コジョカルとコボーも降板


  現在開催中の英国ロイヤル・バレエ団日本公演。しかし昨日(10日)の午前、事態が急変。アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーがともに『白鳥の湖』を降板するというニュースが、NBSの公式サイト に掲載されました。

  NBSの公式サイトによると、「コジョカルは今年の春に左足の甲を、またコボーは1月に腰を痛め、それぞれ治療に努めて」いたものの、「昨日(注:9日)のリハーサル終了後、〈ロイヤル・ガラ〉の小品は踊ることができるものの、身体的負担の大きい全幕作品である『白鳥の湖』を踊れる状態までには回復しておらず、『白鳥の湖』への出演を断念せざるを得ないという結論に至りました」とのこと。ちなみにコジョカルとコボーは5日に来日していたそうです。

  それで、コジョカルとコボーが主演予定だった7月12日(金)の公演は、急遽ロベルタ・マルケスとスティーヴン・マックレーが主演することになりました。

  ところが事態は二転。今日(11日)夜、再びNBSの公式サイトに、今度はロベルタ・マルケスが、10日夜に行われた「ロイヤル・ガラ」の本番中に「脚を痛め」たため、「マルケスは大事をとって本来の出演予定日である7月13日(土)昼公演に専念し、明日(7/12)の公演はサラ・ラムとスティーヴン・マックレーが主演いたします」ということになりました。

  つまりこういう変遷をたどったわけです。

 
  7月12日(金)18:30 「白鳥の湖」

   オデット/オディール:(旧1)アリーナ・コジョカル→(旧2)ロベルタ・マルケス→(今のところ新)サラ・ラム
   ジークフリート王子:(旧)ヨハン・コボー→(今のところ新)スティーヴン・マックレー


  ここまで混乱すると、またいきなりキャスト変更が起きるんじゃないかと心配になります。私は土曜日の夜公演(サラ・ラム、カルロス・アコスタ主演予定)を観に行くので、サラ・ラムが金曜日の公演のせいで、万が一怪我でもして降板しちゃったら大ショックです。

  コジョカルとコボーがともに降板したことを知ったときの第一印象は、すげえ感じ悪いな、でした。『白鳥の湖』への出演はずいぶん前に決まっていたことで、5日にはちゃんと来日もしていたのに、今さら二人とも「身体的負担の大きい全幕作品である『白鳥の湖』を踊れる状態までには回復しておらず、『白鳥の湖』への出演を断念せざるを得ない」はありえないだろ、と思いました。

  だって、コジョカルとコボーは1か月前の6月5日、ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスで上演された『マイヤーリング』全幕で主演を務めています(マリー・ヴェッツェラとルドルフ皇太子)。コジョカルが左足の甲を痛めたのは「今年の春」、コボーが腰を痛めたのは今年の「1月」、それでも6月の『マイヤーリング』全幕は踊ったのに、それから1ヶ月後の『白鳥の湖』全幕は踊れない?

  何が起きたか知らないが、観客をバカにするのもいいかげんにしろ、と、なんか私の中で、コジョカルとコボーに対するイメージが一気に悪くなってしまいました。(このバ○ップル、とまで思ってしまった。)

  しかし、いろいろネット上で見てみたら、決して軽々しい、あるいは悪意あるドタキャンではない感じが強いです。

  コジョカルは6月末、ハンブルク・バレエとともに『リリオム(Liliom)』(ジョン・ノイマイヤー振付)全幕に主演し(25日)、また『ペール・ギュント』のパ・ド・ドゥを踊った(30日)そうです。

  しかも、7月15日から19日までは、コボーとともにデンマーク(←コボーの祖国)での公演に出演予定で、更に7月31日、8月2日、3日には、ローマのグローブ座で行なわれるスロヴァキア国立バレエ団公演『ロミオとジュリエット』(マッシモ・モリコーネ振付)に、フェデリコ・ボネッリと主演予定だという。

  ここまで知って、コジョカル、ざけんなー!と思ったのですが…。  

  でもコジョカルは、7月3日にニューヨークのメトロポリタン歌劇場で行なわれる、アメリカン・バレエ・シアター公演『眠れる森の美女』に主演予定だったのですが、それは降板していました。マリア・コチェトコワがコジョカルの代わりに主演を務めたようです。

  あるバレエ・ファンによると、こういう理屈だって。つまり、マリウス・プティパの振付は、他の振付家による振付と比べて、身体的な負担の重さが並大抵なものではない、ということ。だから、コジョカルが『眠れる森の美女』と『白鳥の湖』に限って降板したのは、特に不自然なことではないらしい。

  そういえば、ロイヤル・バレエ前芸術監督のモニカ・メイスンも、そのあまりに苛酷な振付のために、プティパを「サディスト」呼ばわりしたと聞いたことがあります。

  シュトゥットガルト・バレエ団が分かりやすい例です。シュトゥットガルト・バレエ団は、ジョン・クランコはもちろん、ジョン・ノイマイヤー、ウィリアム・フォーサイス、ハンス・ファン・マネンなど、なんでも踊りこなします。しかし、プティパとなると、てんで踊れないダンサーが多いです。プティパはそれほど別格なのでしょう。

  だとすると、コジョカルはむしろ、日本で『白鳥の湖』を踊ることを優先して、アメリカン・バレエ・シアターの『眠れる森の美女』をキャンセルしたと考えられるのです。

  退団をめぐって、ロイヤル・バレエ側と何かもめて『白鳥の湖』をドタキャンしたのなら、アメリカン・バレエ・シアターの『眠れる森の美女』をキャンセルする必要はありません。むしろ、これからのことを考えると、アメリカン・バレエ・シアターの公演のほうを優先するのが自然でしょう。

  コジョカルがこうして『白鳥の湖』公演直前で降板を決めたのは、ぎりぎりまで踊る可能性を模索した末にあきらめざるを得なかったか、もしくはもっと早くに降板の申し入れをしたかったのだけれども、主催元や日本の観客の期待の大きさを考えると、断るに断れなかったのではないでしょうか。

  コボーについても、降板は仕方のないことだと思います。ただ、コボーが腰の故障のせいで降板したとは、私は信じていません。コジョカルの代わりにコボーと踊れるバレリーナがいなかった、これが本当の理由でしょう。

  なぜ他のバレリーナを手配することができなかったのかは分かりませんが、大体こんなところが原因ではないでしょうか。特にここ数年の間、コボーがコジョカル以外のバレリーナとパートナーシップを築く努力をしてこなかった。コボーが急速に踊れなくなってきた。にも関わらず、前芸術監督のモニカ・メイスンをはじめとするロイヤル・バレエ側は、これらをずっと看過してきた。しかし新芸術監督のケヴィン・オヘアはこの状態を容認できなかった。そして自分の立場の危うさを知ったコボーの主導で、コボーとコジョカルの退団がオヘアの頭越しに唐突に決まり、それにオヘアが大きな不快感と不信感を抱いた、等々。

  私生活でのパートナー同士が舞台上でもペアを組むのは危険だ、という説がうなずける気がします。なれ合いに陥ってしまうことが多いからだそうです。今回のような事態が起こると、コジョカルとコボーもその危ない道に向かいつつあるように思えます。

  ただ、コジョカルはロイヤル退団が決まった後も、相変わらず世界のあちこちから引っ張りだこのようです。いろんなカンパニーで、いろんなダンサーたちと舞台に立ち続けている以上は、ダンサーとして視野狭窄に陥ることはまあないだろうと思います。むしろこれからのほうが更なる大活躍になるかも。

  一方、コボーに関しては、早くどこかのバレエ団の芸術監督に就任できればいいと思います。コボーは公演プロデュース、演出、改訂振付に優れていると思うので、その能力を存分に発揮できる場所が早く決まってほしいものです。

  …と私はコジョカルとコボーに好意的に書きましたが、向こう(ロイヤル・バレエの地元ロンドン)のファンの意見の大勢は違いますな。なんとコジョカルとコボーに批判的な意見が多いです。

  非難の的は、一つにはコジョカルのドタキャン癖(←以前から頻繁にあったらしい)、もう一つにはコジョカルとコボーのお騒がせ癖(いきなり衝撃的なニュースを発表して大騒動を巻き起こし、関係者やファンを振り回す。コジョカルとコボーが『マイヤーリング』の公演2日前に、突然ロイヤル・バレエからの退団を発表したことも取り上げられている)です。

  向こうのファンは、コジョカルとコボーの両人は彼ら自身の意思で、『白鳥の湖』を公演2日前の時点でドタキャンしたと見ているようです。何ヶ月も前にチケットを買っていた日本のファンを失望させ、ロイヤル・バレエ側をキャスティングの急な調整に東奔西走させて、他のダンサーたちを『白鳥の湖』なんて大変な作品に、いきなり代役で出演する破目に陥らせて迷惑をかけた、という厳しい論調です。

  いわれてみれば、今回も『白鳥の湖』公演2日前、しかも「ロイヤル・ガラ」の当日朝に降板が発表されたなあ。まるで「ロイヤル・ガラ」での話題を引っさらい、観客の注目と大喝采を独占することを狙っていたかのように。『マイヤーリング』公演2日前にいきなり退団発表→大騒ぎになる→『マイヤーリング』が感動と涙のさよなら公演に、とパターンがまったく同じだわ。

  う~ん、やっぱり、コジョカルとコボーは「バ○ップル」なのかなあ。二人でロイヤル・バレエの頂点に君臨していた10年あまりの間に、徐々に感覚がおかしくなっていってしまったのだろうか……。


コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )