官製デモの作り方-2

ショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く
幾島 幸子,村上 由見子
岩波書店

 (ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン』。上下巻。生きてくのがイヤになるような現実が書いてありますが、世界で今何が起こっているのか、日本がこれからどうなろうとしているのか、中国がなぜこんな状態になってしまったのかがよく分かる本です。)


  じゃあ、一部の反日デモで発生した、暴徒による破壊だの略奪だの放火だのも中国政府の命令か?というと、命令ではなく、中国当局の想定内ギリギリの事態か、もしくは想定内の事態をいささか超えてしまった、「ちょっと想定外の事態」と捉えていいと思います。

  数年前から、組織化されていない人々がデモに加わるようになりました。たまたまデモに出くわして、またネットでデモ情報を知って混ざり込んだ、つまりは便乗組です。今回のデモで、破壊、略奪、放火といった行為をしたのは彼らです。

  映像を観た限りでは、20代~40代前半の人々が多いようでした。個人的には、彼らは学歴が低く、知識や教養もなく、ついでに真面目に働く気もない無職の若者がほとんどだったのではないかと思います。地元民の無職者なのか、それともよそ者で都市に流れ着いたものの、まともに働いていない連中なのかまでは、ちょっと分かりません。

  日本のメディアは同じ映像ばかりをくり返し放映しています。このことから、あのような犯罪行為はごく少数で、極めて限定的なものだったと考えていいでしょう。

  ああいう映像を何度も放映し、日本人の反中感情を煽るような報道を行なうのは、なんだかなあ、と思うと同時に、中国政府にある程度の圧力をかけられるかもしれない、とも感じます。

  中国のデモがすべて官製であることは周知の事実です。今回、中国人による明らかな破壊、略奪、放火行為の映像が撮影されたことで、日本のメディアはこぞって、中国当局が国民を制御できなくなっていると言っています。

  また、中国のことをよく知らない人々があんな映像を目にすれば、中国人は野蛮である、経済大国である中国は、道徳面ではいまだに立ち遅れている、という感想を抱くのは当たり前であり、中国に対する悪いイメージが民間レベルで広まることにもなります。

  しかも、「破壊、略奪、放火」は、中国ではアヘン戦争での欧米列強連合軍、日中戦争での旧日本軍の蛮行の象徴とされています。中国政府が非難してきた列強や旧日本軍と同じ蛮行を、今度は中国人が、しかも民間人がやったということになると、中国政府の面目は丸つぶれです。

  (あの一連の犯罪行為は、共産党内の権力闘争の一部ではないかという報道が出ました。共産党内の現執行部、また次期執行部に対立する派閥が、現執行部と次期執行部への批判を惹起するため、デモに乗じて故意に引き起こした事件かもしれないという説です。もちろん私には分かりませんが、ありうる話だとは思います。)

  昨日あたりから、今まで沈黙を守っていた各国が、いきなり見解を発表し始めました。中国側の過激な行動に批判的である一方、日本の冷静な対応、特に日系企業、工場、日本関連の商店が、さっさと休業してトラブルを事前に回避する対応をとったことを評価しています。

  最近、「竹島問題」であれほど日本と揉めたばかりの韓国でさえ、非常に客観的で中立的な意見を発表しました。

  韓国に対して悪感情を拭いきれない人もいるでしょうが、あの「竹島」騒動は、日韓首脳の政治的な思惑(各々の国内での支持率を回復させたい、もっと深刻で重要な問題から国民の目を反らせたい)が一致した、出来レースの茶番劇だったということを、韓国の冷静なコメントは示していると思います。

  反日デモを全国で起こすことは、中国政府にとっては真っ先に踏まざるを得ない手順でした。しかし、尖閣諸島の日本による国有化は公開もされずに行なわれたので、政治的な問題としての重要性のいかんに関わらず、ヴィジュアル的には何のインパクトもありませんでした。

  一方、中国で起きた大規模な反日デモと、デモの中で発生した暴力行為と犯罪行為は、目に見えるものだけに大きな衝撃を与えることになりました。

  日本と中国との尖閣問題への対応が与えるイメージの違い、またこの問題に対する両国民の関心と態度の温度差が、中国に不利な結果をもたらしたということです。

  また、デモの矛先は、日本ばかりでなく、他の国にも及び始めたようです。不思議に思われるかもしれませんが、これも中国ではよくあることなのです。たとえば、最初は反米デモだったのが、いつのまにか反日デモに変わったことも以前にありました(ちなみに日本は何もわるいことはしてなかった)。

  中国政府がデモの禁止に転じたのは、このままデモを放置すれば、デモと暴力行為の標的が他の国々に、最終的には中国政府にまで広がることが分かりきっているからです。

  今、友人を通じて、中国国内と国外にいる中国人・日本人からの情報がたくさん来ています。

  中国に進出している日本以外の外資系企業も、今回の件で影響を受けているようです。今度は自分の国の番ではないか、と恐れているらしいです。

  中国政府はもちろん、外資系企業のこうした危惧に気づいています。外国資本に撤退されたら、中国経済は終わりです。中国政府がデモを禁止したのは、このせいでもあります、いや、まさにこのせいでしょう。

  反日デモのスローガンに「日本製品をボイコットせよ」というのがありました。しかし、これを実行するのがどだい無理なことは、中国人はよく分かっています。今の日本で、中国製品をボイコットするのが無理なのと同じです。苦悩と葛藤に陥っている中国人が多いらしい。

  「ウチにある家電、全部捨てなきゃいけないじゃん!」、「日本ブランドでも、中国の工場で作られた製品は日本製品に入るのか?」、「日本製の部品を中国で組み立てたものはどうなるんだ?」、「日本製の部品と中国製の部品とが混ざったものはどうすればいいのか?」という意見がほとんどです。ある中国人は「100年前の革命スローガンを今の時代に実行しろってのが、そもそも無理なんだよ」と呆れてました。  

  ウチの姉は「戦争になるのか」などと心配してましたが、中国は軍事行動を起こせません。中国が抱えている領土問題は、尖閣諸島だけではないですから。たかがあんな「小さな島」のために軍事行動なんか起こしたら、中国はそれこそ世界中を敵に回すことになります。今は中国寄りである国々も、中国を警戒するようになるでしょう。

  大多数の日本人は尖閣問題への関心が薄いです。これは結果的に、日本に良いほうに働いています。日本人が、この問題のせいで、中国に感情的に反応しないこと、また日本に滞在している中国人に絡んだり、暴言を吐いたり、暴力行為に及んだりしないことこそが、日本にとってプラスになるのだと思います。

  今回の「尖閣」騒動は、結局は中国の国内事情によって引き起こされた問題なんです。中国政府が対処すべきであり、日本が大騒ぎする必要はありません。

  でも、日本政府は意外と、今回の反日デモのおかげでずいぶんと助かったのではないかと推測します。反日デモの陰に隠れる形で、日本国民に注目されては困ることがほとんど報道されなかったから、難局を乗り切れたのではないですか?

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