フェデラー伝説(シリーズ開始)

Roger Federer: Quest for Perfection
Rene Stauffer
New Chapter Pr

(Rene Stauffer 著 "Roger Federer Quest for Perfection", 2006)


  わたくしの「フェデラー病」は悪化の一途をたどっておりまして、ついにフェデラーの伝記を読み始めてしまいました。上記のルネ・シュタウファー著『ロジャー・フェデラー ~完璧の追求~』です。

  アダム・クーパーに関しては、今はまったく安心してます。毎日ロンドンで元気に『雨に唄えば』に出演してるだろうし、最近もITV(←地上波)のテレビ番組で、ダニエル・クロスリー(コズモ役)、スカーレット・ストラーレン(キャシー役)とともに"Good Morning"をライブで披露したそうで、順調みたいだしね。

  前に書いたように、今回の『雨に唄えば』の振付とキャストたちのパフォーマンスは本当にすばらしいです。観客の盛り上がり度でダントツで一位なのが"Singin' in the Rain"、同率二位で"Moses Supposes"、"Good Morning"です。だから、"Good Morning"がテレビ放映されて、またお客さんが増えるといいな、と思います。

  ルネ・シュタウファーによるフェデラーの伝記、まだ読み始めたばかりだけど、信頼できるんじゃないでしょうか。

  一つには、著者のシュタウファーは、フェデラーの地元スイスのテニス記者であり、フェデラーがまだ15歳で、周囲からさほど期待されていなかったジュニア選手だったころから、フェデラーをずっと取材し続けていることです。つまり、フェデラーがトップ選手になってから、フェデラーに接近し始めた記者ではないということです。

  二つには、取材源はフェデラー本人と家族、および友人、コーチ、同僚の選手たちなどの関係者で、彼らへの直接インタビューによって構成されていることです。

  三つには、有名人のサクセス・ストーリーにおいては、過去の苦労自慢が必須要素です。波乱万丈はあったけど、でもそれを乗り越えて成功を手にした、彼の挑戦はこれからも続く、的な展開と結末になるのが鉄板です。この伝記もその例に漏れません。

  ただし、この著者は、フェデラーの成功への過程をドラマティックに盛り上げるために、昔の苦労話を後から無理やりほじくり出して紹介しているのではありません。フェデラーの場合、著者のシュタウファーは無理に探さなくても苦労話のネタには困らなかったみたいです(笑)。

  著者の興味は、もうすでにテニス史に名が残る巨大な存在になっているフェデラーが、歴代の名選手たちと違って、どうしてなかなか大成できなかったのかという点にあるようです。その理由を説明するために、フェデラーの苦労、というよりは、フェデラーの性格上の特徴と独特の価値観とが大きな障壁になったことについて述べています。

  四つには、著者が伝記の執筆を申し入れたとき、フェデラー側から一度断られていることです。21歳のフェデラーが2003年のウィンブルドン選手権で優勝した後、著者はさっそくフェデラーに伝記を書かせてほしいと提案したのですが、フェデラーとその両親の回答は「伝記なんてあまりに早すぎる」という至極真っ当なものだったそうです。

  それから数年して、フェデラーの実績と地位とが確固たるものになった時点で、著者は再び申し入れを行ない、それで出版されたのが本書というわけです。

  一方、読むに際して注意しておくべき点は、まず本書はもともとドイツ語で書かれている(原題:"Das Tennis-Genie")ことです。私が読んでいるのは英語翻訳版です。ドイツ語ができる方、ドイツ語を学んだことがある方は、原書を読んだほうがいいと思います。英語版の翻訳の精度にさほど大きな問題はないでしょうが、原書のニュアンスを完全に翻訳できているとは限りません。

  (ちなみに、原題の"Das Tennis-Genie"(テニスの天才)は、シンプルというか素っ気なさすぎるくらいですが、英語版題の"Quest for Perfection"は、逆にこっぱずかしいことこの上ないですな。)

  次に、フェデラー自身、家族、関係者たちへの直接取材に基づいている以上、フェデラーに批判的なことや不都合なことは書けなかったでしょう。大体、著者であるこのシュタウファー本人がフェデラーの大ファンらしいので、記述がどうしてもフェデラー寄りになるのは当たり前です。

  更には、フェデラーが功成り名を遂げた時点では、すべての記憶は美化されて語られたであろうことです。これは著者と取材を受けた関係者全員についていえます。過去に起きたすべてのことが、後の成功に結びついているという予定調和的な結論になるのは、どうしても避けられないでしょう。また、取材を受けた人々の一部は、心中で本当はどう思っていようと、フェデラーを賛美することしか言わなかった(言えなかった)可能性もあります。

  こういうプラス面とマイナス面とを踏まえて、さあ読了めざして頑張るぞ~。

  
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