官製デモの作り方-1


  ウチの姉(アメリカ在住)から、「なんか日本が、韓国や中国と小さな島をめぐって揉めてるそうだけど、戦争になるの?」というメールが来ました。

  アメリカのテレビのニュースでは、今のところ「竹島問題」や「尖閣問題」はまったく報じられていないそうです。しかし、日本のウェブでの報道を見て、姉は心配になったらしい。

  姉の脳内ではすでに有事になっとるんかい、とこっちが仰天しました。しかし、姉がそう思い込んだということは、日本のメディアも限定的な内容しか報じていないってことです。姉には、まったく心配する必要はないと書いて返信しました。

  中国の「反日デモ」についてですが、ひょっとしたら、以前の記事にすでに書いたことがあるかもしれません。重複してましたらすみません。

  まず、中国で起こるデモはすべて官製デモ、つまり中国政府の指示によって組織・実行されたデモです。中国政府の報道官はよく「市民の自発的なデモ」と言いますが、それはありえないです。

  香港特別行政区を除いた中国では、市民によって自主的に組織されたデモが行なわれることは決してありません。

  仮にデモを申請したところで、当局から許可が下りることは絶対にないです。大体、デモを申請した時点で、すでに当局の「反体制的危険人物ブラック・リスト」入りが決定です。一旦ブラック・リストに載ってしまうと、公安警察による随時監視、行動の制限という一生が待っています。

  しかし、ごくまれに、人々が自主的に組織した抗議活動が発生することもあります。でもそれは「デモ」ではなく、「騒乱」とか「暴動」とかいう扱いになり、公安警察、武装警察、甚だしい場合には人民解放軍によって武力鎮圧されます。

  現在、中国全土で発生しているという反日デモは、もちろん中国政府の命令によって行なわれています。だから、同じ時期に一斉に起こり、同じスローガンが用いられているわけです。

  デモに参加した中国人たちから聞いたところによると、中国における官製デモは、大学生を利用するもの、勤め人を利用するもの、デモのために臨時に雇った人々を利用するものの三種類が主です。

  まず、大学生の場合です。中国政府がデモに大学生を利用する主な理由は、1919年の五四運動以来、大学生によるデモを「民主的な政治運動」として象徴化していること、一度に大量の人数を動員できること、まだ子どもで世間智がないため煽りやすいこと、しかし大学生だけに頭が良く理性的なので、過激な行動に走りにくく、制御が容易であることです。

  中国当局からデモ組織と実行の指示を受けた人物が、その指示を連絡役の一部学生たちに伝えます。連絡役の学生たちは、メールやマイクロブログ(いわゆる「中国版ツイッター」。中国では香港以外、Twitterは利用できない)を通じて、何月何日何時にデモを行なう、ついては当日何時にどこそこに集合、といった情報を全学生に拡散します。

  学生たちのほとんどはデモに参加します。たとえ本心では嫌でも、自分だけ参加しないのは気まずいから、また、学生たちにとって、デモはすごい娯楽というか、超楽しいお祭りであるからです。

  横断幕をもって愛国的、反日的なスローガンを叫んだり、日本の国旗を焼いたり、日本の首相の写真にイタズラ書きをしたりしている学生たちは、本気で怒っているとは限りません。怒っているとしても、楽しくて怒っている、つまりデモを通じて日ごろのストレスを発散している面が大きいように思います。

  大方の学生たちは、形だけ拳を振り上げてスローガンを叫びながら、実際にはデモとは関係ないおしゃべりに興じ、飲み食いを楽しみます。そしてデモが終わると、けろりとして日本語の勉強に取り組んだりするのです。

  というわけで、本心から反日的な感情を持ってデモに参加している学生は、ほとんどいないと考えていいと思います。反日的な感情を持って、反日的な言動をとっているとしても、それは彼らの日常生活や人生に何か不満があって、それを反日感情によって紛らわせている、反日的な言動によって日ごろの鬱憤を晴らしているのでしょう。

  次に、いくつかの会社・企業の勤め人たちを動員したデモです。これは大学生を動員したデモとシステムはほぼ同じです。しかし、酸いも甘いも噛み分けた社会人だけに、これも世間の付き合いだ程度にしか考えていませんから、明らかにやる気がありません。従って、過激なことは端からやるはずもありません。

  日本メディアは、行進しながら笑っている、スマホで写真を撮っているデモ参加者がいることを、驚きのニュアンスをもって報道していますが、別に驚くことではありません。あれが自然な姿です。

  最後に、臨時雇いの人々によるデモです。彼らはお金で雇われたデモ要員です。おおかたは失業者(特に国営企業を解雇されて再就職できなかった人々)か無職者、チンピラやヤクザの類でしょう。だから一見してガラの悪い連中が多く、やることも過激というか大仰です。

  しかし、彼らはしょせん当局に雇われた人々で、しかも当局の工作員がデモ隊の中にまぎれこんでおり、一緒に騒ぎながら彼らを監視・制御しています。従って、当局が指示した以外のことはできませんから、結局は大した騒ぎは起こしません。
  
  テレビやネットでデモの映像と画像が映ったときに、デモ参加者の数と見た目に注目してみると、大学生、勤め人、臨時雇いの人々のどれを動員したデモかは、大抵見分けられます。

  明らかに人数が大量で、10代後半~20代前半らしい若者が目立つ場合は大学生を使ってるデモです。人数が少なく、20代後半~40代前半の人々が目立つ場合は、勤め人か臨時雇いの人々を利用したデモです。行動がおとなしめで身なりがこざっぱりしてる場合は勤め人、行動が大げさで過激に見える場合は臨時雇いです。

  ちなみに、ちょっと前に台湾と香港の「活動家」が尖閣諸島に上陸した事件が起こりましたが、彼らは「活動家」なんぞではありません。見た目からして「カタギ」じゃないです(笑)。中国当局とつながりのある「その筋」の人員です。同行取材していた香港のフェニックス・テレビ(鳳凰電視台)は、北京の中央政府系メディアです。

  今回の反日デモでは、混成チームもあったように見受けられます。デモ隊の最前列で横断幕やプラカードを掲げ、激昂した様子でスローガンを叫び、日本国旗を焼き、ペットボトルや果物の種を投げつけるなど、いかにも分かりやすい過激な行動をしていたのは臨時雇いの人々と本物の工作員で、大学生や勤め人たちは、その後ろで適当に合わせていたか、遊んでいたのだろうと思います。

  中国の一般市民は、今回の事態を冷めた眼で見ているはずです。特に、デモやデモに付随して起きた破壊、略奪、放火行為に対しては、ほぼ全員が批判的な意見を持っているでしょう。

  以前、中国全土で今回と同じような大規模な反米デモ(大学生主体)が起きたとき、マクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンの店舗が多く破壊されました。私はたまたま乗ったタクシーの運転手に意見を聞いてみました。タクシーは密室だし、乗客が外国人だけだと、中国人も本音を言いやすいのです。彼はあきらめたような口調でこう言いました。

  「学生たちは物が分からない(世間を知らない)から、店を壊したら、仕事を失うのは中国人、修理する金を払うのも中国人だ、ということが分かっていないんだよ。損をするのは、結局は中国人なんだ。」

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )