「バレエの神髄」2013(7月14日)-1


 「バレエの神髄」2013(於文京シビック・ホール)


  2011年7月以来2年ぶりということで、今回の公演、


    帝王再臨


  という光藍社史上最強のキャッチコピーに圧倒されたのは私だけではないはずである。

  しかし、それもむべなるかな、と思い知らされたファルフ・ルジマトフの偉大さよ。ルジマトフの踊りや表現がすばらしかったのはもちろん、50歳という年齢を超越した、もはや荘厳ささえ感じさせるほどの完璧な美しい肉体を見ただけで、ただただ畏敬の念に打たれるばかり。


 第1部


 『パキータ』よりグラン・パ(音楽:レオン・ミンクス、振付:マリウス・プティパ)

   カテリーナ・クーハリ、オレクサンドル・ストヤノフ(キエフ・バレエ)

   キエフ・バレエ

  『ライモンダ』のグラン・パは割と上演される機会が多いですが、『パキータ』のグラン・パは少ない気がするし、私は『パキータ』のほうが好きなので嬉しかったです。

  女性コール・ドは鮮やかな赤いチュチュでした。カテリーナ・クーハリ、オレクサンドル・ストヤノフは純白の衣裳。

  『パキータ』のグラン・パについてはずっと疑問がありました。女性ダンサーによって踊られる5つのヴァリエーションのうち、どれが主人公パキータの踊りなのかということです。以前に小林紀子バレエ・シアターが上演したものでは、第4ヴァリエーションがパキータの踊りでした。しかし、第4ヴァリエーションではなく、最後の第5ヴァリエーションだとも聞いていました。

  クーハリが踊ったのは第5ヴァリエーションでした。よって、通常は第5ヴァリエーションをパキータ役のダンサーが踊るとみていいようです。

  コーダでさっそく本日の公演1回目の32回転。ロシア系のバレリーナって、軽々とこなしちゃうんだもんなー。

  この前日に観た英国ロイヤル・バレエ団日本公演『白鳥の湖』で、オディール役のサラ・ラムが、32回転の最後でスタミナ切れして体勢を崩しかけました。それを見て取ったジークフリート王子役のカルロス・アコスタが、とっさにすごいピルエットをして観客の注意をラムから逸らしたことを思い出しました。

  装置と衣裳はロイヤルのほうが圧倒的におカネかけてるけど、こっちはダンサーの体一つあれば済むんだもんね。


 「帰還」(音楽:ウクライナの民族音楽、振付:V.ロマノフスキー)

   ファルフ・ルジマトフ

  出ました御大!吹雪のような寒々しい音が流れたあとに、歌付きの音楽が始まります。ルジマトフは暗い色の長いコートで身体をすっぽりと覆って登場しました。寒そうに肩をすくめています。

  ルジマトフはそれからコートを脱いで、ゆっくりと踊り始めました。上半身は裸で、黒いズボンを穿いています。ルジマトフによると、この作品は「少し哲学的で兵士の帰還を表現しています」とのこと。

  兵士の帰還にしては、生きて帰ってきた喜びではなく、逆に寂寥とした雰囲気に満ちていました。最後にルジマトフが、床に脱ぎ捨ててあったコートを、まるで人を抱きかかえるかのように持ちました。ひょっとしたら、この兵士は死んで帰ってきたのかな。あるいは、戦友の死をたくさん抱えて帰ってきたのかも。


 『海賊』よりメドーラとアリのパ・ド・ドゥ(音楽・リッカルド・ドリゴ、振付:マリウス・プティパ、V.チェブキアーニ)

   エリザヴェータ・チェプラソワ、若いピチピチ男子(キエフ・バレエ)

  アリ、メドーラのヴァリエーションは省略された短縮版。このパ・ド・ドゥを踊るはずだった岩田守弘さんは、前日の公演で脚を痛めてしまったため、急遽この若いピチピチ男子に変更になったようです。

  「若いピチピチ男子」って、すみません。変更されたキャスト名をメモるのを忘れてしまったのです。黒髪の坊やだったなあ。踊りは少し不安定でパワーに欠けました。急に踊ることになって、練習が間に合わなかったためでしょう。

  コーダでチェプラソワが本日の公演2回目の32回転。本当にみんな軽々とこなすねえ。姿勢の美しさや定位置を保っているかといった点で違いはあっても、途中で失敗するとか、最後でパワーが落ちるとかは絶対にないんだよね、ロシア系のバレリーナって。


 「瀕死の白鳥」(音楽:カミーユ・サン=サーンス、振付:ミハイル・フォーキン)

   エレーナ・フィリピエワ(キエフ・バレエ)

  両腕の動きがとても美しかったです。骨がないみたいに細かに波打ちます。激しさはなく、静かに従容として死を受け入れる白鳥といった感じでした。


 『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ(音楽:レオン・ミンクス、振付:マリウス・プティパ)

   エレーナ・エフセーエワ(マリインスキー劇場バレエ)、セルギイ・シドルスキー(キエフ・バレエ)

  エフセーエワが出てきた途端、エフセーエワが長身で手足が長いことにびっくり。といっても、エフセーエワはマリインスキー劇場バレエの中で踊ると、むしろ小柄で普通の体型に見えます。本筋から外れますが、マリインスキー劇場バレエのバレリーナたちが、どんなに身長と体型とに恵まれているかということを、今さらながらに痛感。

  去年のマリインスキー劇場バレエ日本公演でもエフセーエワを観ましたが、エフセーエワ、本当に大人の女性になっちゃって。レニングラード国立バレエ(ミハイロフスキー劇場バレエ)時代は少女っぽい天真爛漫さがありましたが、今は艶やかで色っぽいです。

  いきなり余談。ミハイロフスキー劇場バレエに移籍した、元ボリショイ・バレエのナターリャ・オシポワは、来シーズンから英国ロイヤル・バレエ団に移籍するんだってね(それともゲスト・プリンシパル?)。相方のイワン・ワシーリエフはどうするんだろ?ロイヤルのレパートリーと熱烈募集中の人材(←長身王子)からすると、ワシーリエフでは難しいかなあ。

  エフセーエワは、去年観た『ラ・バヤデール』のガムザッティみたいなキャラで、キトリを踊っていました。やっぱり舞台映えがするというか、華があるよね、エフセーエワは。大きく見えるのはそのせいもあると思います。踊りにも自信がみなぎっています(みなぎらせようと頑張っていたともいう)。

  セルギイ・シドルスキーも相変わらず長身でカッコいい。でも、シドルスキーは、バジルよりも王子のほうが似合うと思います。雰囲気も踊りも上品だから。この踊りでも、あくまで羽目を外さない、節度を保ったバジルでした。

  で、コーダで本日の公演3回目の32回転。エフセーエワは頑張ってくれて、2回転を入れてました。最後で音楽に合わなくなってきたので、1回転のみになってたと思います。キャラ作ってる感とマリインスキーのダンサーとしての誇りで力んでる感が強かったですが、一生懸命なのが分かるので憎めません。むしろあまりな健気さに、応援してしまいます。

  (その2に続く~。)

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