気遣われました


  この前の、中国全土で行なわれた反日デモのさなかに多発した「暴力、破壊、略奪」事件の続報。

  あれは、中国政府の計算外の事態だったらしいです。中国政府の現執行部は頭を痛めているそうな。というのは、あの一連の犯罪行為は、やはり現執行部(胡錦涛、温家宝ら)と次期執行部(習近平ら)に打撃を与えるために、全国規模で組織的に行なわれた政治闘争だったという話です。

  今さら知ったかぶりで言いますが、前の記事(「官製デモの作り方」)を書いた後、ふと不思議に思ったのは、建物を破壊したり、商品を略奪したりといった犯罪行為がなぜ撮影されて、その映像や画像が海外メディアに流出したばかりでなく、中国国内のウェブ上にも投稿されまくったのか?ということでした。

  中国国内でも、あの破壊や略奪行為の画像や映像はあちこちにアップロードされていて、政府によるチェックと削除が追いつかない状態になったそうです(文字テキストと違い、画像や映像は検閲がしにくい)。

  若者を中心とした中国人たちは、同胞による犯罪行為の映像や画像を観て激怒、犯罪行為に加わっていた個人を特定する動きがネット上で起こり、そのうちの何人かは、なんと現役の公安(警察官)であることが判明しました。

  彼らは「便衣」といって、私服警察官とか潜入捜査官のことなんですが、これらの日本語とは語感が違います。「一般の民衆に紛れて悪いことをする」警察官、刑事、下っ端のスパイといったニュアンスがあります。

  これらの「便衣」がデモ参加者を煽って、もしくは最初から暴力行為を行なう人員を組織して、ああいった犯罪行為をわざと行ない、その映像をメディアに流出させて、胡錦涛や習近平の権力を弱めようとしたという見方が強いそうです。ただ、暴動を煽った公安関係者個人が特定されることまで予想していたのかどうかは不明です。

  目下、胡錦涛の命令によって、デモに便乗した犯罪行為の黒幕が誰なのかについて調査が行なわれており、次期主席に決定していて、国内外で今から騒乱を起こしたくない習近平は、いきり立つ軍部に冷静な対応を求めているんだとか(もっとも習近平は、反日デモそのものについては是認しているという)。

  なんで公安が先に立って犯罪行為をしたのかというと、中国の公安局はもともと薄熙来との繋がりが強く、権力闘争に敗れた薄熙来の復権を狙ったらしいです。

  ご存知のとおり、薄熙来は「唱紅」(共産主義革命の原点回帰、すなわち極左主義復活、資本主義的経済体制・改革開放政策の否定)という政治運動を起こし、公安局を使って、「腐敗」(汚職など)を行なったとされる人々を、強引な手法で(←冤罪や捏造事件をでっちあげて)逮捕することで、経済格差、物価の高騰、政治腐敗などに不満を抱いている大衆の支持を得ました。

  そうして現執行部と次期執行部に対立して圧力をかけ、権力の奪取を図ったのですが、現執行部と次期執行部が先手を打って、薄熙来の妻を殺人事件の容疑で逮捕し、それがきっかけになって薄熙来は失脚しました。

  日本でも報じられたように、今回のデモでは、なぜか全国的に毛沢東の写真や薄熙来の名誉回復を訴えた同じスローガンが掲げられたわけです。文化大革命(1966-77)を経験している世代の中国人たちはあの様子を見て、これは今までの反日デモとは違う、文化大革命と酷似している、と直感して戦慄を覚え、自分の子どもたちや孫たちに対して、今回のデモには決して参加しないよう言い含めたそうです。

  反日デモ便乗犯罪の黒幕が誰なのかについて、また面白いニュースが回ってきたら書きますね。

  韓国政府が、日中両国の冷静な対応を望む、的な声明を発表したことにも驚いた、と前の記事に書きました。韓国の人に聞いたんですが、実は韓国も、東シナ海のなんとかという島の領有権をめぐって、中国と争っているんだそうです。

  だから、中立的で無難な意見しか発表できないのだということです。中韓の領土問題は日中の領土問題よりも更に面倒です。中韓が領土問題で大騒ぎすれば、北朝鮮も領有権を主張して出てこざるを得ないし、北朝鮮が出てくれば、今度は朝鮮半島の情勢そのものが不安定になりかねないからです。

  領土問題って、結局は政治の問題なわけです。しかも、単なる面子の問題。庶民にはほとんど関係ない。それなのに、中国、韓国、日本のどこにでも、感情的に煽られてしまう一般の人たちがいる。

  感情的になる前にさ、知っておくべきことや考えておくべきことはたくさんあると思うんです。たとえば、「国有化」という行為は、日本と中国とでは重みがまったく違うこととか。

  中国では、すべての土地が国家のもの、つまり「国有地」です。日本では、私有地がほとんどです。日本の「国有地」といえば、大多数の人は、せいぜい森林だの山だのを思い浮かべる程度でしょ?だから、「国有化」といわれても、日本人にはそんなに重い意味を持つ行為とは思えない。でも、中国人にとっては、「国有化」とはすなわち「国の領土化」です。だからショックも大きかったわけです。

  そういう背景も知っておかなくてはならないし、まして、今回の件だけで、いきなり自衛隊の権限拡大とか、憲法改変とか、そういう宇宙の彼方に話がぶっ飛んではいけないと思いますよ。それは中国人も同じで、尖閣問題を利用して政治権力を握ろうだの、日ごろの鬱憤を晴らそうだの、日本人をリンチしてやろうだの、日本製品ボイコットだの、全面戦争だの、野蛮かつ実現不可能なことを叫んだりやったりしてはいけません。

  私が韓国の人と話していたところには中国の人も偶然いました。最後に三人で、ほんと、しょーもないよねえ、とため息をついた次第。

  で、その後に、中国の人と二人で歩いていたら、顔見知りだけど互いに名前は知らない同僚と出くわしました。その人はとても良い人で、「今回の日中の問題には心配しています」と言いました。そして興味深いことを口にしました。「私は沖縄の出身なんで、中国が領有権を主張する事情も、少しは理解できるんです。」

  私は心中、へえ、それは面白い意見だな、と思いました。詳しく聞こうとしたら、その人は私たち(私と中国人1名)に向かって言いました。「だから、あなたがたお二人のような中国の人々のお気持ちや立場は分かります。しばらくはお辛いでしょうが、頑張って下さいね。」

  この人は私のことを中国人だと思い込んでいる、と分かった以上、私にどんな反応ができたでしょうか。私は「ア、アリガトザイマス」とカタコト日本語で答えるしかありませんでした。

  最後に「またお時間のあるときにでもゆっくりお話ししましょう」とその人は言い、穏やかな微笑を残して去っていきました。

  その人の姿が遠くに過ぎ去ると、中国人は大爆笑。「あの人、あなたのことを中国人だと思っているよ!」

  いずれ「お時間のあるときにゆっくりお話しする」ときになったら、私はどうすればいいのか、日本人だとカミングアウトすればいいのか、中国人のフリをし続ければいいのか、今から悩んでいます。

  冗談はともかく、尖閣諸島の問題について、沖縄や石垣島の人々はどう思っているのか、という視点は、私は考えつきもしませんでした。沖縄の首長である人々はともかく、一般の人々はどう考えているのでしょうか。これはとても重要な問題提起でした。

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