り、そのかわり≪間違えたら許さないわよ≫と釘を刺しておく」といった勝負術が心に残っている。
 その中の勝負術で光るのが『米長玉』であろう。玉をあらかじめ1八や9二にかわしておいて、相手の切っ先をその懐の深さで凌ぐという戦術である。
 終盤の寄せあいの段階で、玉をかわし相手が駒を切ってくる攻めが王手にならず同○○と応じることができ、駒が入れば相手玉を詰ますことができるというテクニックは、厳密に言うと『米長玉』ではなく、もっと早い段階の終盤の入口あたりで玉を寄るのが『米長玉』であると自身が講座の中で述べていた。
 ≪ううん、そうかぁ、なあるほぉどぉ~≫と感心しながら読み、強くなった気がしたものだった。

 会長としての米長邦雄氏。
 景気の後退、出版業界の退潮傾向の難局に、道義的なことはともかく名人戦契約で勝負手を放ち、公益社団法人化、新棋戦発足やネット展開も切り開くなど、手腕を発揮した。多少、舵を切り過ぎたところ(女流棋士問題等)もあるが、氏の残した功績は大きい。
 各界との人脈も発言力もある米長氏の死去は、将棋界にとって影が差す出来事かもしれない。幸いなことに舵を切っている最中ではなく、舵をほぼ切り終えた段階であったことだ。今後、航路を安定させながら乗り切ってほしい。
 会長は誰になるのか……会長の器としては渡辺竜王だと思うが、それはない。


 将棋界にとって大きな損失、早過ぎる死である。

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6 コメント

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Unknown (purelove777)
2012-12-21 08:25:25
米長会長はまだ69歳なんですね。{間違っていたらごめんなさい}
昔nhkの司会だった永井さんも今年なくなられて{自分は生まれてませんが、ニコニコで知りました}、非常に残念に思います。
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永井さんも ()
2012-12-21 19:59:11
purelove777さん、こんばんは。

 69歳で合っています。大山先生も69歳でした。お二人とも、会長として精力的に活動されていましたから(いえ、他の会長がどうというわけでなく)、疲労が蓄積していたのかもしれませんね。
 永井さんも今年亡くなりました。NHK杯での控え目ながらツボを心得た聞き役が絶妙でした。視聴者が聞いてほしいことをすかさず聞いてくれました(当人は強いので、聞かなくても局面を理解しているのですが)
 永井さんは『近代将棋』誌を創刊しています。どこか、こだわりを感じさせる味のある将棋誌でした。それと、『金子教室』(講座)が素晴らしかったです。
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次期会長が難しい (勝手新四朗)
2012-12-23 06:32:49
癌だったんですね~。知りませんでした。
ただ、早い段階で死期を悟っていたようで、Blog等の更新での一言が話題になっていました。
棋士としての存在も大きかったですが、会長職になってからの功績も凄かった(大山15世に匹敵)。
次期会長の器としては谷川九段しか思い浮かびません(事実、葬儀委員長)が、まだA級バリバリの現役で固辞するでしょう。(大山15世は現役時に会長でしたが)
次期としては大内九段あたりが引き継ぐしかないように思います。
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魅力あふれた方でした ()
2012-12-23 12:02:49
勝手さん、どうもです。

>棋士としての存在も大きかったですが、会長職になってからの功績も凄かった(大山15世に匹敵)。

 ええ、功罪の罪の面もありましたが、功績は多大ですね。

>次期会長の器としては谷川九段しか思い浮かびません(事実、葬儀委員長)が、まだA級バリバリの現役で固辞するでしょう

 谷川九段はまだまだ現役でがんばっていただきたいので、本文では名前を上げませんでした。
 谷川九段以外だと、難しいですね。島九段が良いんじゃないでしょうか。
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う~ん、複雑 (かみしろ)
2013-05-11 22:56:24
なんで今更かというと、中々整理がつかなかったのです。
米長邦雄は最初に好きになった棋士でした。
勝負師米長も大好きだった。
しかし人間米長は嫌いだった。
そして東京都教育委員会委員米長邦雄は率直に言って屑だった。
「運を育てる」とか何度も読んだし、今でも良い事が書いてあると思う。
しかし棋士、勝負師としてはそこに書いてることと行動が大体一致するのだけれど、それ以外だと逆のことをしていると感じることが多く、現役引退後は残念な姿を見る機会が増えた。
のでかなりほっとした。
米長邦夫が魅力的な棋士だったことも忘れてしまいそうだったから。
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『将棋世界』の追悼文 ()
2013-05-12 09:24:07
かみしろさん、こんにちは。

 『将棋世界』の追悼記事でも、各棋士が追悼文を寄せていました。複雑な思いがチラチラ見える追悼文が多かったです。
 棋士としての魅力、会長として評価できる行為もありますが、権力を持つと、「負の部分を増長させるのかな」とかんじさせるような残念な所業も多かったですね。
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